世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) チリにおける日本語教育

サンチャゴ大学
林雅子

サンチャゴ大学の写真
サンチャゴ大学

チリにおける日本語教育専門家の業務は、派遣先機関であるサンチャゴ大学での仕事と、それ以外での仕事との二つに大きく分けられます。着任し、授業が開始してからまだ3ヶ月ですので、ここでは、主にサンチャゴ大学における仕事を中心にチリにおける業務内容を紹介し、今後の活動の抱負を述べたいと思います。

サンチャゴ大学は、南米スペイン語圏で唯一、日本語を専門に学べる大学機関です。着任前は、南米ラテン系の明るいノリを想像していましたが、初回の授業では、恥ずかしそうにはにかむ可愛らしい笑顔に迎えられました。チリは北が砂漠、東がアンデス山脈、西と南が海に囲まれているため、島国である日本と非常に似たところがあると言われています。そのためか、日本で外国語を話すのが苦手な人が多いように、チリでも外国語を苦手とする人が多いようです。授業中はあまり日本語を使って話したがらないおとなしい学生が多いです。チリでは、日本語を聴いたり、話したりする機会がほとんどないため、授業ではできるだけ生の日本語に触れる機会を多く作るようにしています。

LL教室(日本国政府の一般文化無償資金協力による支援)の写真
LL教室(日本国政府の一般文化無償資金協力による支援)

日本語分野が属する当翻訳課程は人気が高く、例年、優秀な学生が入ってきます。特に日本語の人気が高いようです。1995年に、日本政府及び国際交流基金の支援を受けて開講された当翻訳課程は、現在、9期約210名の卒業生を送り出してきました。専任及び非常勤の先生方は、学生からの評判もよく、授業や行事に非常に熱心です。またチリ教育省からも高く評価されています。しかし、2000年より、これまでの英語と言語学の他に、1、2年次にポルトガル語も必修として加わったため、日本語の授業時間数が減ってしまい、それが学生の日本語力に影響を与えています。カリキュラム改訂は必須課題であり、2002年より国際交流基金の日本語教育専門家の派遣が要請され、3代にわたって、改訂作業に携わってきました。なかなか実施されなかったカリキュラム改訂がようやく本格的に動き出し、今は、日本語分野の会議で原案の修正作業を行っています。カリキュラム改訂作業の支援と実現への働きかけ、及び、現地化・自立化を目指して新カリキュラムを軌道に乗せることが、当派遣専門家に課せられた第一の課題です。また、先生方の教案・試験問題作成へのサポート、学生からの質問に対するアドバイスなども重要なC務の一つです。

授業は5年生の「日本語」と4年生の「作文」を担当しています。日本ではこれまでずっと時間通りに始まり時間通りに終わるという授業方針でやってきましたが、チリでは時間厳守を嫌がる人が多いと、初回の授業方針説明のときに学生から言われました。しかし、出欠の時間を有効利用して、授業開始と同時に10分だけ日本文化紹介の『しばわんこの和のこころ』や日本のドラマやアニメのDVDを見せるようにしたところ、熱心な学生たちは早く教室に集まってくるようになりました。8時開始の朝一の授業でさえ、開始時間前に教室の前で待っている学生たちもいます。出席を取り終わり、DVDを途中で止めるときには、「あぁ~」という落胆の声が聞かれるほどです。

こうした背景には、日本のポップカルチャーのチリにおける需要の高さがあります。スペイン語に吹替えた日本のアニメを一日中流しているケーブルテレビやスペイン語に翻訳した日本のマンガ・ゲーム・DVDを扱っている専門店もあります。中にはインターネットを通して日本語のまま視聴し、自ら生教材として利用して、高水準の日本語能力を身につける熱心な学生もいます。

アニメソングやJ-POPを丸暗記して熱唱する学生たちに出会い、聞けばまだ初級のクラスで歌詞の意味もまるでわかっていないとのこと。暗記した歌詞と同じ文型が今後授業中にテキストで見つかると、生きた日本語として一層身についていくことが予想されます。

メディア教材を駆使して、生の日本語に触れさせる機会を多く作ることで、日本語学習へのモティベーションを高め、熱心で優秀な学生たちの日本語力を一層向上させていきたいと考えています。

日本語専攻の学生によるチリの民族舞踊の写真
日本語専攻の学生によるチリの民族舞踊

サンチャゴ大学以外での仕事は、チリ日本語教師会の側面からのサポート、弁論大会への協力、留学生や成績優秀者研修選抜の手伝いなどです。教師会の先生方には、学習者からの質問に関する相談に回答したり、メーリングリストを通じて情報を提供したり、教材の貸し出しをしたりしています。チリ全体でもメディア教材志向が高まっており、国際交流基金作成教材である『エリンが挑戦!日本語できます。』の貸し出し希望も多いです。

日本語能力試験についての問い合わせも増え、受験希望の学習者も増加しています。チリでは日本語能力試験が行われていないため、中にはペルーやアルゼンチンに行って受験する学習者もいます。

今年の国際交流基金学習者訪日研修の選抜試験には、去年の倍以上の学生が受験しました。日本語教育機関及び日本語を選択科目で教える機関も増えてきていますし、幸いなことに、学習者も増加傾向を見せており、チリ人の日本語教師も育ってきています。地方で新設された教育機関や新しい先生方が情報的に孤立しないためにも、今後は、サンチャゴ市内のみならず、チリ共和国全体を対象にした「日本語教育ネットワーク」を構築していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
   及び業務内容
南米スペイン語圏で唯一の日本語専攻課程であることから、チリ国内のみならず中南米における日本研究者、知日家を育成する重要な拠点として在チリ日本大使館をはじめ各方面から注目され、重要視されている。日本語教育専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム、教材作成に対する助言、現地教師の育成等を行うと同時に、その他の教育機関の日本語教師への協力、ネットワーク作りも行う。
ロ.派遣先機関名称 チリ・サンチャゴ大学
University of Santiago of Chile
ハ.所在地 Avenida Libertador Bernardo O'Higgins 3363, Santiago, Chile
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部言語文学学科翻訳課程
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1993年から
専攻:1995年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年から

(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人2名)非常勤4名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年50名 2年50名 3年25名 4年20名 5年25名
(2) 学習の主な動機 日本文化への興味、英語以外の外国語への興味
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、英語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3~2級程度
(5) 日本への留学人数 1名、短期研修2名

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