世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 小さな一歩

吉林省教育学院
長山由美子

中等日本語教師のおかれている現状

吉林省へのジュニア専門家(旧青年日本語教師)派遣が始まって、そろそろ4年を迎えようとしています。その間、吉林省の中等日本語教育界に大きな変化があったことは、これまでのこのページにも書いたとおりです。さまざまな理由で第一外国語としての日本語学習者が減少していることや、新しい学習指導要領の導入によるカリキュラムの変化。押し寄せてくる新しい波は、必ずしも悪いものとは言えませんが、現場の教師と生徒にとっては確実に大きな衝撃です。

それに加え、中学校入学時にはすでに始まっている受験競争の中で、教師は学校で生徒たちと共に朝から晩まで戦うという過酷な状況も依然としてあります。受験学年担当となると、週休半日という過密スケジュールの中で、抱えた疑問をぶつける間もなく、新しく得たアイデアを試す場もなく、ひたすら教科書を進め、練習問題を解説します。(入試が終わると、教師は学校からごほうび旅行を授かる、というのが面白いです。でもそれほど緊迫した一年を過ごすのです。)一つのクラスを複数の教師が担当することがほとんどない中高校の教師が、このように過ごす毎日は、ある面では孤独だと言えます。

研修会を通して

研修会で絵を描いている写真
研修会で絵を描く

こうした現状の中で、私たちにできる支援は何かと考えながら、今年度も同僚の教研員と引き続き研修会を行ったり、巡回指導をしたりしてきました。ジュニア専門家の派遣先である教育学院という機関の性質から、その任務は教師の支援ということになりますが、それがひいては日本語学習者の支援にもなるということは言うまでもありません。

研修会では、青年海外協力隊の日本語教師隊員のみなさんの協力も得て、より現場のニーズに細かく応える講義もできたと思います。貴重な休日を利用して参加する教師から「もっと研修会を増やしてほしい」という声が毎回のアンケートから多数あがるのは、嬉しいことです。

教師を前に模擬授業をしている写真
教師を前に模擬授業「緊張します!」

最近の研修会では、新たな試みがありました。以前の研修会では、講師はすべて日本人で、研修生は聞くという形で、それがこちらでは普通のスタイルなのですが、少しずつその形を変えていこうと考えたのです。

一つは分科会です。簡単なことのようですが、やってみるまでは、他校・他民族の教師と上手く情報交換できるか心配でした。しかし、研修会の回を重ねるごとに教師間でも顔なじみが増えてきたので、分科会もスムーズに行われました。こうした機会に教師間のつながりを作り、いずれ協力しあえる体制に発展させていけたら理想的です。

そして、二つ目は研修生による訪日研修の報告です。これは、今年の3月に福建省福州市で行われた「中学日本語教師セミナー」での実践を参考にしました。内容は、さいたま市の国際交流基金日本語国際センターで今年1~3月に行われた中国中等学校日本語教師研修についての報告です。日本へ行ってどんな経験をしたか、どんなに自分が変わったか、などを生き生きと報告する研修生に、次から次へと質問が浴びせかけられました。こうして一人の経験をみんなで共有できたら理想的です。

三つ目は、研修生の立候補による模擬授業です。こちらでは、学校から指名された教師が模擬授業を担当するのが一般的です。しかし、今回は事前に模擬授業の担当者を公募してみました。予想通り、届いた教案は少なかったですが、勇気ある挑戦をした教師たちの教案はどれも大いに工夫した跡がありました。そして、特に実際に授業をしてくれた教師の「やってよかった」という姿は、こちらの想像以上に大きな自信を得たようでした。今後もこのように教師が自主的に手を挙げて、研修会を構成していけたらいいと思います。

それぞれの試みは小さなものですし、課題も多く抱えていますが、「もっと研修会をやってほしい」から、「ちょっと研修会をやってみよう」へと続く、長い道の上の一歩を踏み出したということは、決して小さいことではないと思います。今後、この歩みが止まることがないようにサポートしていく、という任務が、今年は新たに加わりました。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
吉林省教育学院(教研部門)は、省内の小学校・中学校・高校の現職教師再研修、教材研究等の役割を担っている。各科目にそれらを担当する教研員(日本での教育委員会指導主事に相当)がいる。ジュニア専門家は日本語教研員とともに活動をしている。ジュニア専門家は、教師研修(研修会・市内巡回指導)・教材作成・高校入試関連業務、日本語資料室運営等を行っている。省内に出張したり、地方で研修会をしたりする際は、各地にいる現地の日本語教研員と連携することも多い。
ロ.派遣先機関名称 吉林省教育学院
Jilin Institute of Education
ハ.所在地 中国吉林省長春市人民大街173号
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名

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