世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) いま、香港の日本語教育がおもしろい

在香港日本総領事館
林敏夫

1.急増する日本語学習者

対前年比11.2%増(2002年)、23.3%増(2003年)、35.8%増(2004年)。

経済成長率ではない。

人口680万人の香港の日本語能力試験受験者数のこの数年の増加率である。2004年度の受験者数は8,658名であったため、この調子でいけば、2005年度は1万名を突破するものと予想される。

日本語能力試験の実施団体である香港日本語教育研究会は、この受験者の激増に対して、2005年度よりインターネットによる申し込みを実施することにした。そのためには新規に事務所を開設しなければならない。ソフトを開発しなければならない。費用はどうしたらよいのか。

香港の日本語教育アドバイザーは、こうした相談を受けながら、国際交流基金とのパイプ役を務めていくのである。

閑話休題。
香港の日本語学習者数は、2003年度の調査では、18,284名ということになっている。しかし、2004年度中に、例えば香港日本文化協会日本語講座が中学生コースを新設したところ、450名を超える受講者が殺到した。成人向けコースでも500名以上のウェイティングがあるという。また、中等教育機関で日本語を導入した学校も着実に増えている。こうした点から考えても、香港の日本語学習者数は、登録在留邦人の数を超える3万名は下らないものと予想される。
では、なぜこれほど急激に日本語学習者が増加するのか。
実は、ここに興味深い事実がある。香港の日本語学習者2,040名に対して実施した調査結果(2005年)では、学習動機として「趣味」と答えた者が6割を超えた。これに「旅行のため」の2割を加えると、実に8割以上の学習者が、ビジネスや留学のためといった実益ではないところで日本語学習を行なっているのである。日本語能力試験の受験者が1~2級より、3~4級が圧倒的に多いことも、この事実を裏付ける証拠であろう。
香港では2004年4月より、日本への短期滞在の査証が免除になり、旅行好きの香港の人々にとって日本へ旅行しやすくなったことは画期的な事実である。リピーターも当然多くなり、秘湯めぐりや築地市場でグルメなどという通好みの個人旅行者も増えている。片言でも日本語が必要とされる所以である。
一方で、香港における日本のサブカルチャーの浸透ぶりには目を見張るものがある。日本の新しい情報はいつでも簡単に入手できるどころか、日本のアニメやドラマ文化で育った世代の次の世代が、両親の影響で抵抗なく日本文化を取り入れ、ことばに対しても興味を示していくといった現象が至るところで見られるのである。

香港・マカオ地区における日本語能力試験受験者数の推移

2.支援から推進へ

海外における日本語教育事業については、量的な需要拡大に対応する「支援型」事業形態から、質的な変化も捉えながら需要を発掘していく「推進型」事業形態へ重点をシフトしていくことが課題とされているが、香港の場合は、そのシフトの最前線に位置しているという実感が強い。この点を念頭に置きながら、当地では当面の基本方針として、(1)日本語教育・日本研究ネットワークの拡大・強化、(2)日本の文化・社会への理解を深める、(3)日本語教師の養成と研修、(4)新規教材開発の推進、(5)多様なメディアに対応した日本語教育の推進、の5項目を策定した。日本語教育アドバイザーとしては、これらが効果的に実現できるように日々努力を重ねているわけであるが、この中で、特に「(5)多様なメディアに対応した日本語教育の推進」について、少しばかり言及しておきたい。

「日語自遊行(ようこそ日本へ!)」:ポップなイメージのフロントページの写真
「日語自遊行(ようこそ日本へ!)」:
ポップなイメージのフロントページ

ブロードバンドの普及率が韓国に次いで高い香港ではあるが、eラーニングの面では必ずしも先進的とはいえない点がこれまでの実情であった。こうした香港で、ラジオ番組とインターネットを組み合わせた全く新しいコンセプトの日本語学習が、いま、大変な話題を呼んでいる。

2004年8月に開始された香港電台・香港日本文化協会共同制作のラジオ日本語講座「日語自遊行(ようこそ日本へ!)」(http://www.rthk.org.hk/elearning/gogojapan/)は、人気歌手の陳慧琳(ケリー・チャン)を「推進大使」に起用したこともあって、半年間でウェブサイトへのアクセス件数が145万件を超えた。香港のみならず、遠くアメリカやカナダからのアクセスも多いということである。趣味で日本語を学習する層、あるいは日本・日本語にほんの少しでも興味を持つ層をターゲットにしているため、文法積み上げ式のシラバスは当初から考えず、場面シラバスと文化紹介を中心に楽しい番組作りをめざしている。

「日語自遊行2」:アニメ感覚のフロントページの写真
「日語自遊行2」:アニメ感覚のフロントページ

この番組は2005年2月よりさらに進化して、「日語自遊行2」(http://www.rthk.org.hk/elearning/gogojapan2/)となり、やはり人気歌手である古巨基(レオ・クー)を加え、文化情報の動画配信も試みている。ここでは、在香港日本国総領事が和服姿で日本の正月風景を紹介する微笑ましい場面も見られる。ウェブサイトからはテキストのダウンロードもできるのであるが、ここには国際交流基金の「みんなの教材サイト」の写真をふんだんに使わせてもらっている。また、ネット上で放送内容を丸ごと聴取することも可能である。このような事業に企画の段階から関わり、番組の収録にも協力することが日本語教育アドバイザーの大切な任務の一つである。

以上のほかにも、日本語教育アドバイザーとしては、伝統的な日本文化を中心に中等教育機関や大学に紹介する「日本文化紹介キャラバン」を実施したり、教師研修や日本語教育学の大学院設立を推進したり、などというように各界、各機関と協力しながら様々な活動を行なっている。

この活気あふれる香港から、世界の日本語教育へ向けて、今後も様々な形での発信ができれば嬉しく思う次第である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に専門家を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたことに伴い、2001年7月より同総領事館に専門家1名を派遣している。当該専門家は総領事館付日本語教育アドバイザーとして、香港及びマカオの日本語教育機関に協力して日本語教育の推進を行なうほか、香港日本語教育研究会の活動支援を通じた教師研修やネットワーク形成促進を行なっている。また、香港日本文化協会日本語講座にも教務面で協力している。さらに、中国華南地域の日本語教育に対しても様々な形での協力を行なうなど、その活動範囲は拡がりつつある。
ロ.派遣先機関名称 在香港日本国総領事館
Consulate-General of Japan at Hong Kong
ハ.所在地 46/F, One Exchange Square, 8 Connaught Place, Central, Hong Kong
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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