世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 派遣先からの再派遣

中国黒龍江省教育学院
田邉知成

中国ハルピンにある黒龍江省教育学院に派遣されて1年10ヶ月、残りの任期もあと僅かとなりました。教育学院というのは小・中・高等学校教師の再教育や教育研究を目的として設立された「学校」ですが、その性格は多分に行政機関の役割も果たしていて、各校の校長や教師に対する監督指導のほか、高校入試問題の作成などもおこなっています。各市・各県に下部組織があって、省教育学院はそれらを統括する立場にあります。

わたしはこの黒龍江省教育学院で、日本語教育を担当する専門員(中国語では教研員)とともに現職教師に対して助言・指導をおこなう立場にいるのですが、現在ハルピン市内には日本語教育実施校が少なく、また、この省教育学院は現場から距離を置く管理組織で、ハルピン市の学校はハルピン市の教育学院が直接指導しているという事情も手伝って、最初の1年間はときたま出張指導をおこなう以外はほとんど仕事がない状態でした。

さすがにこれではいけないということで、基金のほうから特別な許可をいただき、「派遣先からの再派遣」という形で、省内の別の地域に出してもらえるようになりました。昨年の9月からは牡丹江郊外にある寧安市というところに常駐し、1学期間という時間をかけて市内の6つの日本語教育実施校(中学2・小学4)を巡回しました。

この派遣の主な目的は、この地域で今年度(中国の学年度は9月から)から開始された小学校日本語教育に対して支援をおこなうことです。中国では現在、小学校での外国語課目の導入を推進しているのですが、わたしの同僚である省の日本語専門員はこれを機に小学校で日本語教育を普及させ、省内から日本語の火を消すまいと努力しています。ですが、英語教師が確保できる都市部の学校はほとんど英語を始め、日本語を実施するのは農村部の、しかも少数民族である朝鮮族の村に限られています。

当然ながら農村部の小学校では、日本語を専門に履修した教師などおらず、非専攻の教師が日本語を担当しています。もちろん、外国語教育の経験もありません。はたしてこの地域の小学校での日本語教育がスムーズに軌道に乗るかどうかは、当初から心配されていたところでした。

今回わたしが訪問した4校の小学校もすべて郊外の朝鮮族の村です。同じ朝鮮族の小学校でも市の中心部にある寧安市朝鮮族小学校では英語を始めました。わたしは、日本語を始めた4校の小学校にそれぞれ1週間滞在し、日本語担当の教師に対し1対1で指導をおこないました。小学校の日本語は通常4年生に対し週2回2時間の授業が組まれているのですが、わたしの訪問時は各校特別に毎日1時間、週5回の日本語授業を組んでもらいました。現地の教員が日本語教育のノウハウを有していないため、こちらから授業方法のモデルを提示し、まずやりかたに慣れてもらうことを目標として指導をおこないました。

会ってみると、どの教師もほとんど日本語が話せず、当初はたいへん心配したのですが、実際にいっしょに教案を考えたりして、授業をやらせてみると、どの教師も思ったよりもいい授業をやってくれました。最初に授業を見学させてもらったときはかなりぎこちないものでしたが、要は外国語教育の方法論についての知識と経験がまったくないだけで、小学校の教師としてはさすがにプロです。こちらからモデルを提示してあげると、実に素晴らしい授業を見せてくれました。むしろ中学校などではこちらが助言しても、なかなか伝統的な教授法からの転換が難しいのですが、逆に小学校ではノウハウがない分、こちらの意見をすんなりと消化して授業の中で見せてくれました。

どの村もレストランもないほどの小さな集落で、宿泊は農家にホームステイという生活です。朝鮮族のオンドルの上にホストファミリーと川の字になって寝ました。どのホームステイ先でも、わたしのために犬をさばいてくれたりして歓迎してくれました。通常ではなかなかできない体験ができ、わたしの2年間の活動のなかでももっとも印象に残る活動となりました。

この都合4週間の小学校訪問以外は寧安市の中学校に常駐する形で教師・生徒に対する指導をおこないました。春節休みをはさんで今学期からはハルピン郊外の阿城市というところに滞在しています。やはり朝鮮族の中学校(中・高一貫校)に常駐して、高校生の会話授業を担当するかたわら、教師勉強会を実施したり、教師たちの質問に答えたりしています。省教育学院からの「再派遣」という形でハルピンを離れてから、ようやくやるべきことが見つかったと感じています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 中国には基金北京事務所に日本語教育アドバイザー1名を派遣しているが、広大な国土を有する中国で日常的な支援を行うためには地方に駐在する必要があるため、中等教育で日本語教育が盛んな東北三省のうち、吉林省、黒龍江省の教育学院(初中等教師研修等の事業を行う公的機関)に2001年より青年教師を派遣している(2002年7月からは遼寧教育学院にも派遣開始)。青年教師は省の教研員(日本の指導主事に相当)と協力しながら、機関訪問を通じた情報収集、巡回指導、教師研修会・セミナーの開催、コンサルティングを行うほか、勉強会に講師として出席する等により、省内教師のネットワーク形成支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 黒龍江省教育学院
Heilongjiang Institute of Education
ハ.所在地 中国哈爾浜市南崗区和興路133号
ニ.国際交流基金派遣者数 青年教師:1名

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