世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 3年間の任期を終えて

国際交流基金北京日本文化センター
小西 広明

2008年5月で北京日本文化センター3代目としての3年間の任期が終わります。わたしが赴任した2005年春はちょうど反日デモが吹き荒れていたころで、赴任する前は、中国へ行って大丈夫なのかと多くの方に心配していただきました。来てみるともちろん反日感情などどこにも感じられず、逆にもうすぐ日本に留学するという先生から、「日本では反中感情が高まっているそうだが大丈夫か?」と聞かれたことを覚えています。こうした誤解と誤解から生まれる感情のすれ違いを防ぐためにこそわたしたちの仕事があるのだと思います。具体的には日本語学習者を増やすこと、特に日本人と接する機会の少ない内陸部に比重を置くこと、日本語を通じて、背景にある日本文化や日本人の考え方を理解してもらうことなどです。こうして、「地方の知日派を増やすこと」がわたしの3年間の大きな目標になりました。

「地方の」というキーワードでは、日本語能力試験の会場数の拡大と、実際に現地へ行って、そこの空気を吸ってみるということを具体的目標としました。日本にいると中国のことがわからないように、北京にいても地方のことがわかりません。3年間で25の行政区を訪問することができました。調査出張というのもありますが、ほとんどはその地で何らかの日本語関連行事が行われていました。それだけ地方での日本語教育が盛んになった証だと思っています。日本語能力試験会場も2004年当時の17行政区から現在は23行政区まで増え、会場がないのは8行政区だけになっています。

また「知日派を増やす」ということでは、大学の第二外国語教育の充実ということに主眼を置きました。高等教育機関で学ぶ約40万人の学習者のうち第二外国語として日本語を学ぶ学習者は35万人程度いるのではないかと思われます。日本語を主専攻とする学生ではなく、他の専門を持ちながら少しだけ日本語に触れる知識層にこそ日本のことをよく知ってほしいと思ったのです。具体的には2006年度から第二外国語として日本語を教える先生方を中心とした研修会を実施しました。2006年度は約100名、2007年度は約200名の先生方にご参加いただきました。また第二外国語教育用教科書の製作協力や出版助成、教育部が行う資格試験の改定などにも積極的に取り組んできました。

こうした取り組みは後任の王先生にも引き継がれ、更なる発展と展開を見せていくことになるだろうと思います。

日本語教育専門家の仕事

国際交流基金日本文化センター
吉田 佳未

2005年に北京日本文化センターに赴任してもうすぐ3年になります。この仕事をする前は、普通の「日本語教師」だったので、教室の中で授業をすることが中心の生活で、いつも翌日の授業のことを考えるのが精一杯という生活を送っていました。現在の仕事では、日本語の文法の質問に答えたり、教案にコメントしたりという仕事に加えて、「中国日本語教育史」、「中国の日本語教育の現状」、「中等日本語教育の未来」などのように、時間的にも空間的にもいままでにはない視点でものを考えることも多くなりました。ミクロもマクロもごちゃまぜにいろいろな仕事が体験できる非常におもしろいポストだと思います。

わたしが現在担当しているのは、主に初・中等教育段階における日本語教育です。中国においては337の初・中等教育機関で7万6千人あまりが第一外国語あるいは第二外国語で日本語を学習しています。そして、それを教える日本語教師の数は約1300名です(2006年海外日本語教育機関調査結果による)。

研修会の模擬授業の様子(2007年8月北京)の写真
研修会の模擬授業の様子
(2007年8月 北京)

国際交流基金北京日本文化センターでは一年に2回ほど中等の日本語教師数十名を対象に、数日程度の教師研修会を実施しています。新しい教科書が出版されればその教授法の研修会を、また、大学入試対策や応用力を養成する教授法についての研修会も行っています。そして、この研修会のプラン作成、コーディネイトがわたしの仕事のひとつです。では、研修会について、ここでもう少し詳しくご紹介したいと思います。

