世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 多言語都市香港における日本語教育の今後

香港日本語教育研究会
金 秀芝

1. 香港の多言語事情

香港が多言語都市だということはよく知られているが、昨今中国化教育が浸透し、中国本土との人的交流が民間レベルにおいても活発になってきたことから、広東語、英語、北京語の役割が微妙に変化しつつある。普通、義務教育を受けた水準の香港人は、一般通用語の広東語と文字表現としての中国語、「普通話」と言われる北京語、英語などが混在した生活を送っている。公的な書類や契約書類は英語が多いが、これも徐々に中国語化されることが予想される。また中国本土からの旅行者が激増していることから、サービス業や高級店舗においても普通話の必要性が高まっている。言語教育事情をみると、一般には小学校から母語である広東語に加え(書き言葉は中国語)、会話としての「普通話」、英語が必修科目とされており、有名進学校では英語による科目授業も多いため、日本語が正規科目として更に採用される余地は殆ど無いのが現状である。しかしここ数年、日本語能力試験受験者の推移をみると、中高生を中心とした4級レベルの受験者が増えており(2007年の4級受験者は5013人、前年比約11%増)、課外活動や民間学校を利用した日本語学習が盛んであることが分かった。その理由としては2004年からの香港人の日本短期滞在査証の免除、アニメ、ゲームを含むサブカルチャーの普及、日本製品に対する根強い信頼感などが挙げられる。

また2012年から、日本語が大学入試の選択科目に採用されることが決まっており、政府予算を申請しやすくなることから、他校との差別化策として、日本語を正規科目として採用する学校が増えることが予想される。ただ現状では日本語教材や教師の不足が懸念されており、早急の対策が必要とされている。

2. 香港日本語教育研究会の役割

香港日本語教育研究会の写真
香港日本語教育研究会
教師研修(香港日本語教育研究会内)の写真
教師研修(香港日本語教育研究会内)

国際交流基金派遣の日本語教育専門家(以下、派遣専門家という)の受入れ機関である香港日本語教育研究会は、2007年に慈善団体として法人登録されたことから、今後の社会的な貢献が期待されている。

まず、組織内に理事会と常設委員会として「中等教育促進委員会」「学術委員会」「学刊委員会」を設け、日本語科を有する大学教員、民間学校関係者を中心に組織されている。

2008年には国際交流基金の日本語教育ネットワークメンバーとして登録され、日本語能力試験の実施団体としての役割も1984年から果たしており、当地における日本語教育の中核的組織としてその役割が益々期待されている。基金の派遣専門家は、研究会内で全ての常設委員会に列席し、研究会が行う調査、基金からの業務依頼、教師研修の参加を通して、香港全体の日本語教育に自然と関わることができる。また研究会自体が香港における中立的、慈善的役割を認識していることから、派遣専門家も一部の利益に偏ることなく活動できるという点で、非常に活動しやすい。

3. 今後の活動について

前任の派遣専門家は、香港での役割を「隙間産業」と解いていたが、香港のように成熟した多言語社会においては(趣味で日本語を学習する人が多いのも香港の特徴である)、新たなことを次々と立ち上げるよりも、現地で本当に必要とされている業務が潤滑に回っていくように、陰ながらサポートするという役割が必要だと考える。香港の大学の日本語教員の担当コマ数は、平均週12以上(1コマは約1時間50分)という激務にあり、そんな中でボランティアとして日本語教育の会合や活動に積極的に参加して下さる姿が非常に印象的だった。また個々人がマルチリンガルとして語学能力が高く、新たな教育改革やIT技術面での適応性にも優れており、アニメのアフレコ大会や日本クイズ大会などの新たな試みにも積極的に参加する柔軟性を持ち合わせている。香港の派遣専門家の業務はこのような先生方に支えられている部分が大きい。

 当面、香港での活動の中心は、研究会を中核とした中等教育における日本語普及の促進が課題であるが、質と量を同時に満たす必要があるため、事前準備も綿密に行わなければならない。まずは2008年はじめに中等教育促進委員会が実施した「香港内の中等教育機関における日本語教育アンケート」のデータを基に、教材開発、教師研修のプロジェクトが立ち上がっている。また2009年9月から香港の教育課程も日本と同じ6-3-3-4制度になり、日本語の入試科目採用などの大きな変革があるため、香港教育局の動きにも関心を向ける必要がある。

どの派遣専門家も担当地域において多岐に渡る業務をこなしているが、香港においてはその変化の速さと多様性と、地理的な特徴(狭い地域に多言語、一国二制度、多機関が混在している)から、更に柔軟性と迅速な対応が求められているような気がする。経験不足の私にとって、香港の日本語教育関係者のボランティア精神と暖かい支援にはただただ頭が下がる思いである。

派遣先機関の情報
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に日本語教育専門家を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたことに伴い、2001年7月より同総領事館に専門家1名を派遣、2006年1月より専門家の派遣先を香港日本語教育研究会に変更した。当該専門家は日本語教育アドバイザーとして、香港及びマカオの日本語教育機関に協力して日本語教育の推進を行なうほか、教師研修やネットワーク形成促進を行なっている。また、香港日本文化協会日本語講座にも教務面で協力している。さらに、中国華南地域の日本語教育に対しても様々な形での協力を行なうなど、その活動範囲は拡がりつつある。
ロ.派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
ハ.所在地 Rm701-2, 7/F., Marina House, 68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong.
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 2001年

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