世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 進化する香港の日本語教育

香港日本語教育研究会
林 敏夫

1.多言語と多文化の交錯する香港

人口700万人の香港に、年間2300万人の渡航者がある。

街では様々な国のことばが飛び交い、多国籍の商品があふれている。地下鉄の車内放送は、広東語、北京語、英語の順番で行なわれ、日本語が入った広告は少しばかりおしゃれである。

日本から香港への観光客も2005年は120万人を超え、香港から日本への観光客は60万人ほどであった。2005年に日本を訪れた外国人は670万人であるから、その1割近くを香港人が占めていることになる。この事実は意外に知られていない。

言語と文化は、いわば車の両輪で、香港における日本語教育の問題を考えていく際にも、こうした香港の社会的・文化的背景を抜きに考えるわけにはいかないのである。

2.香港日本語教育研究会

2006年1月より、国際交流基金海外派遣日本語教育専門家の香港の派遣先が在香港日本国総領事館から、香港日本語教育研究会(http://www.japanese-edu.org.hk/)へ変更になった。国際交流基金と香港との関係は、基金設立以来、三十数年の歴史を有しているが、ここに新たな一ページが開かれることとなったといえよう。

近年の香港における日本語教育の活性化は、日本に対して多大な関心を寄せる学習者と教師の熱意に支えられており、その意味では十分に成熟し、自立化しているともいえよう。では、そうした香港の日本語教育界に国際交流基金は今後いかに関わっていくべきなのであろうか。実は、この問いかけの中にこそ、香港と基金の双方にとって、重要な課題が含まれているのではないかと思われる。

こうした状況の中で、当地の基本方針としては、(1)日本語教育・日本研究ネットワークの拡大・強化、(2)日本の文化・社会への理解を深める、(3)日本語教師の養成と研修、(4)中等教育レベルにおける日本語教育の推進、(5)多様なメディアに対応した教材開発・日本語教育の推進、の5項目を策定している。

3.香港における日本語教育の新たな動向

香港の日本語教育界は、この数年、目まぐるしい変化を遂げているが、特に上記の基本方針と関連させながら、この1年の動向を簡単にまとめておきたい。

(1)日本語教育・日本研究ネットワークの拡大・強化

香港のみならず、中国華南地域の日本語学習者も、近年、増加の一途をたどっている。学習の動機や背景などの面でも共通する部分が多くなってきたために、昨年より、できる限り人的な交流が頻繁に行なえるよう、様々な機会を通じ、交流活動を展開してきた。在広州日本国総領事館や広州地域の各大学とも双方向の往来を行ない、まずはお互い同士の顔の見える状況が生まれてきたことは、大きな前進であった。

また、西安、北京での大学関係者を中心としたシンポジウム、さらには済南で開催された2006年春季中等日本語教師セミナー等に香港からもそれぞれ数名が参加し、大学のみならず中等教育の分野でも、中国のあらゆる地域の教師間の交流ができたことは新たな展開であった。

(2)日本の文化・社会への理解を深める

2005年は「日港交流年2005」、2006年は「2006香港旅行年」ということで、当地では通年で様々なイベントが開催されており、日本の文化・社会に関する情報や実物に接する機会は、他地域に比べてはるかに多くなっている。しかし、これらは一時的な流行に左右されやすいため、今後は、時代を超え、より本質的なものへの理解をいかに深めていくかが大きな課題である。

(3)日本語教師の養成と研修

香港では、日本語学習者の急増に対して、経験と知識を備えた教師が不足している。このため、香港日本語教育研究会では直接法の実習を中心とした半年間の教師研修を実施しており、2006年6月時点で、37名の修了者を輩出してきた。

一方、日本語教育を専攻できる大学院コースが2005年秋、香港理工大学に開設され、2006年秋からは香港中文大学、香港大学専業進修学院(大阪外国語大学との提携)でも開始される。

(4)中等教育レベルにおける日本語教育の推進

茶道の実演:中学校の「通識科目」(教養科目)における日本文化紹介の写真
茶道の実演:中学校の「通識科目」(教養科目)における日本文化紹介

香港の中高生の日本語・日本文化に対する関心はきわめて高いが、日本語科目が学校制度に正式に組み込まれていないため、公教育での日本語教育の展開は難しい状況である。2005年に開始された新しい試みとしては、「通識科目」(教養科目)という必修科目で、日本語(かなと簡単な挨拶)と日本文化をセットにして紹介しようというものがある。異文化理解と日本語入門を組み合わせたこの試みは、在香港日本国総領事館と香港日本語教育研究会の協力で大きな成果を収めた。

優勝者が日本の大会に出場できる「香港中高生日本語スピーチコンテスト」は、2005年より開始された。豊かな発想のスピーチが多く、この世代の将来は大いに期待される。

中等教育の分野では、教師のための研修会も開始された。2005年8月に「香港中学日本語教育フォーラム」を開催し、その後も2回の研修会を開催している。

(5)多様なメディアに対応した教材開発・日本語教育の推進

MP3と小型スピーカー内蔵のペンを使用する世界初の教材の写真
MP3と小型スピーカー内蔵のペンを使用する世界初の教材

2004年~2005年に放送され、現在もWeb上でアクセスできる、香港電台・香港日本文化協会共同制作のラジオ日本語講座「日語自遊行(ようこそ日本へ!)」(http://www.rthk.org.hk/elearning/gogojapan/)は、大変な人気を博し、その後の香港の語学番組の方向性を決定付けた点で、特筆に値する。

また、2006年7月に開講される香港日本文化協会日本語講座中学生サマーコースのために開発された教材は、MP3と小型スピーカー内蔵のペンでテキストにタッチするだけで音声が聞こえるというもので、名実ともに世界初の試みとして注目される。

多言語・多文化の背景を持ちながら新たな段階へ向けて進化を続ける香港が、今後、日本語教育の分野で果たしていく役割は大きい。2006年10月末には香港中文大学において、第7回国際日本研究・日本語教育シンポジウムも開催されるので、気軽に香港にいらしていただき、実際に香港の現状に接し、交流を深めていただければと願う次第である。

派遣先機関の情報
イ.遣先機関の位置付け
及び業務内容
基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に専門家を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたことに伴い、2001年7月より同総領事館に専門家1名を派遣、2006年1月より専門家の派遣先を香港日本語教育研究会に変更した。当該専門家は日本語教育アドバイザーとして、香港及びマカオの日本語教育機関に協力して日本語教育の推進を行なうほか、教師研修やネットワーク形成促進を行なっている。また、香港日本文化協会日本語講座にも教務面で協力している。さらに、中国華南地域の日本語教育に対しても様々な形での協力を行なうなど、その活動範囲は拡がりつつある。
ロ.派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
ハ.所在地 Rm702, 7/F, Tai Sang Commercial Building, 24-34 Hennessy Road, Hong Kong
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年    
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2006年
(ロ)コース種別
(ハ)現地教授スタッフ

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳    
(2) 学習の主な動機  
(3) 卒業後の主な進路  
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
 
(5) 日本への留学人数  

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