世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 多岐にわたる活動を通して

遼寧教育学院
稲田登志子

骨幹教師パソコン研修会の写真
骨幹教師パソコン研修会

派遣機関に赴任して以来、二人の日本語教研員(日本の教育委員会の指導主事に相当し、教員指導、教材作成などを行う。)とともに教師研修会の開催、巡回指導、教材作成、教材寄贈申請など、小中高の日本語教育の支援を行ってきた。また、一年目は併設する短大の第二外国語の授業も担当した。

研修会の実施内容としては、日本語教育についての研修会、模擬授業コンテスト、日本語能力と教案のコンテスト、朝鮮族教師研修会、蒙古族自治区での蒙古族教師研修会、日本語のパソコン研修会、入試対策研修会などがあった。

研修会開催にあたっては、講師として授業を担当するだけでなく、企画、運営面でも教研員と協力して実施する。大変な作業ではあるが、研修会で指導したことが中国人教師の教案や授業に生かされていたのを見て、大きなやりがいを感じた。初めて研修会に参加し、大変緊張していた教師が何度も会うにつれて、少しずつ日本語で話し掛けてくれるようになったのにも嬉しく感じた。パソコン研修会では慣れた手つきで日本語で日本文化についての豊富な情報を満載したホームページを作成する教師がいる一方、パソコンに触れたこともなかった教師が毎日夜遅くまでかかってやっとホームページを完成するという場面もあり、教師たちの努力には感動させられた。

日本人教師としては、コミュニケーション重視の教授法を主に研修に取り入れたいという思いがあるが、教育現場にいる中国人教師の現実としては、入試に対応した受験日本語も重視しなければならない。受験の結果は学生の進路に関わる問題であり、本人と保護者の最大の関心事項であるだけでなく、学生の受験の結果が悪ければ、日本語教育の存続にも関わってくるからである。私は毎年入試の前に高校大学受験の模擬試験問題を作成し、2004年度はそれを利用して、研修会も行った。中高合同の大規模な研修会で漢族、朝鮮族、蒙古族の中高で教える教師達が一同に集まり、情報交換のためにもよい機会になった。

省内の小中高を巡回し、中国人教師の授業を視察した後、日本語や教授法について指導を行ったり、授業の後半に自分も授業を行った。巡回先は辺鄙な農村が多く、瀋陽から11時間位かかる所もある。教師は日本人教師に会う機会が少ないため、日本語に関するたくさんの質問を準備している。学生達は外国人に初めて会ったということが多く、一生懸命日本語で日本について質問する。歌や劇やゲームなどの発表会を実施する学校もある。一校につき、半日か長くても一日の短い滞在ではあるが、教師と学生にとっても、私にとっても、貴重な時間だと感じ、いつも名残惜しい気持ちで学校を後にする。

王府鎮架其営子蒙古小学の写真
王府鎮架其営子蒙古小学

遼寧省では、他の省に比べ、日本語教育を実施している小学校が多い。中国ではここ数年、小学校での外国語教育が普及しつつあり、教研員の働きかけにより、これまで外国語教育を実施していなかった数校の小学校で日本語を導入することになった。

派遣機関では日本語教研員が基金のフェローシップを受け、二度日本に滞在し、小学校の日本語教材の編集を行い、私は中国でその編集作業に協力し、2003年夏までに「小学日本語教材」第一巻から第四巻を出版した。その教師用指導書のうち第三巻と第四巻を私が担当し、市内の中国人教師と教研員による翻訳作業を経て、7月に印刷予定である。小学校では日本語教材が不足しているため、外務省草の根無償資金援助を申請し、今年、学院を通して、各小学校に教材を寄贈することになった。また、7月下旬から8月上旬には初めて全国小学校教師研修会を開催する予定である。小学校での日本語教育は文法と漢字の指導をせず、会話と文化紹介に重点がおかれた指導である。日本語を専門として学習した小学校の日本語教師は少なく、ほとんどが中高校で学んだという教師であり、日本語力が不足し、教授法を学んだ経験があまりない。

現在、都市部では日本語を中止し、英語教育を実施する学校が増え、日本語を特色として重視している学校でも英語と日本語の両方を指導する方向に移行しつつある。そのような学校では最新の機器を備えた視聴覚教室を保有し、日本の高校生が交流に来たり、日本人教師が在籍したりする学校もある。その一方、農村では教師も学生も日本人に会うことはなく、教材も不足し、学校の設備も十分ではないが、都市に比べ、日本語を実施している学校が多い。今後は都市部の指導的役割を果たす教師の育成、小学校教師を含めた農村部の教師の教授能力向上がいっそう重要になる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
中国には基金北京事務所に日本語教育アドバイザー1名を派遣しているが、広大な国土を有する中国で日常的な支援を行うためには地方に駐在する必要があるため、中等教育で日本語教育が盛んな東北三省のうち、吉林省、黒龍江省の教育学院(初中等教師研修等の事業を行う公的機関)に2001年より青年教師を派遣し、2002年7月からは遼寧教育学院にも派遣を開始した。青年教師は省の教研員(日本の指導主事に相当)と協力しながら、機関訪問を通じた情報収集、教材作成、巡回指導、教師研修会・セミナーの開催、コンサルティングを行うほか、勉強会に講師として出席する等により、省内教師のネットワーク形成支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 遼寧教育学院
Liaoning Institute of Education
ハ.所在地 中国遼寧省瀋陽市皇姑区崇山東路46-2号
ニ.国際交流基金派遣者数 1名

ページトップへ戻る