世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語教育研究講座」について

国際交流基金北京日本文化センター
王 崇梁

今年(2009年)の2月から5月まで北京日本文化センター(以下:センター)にて初めての有料「日本語教育研究講座」(以下:本講座)を開講した。北京理工大学、北京連合大学旅遊学院、北方工業大学、北京科学技術大学、中国人民大学から計8名(聴講生1名)の在職日本語教師らが本講座を受講した。

一般的に、中国の日本語教師の日本語能力はかなり高いと言える。中国国内でも日本語学・日本文学の博士を養成できるようになり、近年そのような大学が増えつつある。特に、北京のような大都会にある大学は、その多くが日本語教師を新規採用する際、博士という学歴を求めるようになった。また、近年、日本からの留学帰りの若手日本語教師も増え、北京地域の大学の日本語教師陣はこれまでにない高能力、高学歴に変わりつつあると言えよう。しかし、一方、日本語教育を専門とする大学教師がまだかなり少ないのも現状である。去年改定された中国『大学日語課程教学要求』(日本の教育要領にあたる)では、大学の日本語教育について、日本文化理解重視、コミュニケーション能力重視、学習者主導の教育方法が求められている。

以上のような状況を踏まえ、センターの日本語チームは、地元(北京)にある大学の日本語教師を応援するとしたら何ができるのかを調べることにした。このため、去年(2008年)の10月に、北京の65の大学にアンケート用紙を配り、セミナーや講座に参加するとなら、どのような分野に興味があるかを調査した。
調査項目は主に以下の3分野だった。

1.教授法[音声指導 聴解指導 読解指導 会話指導 作文指導]
2.日本語[音声 文字 語彙 文法 語用論]
3.日本事情[政治 社会 自然地理 若者流行事情]

必要とするものにすべて丸をつけてもらい、また、その優先順位もつけてもらった。その結果、25の大学の155名の日本語教師から返答があった。

アンケート調査から、日本語教授法については、会話指導法(69%)、読解指導法(69%)、聴解指導法(60%)、作文指導法(54%)。日本語については、文法(77%)、語用論(60%)、語彙(51%)、音声(30%)、文字(21%)。日本事情については、日本の社会(77%)、若者事情(70%)、自然地理(42%)、政治(41%)という順に、日本語教師たちの興味を持つ具体的な分野が分かった。

センターの日本語教育専門家の専門分野やその他の仕事量などを総合的に考慮したうえ、パイロット版として、今年(2009年)の2月から5月にかけて、週一回2時間(毎週金曜日の夜6時半~8時半)の本講座を北京日本文化センターにてスタートした。
本講座が目指したのは、日本語教育を教授法と日本語の両面から深くとらえることを目標に、現場で活躍する日本語教師たちと問題点や課題解決法を共に考えながら学ぶことである。

本講座の内容と授業時間、担当講師は以下の通りである。

日本語の教授法(12時間)

1)日本語授業のコースデザイン 授業の流れ、2)導入・基本練習・応用練習、
3)聴解の教え方、4)読解の教え方、5)会話の教え方
担当講師:王崇梁(北京日本文化センター日本語教育専門家)

日本語の音声(12時間)

子音・母音・拍・リズム・アクセント・イントネーション、日本語の音声の教え方
担当講師:磯村一弘(国際交流基金日本語国際センター専任講師)

センターは北京の大学が多く集まる中関村という場所から離れていて、中関村から通うには片道1時間以上かかる。それでも、ほとんどの受講生は本講座を最初から最後まで一回も欠席せず、大変真面目に参加した。以下は受講生たちが書いた感想文の一部分である。

  • 今度の教育研究講座は日本語を教えはじめてから僅か三年目で、教学経験も非常に不足している私にとってはまたとない勉強の機会で、有難い経験でもあります。普段の教学実践において、いかに、教える内容を学生によりよく理解させ、こなさせるかとたびたび日本語教学の問題点に迷ったり悩んだりすることがあります。こういう疑問と迷いを持ちつつ、常にすばらしい教授法で本場の日本語を上手に学生に教えたいと切々と考えていました。このたび、日本語教育研究講座を受講して、日本語教育の教授法を系統的に勉強し、これからの教育活動に大いに役立ちます。広い枠で日本語授業の教授法と指導技術についての理解を深めて、コースデザイン、授業のリズム、学習項目、授業の導入と流れ、文法学習項目の練習と説明、そのほか、言語学習のためのリソースも紹介していただきました。これから、よりよく日本語教育に力を入れ、教育実践の中で経験を積み重ねることにより、自分の教学方法をさらに精練し生き生きさせようと考えております」(受講生A)

  • 「音声については、ノンネイティブ教師の苦手意識や知識不足から教えていないのが実態です。このたび、音声の講義は実に役に立つ内容ばかりでした。特にイントネーションについては私にとってまったく新しい知識でした。中国人の苦手なラ行、鼻濁音、撥音、有声音と無声音の区別、母音の無声化などの練習法は非常に実用的で大変勉強になった。習ったことを最大限に活かそうと思い、新学期は一年生の授業を申しこみました。発音の基礎を学生にしっかりと身につけてほしいからです」(受講生B)

今回の講座について、受講生からは大変満足できたという高い評価が得られた。しかし、反省すべきところも少なくない。例えば、講座の時間について、日本語教授法の場合、一つのテーマに関して2コマという非常に限られた時間しかなかったため、ほとんどの授業は講師の一方的なインプットだけで終わってしまった。これからは講座の時間、内容などを改善していく必要があると思われる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
中国の日本語教育事情の把握に務め、また、中国各地で教師研修会・セミナー・ワークショップ等を実施し、カリキュラム・教材・教授法など各層の日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。さらには、他地域派遣の日本語教育専門家・ジュニア専門家とも協力しながら、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成促進にも力を注いでいる。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
ハ.所在地 #301, 3F, SK Tower Beijing, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing , CHINA 100022
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、ジュニア専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1999年

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