世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 遼寧省における日本語教育支援活動

遼寧教育学院
青年日本語教師
稲田登志子

大連市中高校教員研修会の写真
大連市中高校教員研修会

遼寧教育学院は遼寧省の初中等教育の研究と教員研修のための高等教育機関である。10年ほど前から三年制の専門学校も併設し、高校卒業の若い学生の教育も始めた。

私は2002年7月から学院の初代青年日本語教師として派遣され、外語研訓部に所属し、学院の授業を担当しながら、同じ部署の日本語教研員や朝鮮民族教育部の日本語教研員とともに初中等教育における日本語教育支援の活動を行っている。(日本語教研員:日本の教育委員会の指導主事に相当し、教員指導、教材作成などを行う。)

1998年の国際交流基金の調査によると、中国の日本語学習者の約半分である約116,000人が小学生と中高校生である。遼寧省では現在約150校の初中等教育機関が日本語教育を実施していて、全国では吉林省に次ぎ、二番目に多い。そのうち100数校が中高校であり、

都市部より農村部に実施校が多い。日本語を実施している小学校は大連市郊外の金州区や旅順区に多く、約5,000人の小学生が日本語を学んでいる。

従来、東北部は満州国として、日本に統治された時代があり、日本語ができる人材は豊富だったが、英語ができる者が少なかったため、日本語教育を実施する中高校が多かった。しかし、現在は都市を中心に英語ができる教師が増え、国際化によって、英語熱が高まり、英語教育を実施する小学校が増え、英語圏へ留学を希望する者が増えてきた。また、コンピューターの普及により、英語教育が重視されてきた。受験科目として、英語だけを実施する大学が増えたため、日本語を選択すると志望大学の選択の幅が狭められる。現在は保護者や学生が英語教育の実施を強く希望するようになってきた。

以上のようなことから、都市部の漢族の学校を中心に日本語教育を実施する中高校は減少している。

桓仁県朝鮮族中学の写真
桓仁県朝鮮族中学

一方、朝鮮族学校や阜新県蒙古自治区の中高校などの民族学校で日本語教育に力を入れている学校が多い。朝鮮族と蒙古族にとって、日本語は英語より勉強しやすい外国語であり、受験に有利なことや英語教師が少ないという理由から日本語学習が盛んである。しかし、最近は特に朝鮮族学校で英語クラスのほうが日本語クラスより多いという学校や日本語を英語に変更する学校も出てきた。

第一外国語としての日本語学習が減少した今、漢族の学校では第二外国語としての日本語を継続している学校もある。受験の選択科目は英語とし、週に2,3時間の日本語教育を実施している。しかし、民族学校では母語である朝鮮語やモンゴル語、国語である中国語と外国語を勉強しなければならないので、二ヶ国語を学習することは学生の負担になり、時間的にも難しい。

また、外国語学校など日本語を専門に教えている学校もあり、卒業後は提携している日本語学校で勉強した後、日本の大学へ留学することを目的としている。

昨年度は各地の現状把握のため、現場の巡回指導を中心に活動を行ってきた。各地に出張し、市内や近郊の市を日帰りで廻り、日本語教員の授業を見学し、指導したり、模擬授業を行ったりした。各地には市、県(日本の郡にあたる)、区の教師進修学校がある。巡回指導の時は各地区の教研員とも会い、地区の状況を聞いた。

また、外部の研修会で講師をしたり、派遣機関の研修会を企画し、講師をしたりもした。省教員授業コンテストも行った。

中高校の教材作成としては、2003年度の高校受験、大学受験の模擬試験問題を作り、人民教育出版社の依頼により、高校教科書の練習帳の作成を行っている。

瀋陽市内には約30名の日本人日本語教師がいて、月一回の会合で情報交換を行い、年一回の瀋陽弁論大会の企画、運営を中心に活動している。青年教師は弁論大会実行委員として、中心的に活動してきた。

遼寧省では小学校での日本語教育にも力を入れており、日本語教研員が1月から3月まで基金の教材作成フェローシップを受けて、日本に滞在し、小学校教材の三巻、四巻を作成した。現在も作成中であり、青年教師は教材作成を協力していて、2003年度は教師用指導書の執筆も協力する予定である。

日本語教員のレベルの差は大きく、大学や師範学校で専門だった者もいれば、第二外国語としてや中高校で学んだだけという者もいる。農村地区の教員のレベルは低く、普段、日本人と接する機会は全くない。そのような所に行き、日本人日本語教師が教授法指導をし、中国人教師と交流するのは大変貴重なことである。研修会で行った教授法が実際の授業の中で生かされているのを見ると、この仕事に大きなやりがいを感じる。

今年度は小学校教材作成の協力と瀋陽での教員研修会の実施を中心に、教研員と協力し

日本語教員の教授法能力の向上と日本語教育の推進のために活動していきたいと思う。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
中国には基金北京事務所に日本語教育アドバイザー1名を派遣しているが、広大な国土を有する中国で日常的な支援を行うためには地方に駐在する必要があるため、中等教育で日本語教育が盛んな東北三省のうち、吉林省、黒龍江省の教育学院(初中等教師研修等の事業を行う公的機関)に2001年より青年教師を派遣し、2002年7月からは遼寧教育学院にも派遣を開始した。青年教師は省の教研員(日本の指導主事に相当)と協力しながら、機関訪問を通じた情報収集、教材作成、巡回指導、教師研修会・セミナーの開催、コンサルティングを行うほか、勉強会に講師として出席する等により、省内教師のネットワーク形成支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 遼寧教育学院
Liaoning Institute of Education
ハ.所在地 中国遼寧省瀋陽市皇姑区崇山路46-2号
ニ.国際交流基金派遣者数 1名

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