世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 大きな変化の中で

吉林省教育学院
長山由美子

吉林省の中等日本語教育事情

中学校でおにぎり初体験の写真
中学校でおにぎり初体験

赴任地、吉林省は、その省都長春市が旧満州国の首都でした。タクシーに乗ると、「この道は日本が造ったんだよ」などと運転手が話しかけてくることがあります。ご存知のとおり、歴史的背景により、かつて吉林省では日本語が話せる人材が豊富でした。しかし、戦後半世紀以上が過ぎた今、時代とともに大きな変化がおとずれています。

ほんの数年前まで、吉林省には日本語を第一の、そして唯一の外国語として学ぶ中学・高校がたくさんありました。特に、朝鮮族中学(注)では、彼らの母語と日本語に類似点が多く、学びやすいということもあり、日本語を学ぶ学校が多くありました。中学・高校で日本語を教えている教師の中にも、「大学での専門は経済でした」というふうに、日本語は中学・高校で習っただけだという人がたくさんいます。

しかし現在、グローバル化の波が押し寄せ、小さな町にもインターネットカフェ(コーヒーは飲めませんが)が並ぶようになり、コンピューターが使えることが当然の世の中となりつつあり、英語を学ぶ必要性が叫ばれ始めました。その結果、大学入試で英語を学んでいない生徒は大学の選択が限られるという、日本語学習者にとって不利な状況が作られてしまいました。

一方、国家教育部により新しい学習指導要領が制定され、それに準拠した中学校1年生の新しい日本語の教科書が、2003年9月から使用され始めました。新学習指導要領は、日本語という言葉を学ぶ以外に、日本語学習を通して学ぶものも重視しています。例えば、協調性や国際視野などの情感態度、文化的素養、そして効果的な学習のための方策である学習ストラテジーなどです。「人間形成のために」という新たな視点を得た中国の中等日本語教育は、これからその姿を大きく変えていくことと思います。

(注)中国には、自民族の言葉を使って授業をする民族学校というものがあります。例えば朝鮮族中学(中学校を「初級中学」、高校を「高級中学」と言います)では、朝鮮語で授業が行われ、その他に漢語(中国語)と外国語を勉強することになります。

青年日本語教師の仕事

巡回指導先での写真
巡回指導先で

私の派遣先は吉林省教育学院という機関で、私はその中の中学部に所属し、日本語担当の教研員(教育を研究し現場の教師を指導する職)1名を同僚として働いています。吉林省の中等教育(中学・高校)の日本語教師の支援がその主な活動の内容です。

青年日本語教師派遣は2001年に始まりました。それまで、省教育学院主催で行っていた活動といえば、主に模擬授業発表会の類や論文発表といった形のもの、研修会は指導要領や教科書についてのものでした。

現在は、新教科書の使い方を考えることを中心とした研修会を行っています。そこで紹介したゲームや教え方を、参加者が各学校に持ち帰り、授業で実行しているのを見るときが、この仕事で一番やりがいを感じるときです。しかし、私にとっての研修会での最大の収穫は「顔を知る」ということです。

日本語能力は世界でかなり高いレベルにあると言われる中国ですが、教師一人一人の背景はさまざまで、レベルも抱える問題もさまざまです。面積が日本の約二分の一と言われるこの広い吉林省の、中国中等教育で一番日本語学習者が多いと言われているこの吉林省の日本語教育の現状も、結局は一対一で顔を見て話して初めてその実態がわかってくるのです。朝は7時から夜9時半まで学校にいるという忙しい毎日を送っていること、生徒のコミュニケーション能力を高めたいと思っていても受験のための勉強で手一杯であること、作文の練習方法について悩んでいること、類義語の区別に悩んでもそれを調べるいい教材がないこと等、先生方も私の顔を知ってからは、メールなどでも教えてくれるようになりました。今後さらに交流が活発になり、最終的には教師間のネットワークができればと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
吉林省教育学院(教研部門)は、省内の小中学の現職教師再研修、教材研究等の役割を担っている。各科目にそれらを担当する教研員がいる。青年教師は日本語教研員とともに活動をしている。青年教師は、教師研修(研修会・市内巡回指導)・教材作成・高校入試関連業務のほか、日本語資料室運営・ニュースレター発行も行っている。省内に出張したり、地方で研修会をしたりする際は、各地にいる現地の日本語教研員と連携することも多い。
ロ.派遣先機関名称 吉林省教育学院
Jilin Institute of Education
ハ.所在地 中国吉林省長春市人民大街173号
ニ.国際交流基金派遣者数 青年教師:1名

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