世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 香港の日本語教育ネットワーク

在香港総領事館
山口敏幸

1.香港の日本語教育機関と日本語学習者数

日本語学習熱が非常に高い当地香港においては、現在7大学で日本語教育が行われている。そのうち、香港大学、香港中文大学の2大学には日本研究学科があり、香港城市大学、香港理工大学では主専攻として日本語教育が行われている。民間の日本語教育機関は、現在把握できている数としては60校ほどであるが、無許可の教育機関等も含めるとその数は相当数にのぼるものと思われる。学習者数については、最低でも1万人はいると言われているが、これもまた実数は現在のところ把握できていない。

2.香港の日本語教育の問題点

多くの日本企業が進出し、日本人観光客が年間を通して訪れる当地香港は、もともと日本食やファッションなど、日本の大衆文化が根付いていたが、近年日本のアニメやドラマ、音楽などの受容を目的とした日本語学習が若年層に広がったことにより、特に民間日本語学校における日本語教育が盛んになってきている。ただし、そうした需要に応えるため、日本語教師の粗製濫造が行われるという新たな問題が生じており、こうした「にわか教師」の日本語教育に関する知識、技術を底上げすることが急務となっている。また、大学における日本語教育は、当局による日本語課の予算削減に伴う教員の削減により、残った教員の担当コマ数が増加され、質の高いクラス活動が維持できなくなるという、民間における日本語教育とはまた違った意味での問題を抱えている。

3.日本語教育アドバイザーの役割

上記のような問題点を抱える香港の日本語教育に対して、現在日本語教育アドバイザーが行っている主な活動は、香港の日本語教育事情の調査と、香港の日本語教育のネットワーク作り及び各種日本語教育支援である。

日本語教育事情調査は、ネットワーク作りと教育支援のための基礎資料の収集という目的で行っている。各種広報資料によって情報を得るほかに、日本語教育機関に直接出向いて、聞き取り調査を行うこともある。しかし、冒頭でも述べたように、すべての教育機関の資料を収集するまでには至っていない。

日本語教育のネットワーク作りとしては、現在香港の日本語教育界の唯一のネットワークとして存在する香港日本語教育研究会の活動に対する支援を中心に行っている。研究会の活動にアドバイザーが積極的に関わり、全面的にバックアップすることによって、研究会の活動を活性化させ、香港全体の日本語教育のネットワークの強化とレベルの底上げをはかるのが目的である。

アドバイザーが赴任する前の研究会の活動は、「若手教師育成の研究会から論文発表の場に変質」(前派遣専門家報告)してしまったことによって、特に民間教育機関の教師の「研究会離れ」が進み、毎月一回開かれる月例会には10名そこそこの参加者しか得られないという状況に陥っていた。その背景には、大学当局から評価のための論文の提出を求められている大学教員の苦しい事情もあったようだが、アドバイザーが赴任後、研究会の幹部と相談の上、こうした状況の打開策として、現場の教師が日頃抱えている問題をテーマとした「日本語教育ワークショップ」を月例会に導入することになった。このワークショップは、全員参加型の討論を通して、教育上の問題点を少しでも解決し、明日からの授業に役立てようというもので、去年から今年にかけて行った二回には、どちらも40~50名の参加者を得、一定の成果を収めることができた。今後は、個別のテーマのほかに、「私の工夫・私の失敗」というテーマでも発表者を募り、できればシリーズ化していきたいと考えている

ワークショップと共に、今後導入を検討しているのが、研究会主催の「日本語教師研修会」である。経験の浅い教師を対象に、日本語教師に求められる基礎的知識と技術の習得を目的に、ある程度長期にわたって研修を行うことを検討している。

4.今後の課題

98年以降、香港の日本語能力試験の受験者数が数百人単位で増えていることから見ても、香港の日本語学習者は今後も増え続けていくと予想される。日本語学習者が増えていくということは、単純に考えれば日本語教師も増えていくということである。香港の日本語教育のネットワークの強化とレベルの底上げという点から言えば、こうした増え続けていく日本語教師をいかに研究会活動に引き入れていくかということが今後の大きな課題になるものと思われる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 基金は1973年より在香港総領事館広報文化センター日本語講座に専門家を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたことに伴い、2001年7月より同総領事館に専門家1名を派遣している。当該専門家は総領事館付日本語教育アドバイザーとして、香港およびマカオの日本語教育機関を訪問し調査を行うほか、香港日本語教育研究会の活動支援を通じた教師研修やネットワーク形成促進を行っている。また、香港日本文化協会日本語講座にも教務面で協力している。さらに、広州で行われた日本研究・日本語教育講演会に出講するなど、その活動範囲は拡がりつつある。
ロ.派遣先機関名称 在香港日本国総領事館
Consulate-General of Japan at Hong Kong
ハ.所在地 46/F, One Exchange Square, 8 Connaught Place, Central, Hong Kong
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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