まず、研修会のプラン作成ですが、一回の会議で決まるなんてことはなく、授業見学で見せてもらった授業やニーズ調査のアンケート結果を分析したり、「わたしだったらどういう内容の研修会をしてほしいだろう」と想像したり、教師研修についての参考書や過去の研修会の報告書を読んだりしながら、いつも時間をかけてプランを作成しています。やりたいことはいっぱいあるけれど、限られた時間の中で何を優先して研修内容とするかを決めるのがいつも一番の悩みの種です。

そして、研修会ではそのプランを数十名の、時には100名近い参加者を巻き込んで進めていきます。悩んだ末に決めた時間配分が変わることなんかはしょっちゅうですが、変更を加えながら、ベストの結果を目指します。

授業は、北京や瀋陽の他の日本語教育専門家とタッグを組んで行います。それぞれの得意分野を生かして、最大限効果的な授業ができるように、細かい点まで計算して授業計画を立てます。

では、研修会と学校の授業との相違点というとどんなことがあるでしょうか。大きな相違点のひとつは、その場面の非日常性だと思います。それは、講師―参加教師間でもそうですし、参加教師同士でももちろんそうです。

ですから、研修会前には、参加者の先生たちの名前、学校名を頭に叩き込んだりという作業が必要になります。名前と学校名が頭に入っていると、初対面でも、なつかしい気持ちでおしゃべりできるのは不思議なものです。一年ぶりに会った先生の顔と名前と学校名が合致した時、いつもついついにんまりしてしまいます。研修会の期間中は、休み時間も貴重な交流の時間です。先生方からの文法の質問に答えたり、おしゃべりをしたりします。

研修会の生け花体験講座にて(2008年3月北京)の写真
研修会の生け花体験講座にて
(2008年3月 北京)

また、研修会で教える時の「テンション」は、わたしの場合、いつもよりも高めのテンションに設定しています。以前実施した研修会で閉幕式の後に、参加した先生に「わたしは普段はおしゃべりなんですけど、緊張して話せなくてすみませんでした」と謝られたことがあります。教師研修会は、学校の授業とは違って、知らない教師が集まるプログラムなので、緊張して硬くなってしまう先生もいます。数日の間に何でも話し合える雰囲気になるように、先生たちの心の扉をドーンと開けてもらえるように、講師であるわたしたちも気合をいれて、教室内に楽しいエネルギーを充満できるようにがんばっています。

それから、話す内容についていえば、一年に一度しか会わない先生を相手に内容を補足・訂正するのは非常に難しいということが言えると思います。効率よく授業を進められるように、この質問にはこの答え、こういう問題にはこういうアプローチというふうにいろいろ考えて準備をしていきます。

こうやって見てみると、研修会というものは、やらなくてはいけないことや考えなくてはいけないことが多くて、非常に密度の濃いものだなと思います。もちろんだからこそ、やり甲斐も喜びも大きいのですが。

わたしにとって教師研修会とは、数ヶ月かけて煮込んだ料理を数日で食べる、そんな感じのものです。手間と時間をかけて煮込んだ料理は、そりゃあ栄養もあるしおいしいと思ってもらえているといいのですが。2008年7月にも長春市で教師研修会を開催します。6月現在、材料の仕込みが終わって、煮込み始めたところです。おいしい研修会になるといいなと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1999年度より日本語教育専門家を1名,2005年度よりジュニア専門家を1名派遣している。専門家・ジュニア専門家は各種教育機関・団体と情報交換をおこないながら現地の日本語教育事情の把握に務め、また、中国各地で教師研修会・セミナー・ワークショップ等を実施し、カリキュラム・教材・教授法など各層の日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。さらには、他地域派遣の専門家・ジュニア専門家とも協力しながら、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成促進にも力を注いでいる。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
ハ.所在地 #301, 3F, Capital Tower Beijing, No6 Jia Jianguomenwai Ave., Beijing 100022
CHINA
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名 ジュニア専門家:1名

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