世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 香港の教育制度変化による日本語教育への影響

香港日本語教育研究会
金 秀芝

1.香港の教育制度の変革

香港の初中等教育は、イギリスの教育制度に準じて、初等教育6年間、前期中等教育3年間、後期中等教育2年間、予科2年間だったが、2009年9月から日本と同じ6-3-3制度へと変革する。変革の理由としては、予科の教科内容が難しすぎて大学相当ではないかという批判があったことと、中国本土や海外の教育制度に合わせたほうが人的流動の多い香港では利便性が高いためである。学校制度が日本と同じ年数に変わることよって、留学先に日本を選択する可能性も出てくるのではないかとの予想もある。香港では定期的に日本留学説明会を行っているが、日本留学フェアに案内を出す日本の大学も増えており、現地の感心も高まっている。

また、1997年の香港の中国返還と中国経済発展に伴い、普通語(北京語)を初中等教育で導入することが普通になってきた。しかし依然英語の指向性が高く、有名進学校では一般教科を英語で行っている学校も少なくない。このような英語と普通語の比率の変化により、一部のイギリス式教育で育った世代からは、最近の学生の英語力の低下を嘆く声も出ているが、一方、イギリス、カナダ、米国、オーストラリア等への留学は増えており、単純に量の変化だけではなく、語学学習の質も多様化していると言えよう。現状では、香港の中等教育の現場では、母語の広東語に加え、英語、中国語(普通語)が必須科目となっており、更に政府からは、第3外国語の支援制度が設けられ、多言語社会香港での語学教育における日本語の位置も新たな局面に接している。

2.中等教育における日本語導入と試験制度

中高生日本語弁論大会の写真
中高生日本語弁論大会

2006年の国際交流基金の香港での機関調査では、中等教育で日本語を正式に導入しているのは、4校だったが、その他の初中等教育でも選択科目として導入している学校が増えている。ただ日本語を専門としている専任教師がいる学校は1校ほどで、他科目の教員資格を持っている教師が日本語を兼任で教えているか、民間学校から派遣された非常勤講師が教えている場合が殆どである。科目時間は、週1回40分~50分しか取れないため、1年で50音と簡単な挨拶と基本文型を思える程度で終わっている。使用しているテキストは、『みんなの日本語』台湾版、香港版などが多いが、このテキストでは学習項目が多すぎて、香港のカリキュラムの現状に合わないとの声が多く、テキストの作成が以前から求められていたが、統一試験の内容が不明だったこともあり、具体的な教材作成が進んでいないのが現状である。

2012年からは、日本語が統一試験の選択科目として採用されることが決まっており、試験内容はケンブリッジのASレベルとされている。これは日本語能力試験2級相当と言われており、作文、会話も含まれているため、文法だけではなく、会話を含めた4技能の学習が必要とされるが、週1度の授業で、そのレベルに達するようなカリキュラムを作成するのは難しい。今後の課題は、統一試験を見据えたカリキュラム作成と教師育成、教材作成などである。

一方、2009年から香港でも日本語能力試験を年2回実施し、2010年からは改訂日本語能力試験が実施される予定である。民間の日本語学校では、能力試験対策のクラスを設けているところも少なくないことから、新試験の内容について大きな関心が持たれている。それは、政府の「持続進修基金」(CEF: Continuing Education Fund)によって、公的試験に合格することを条件に、個人の研修費の80%を補助してもらえる制度(上限10,000HKD。1HKD=約12円)があることも、香港で試験に対する関心が高いことの一因となっている。

また2009年より、高校生一人あたりに毎年3,500HKD(3年間で10,500HKD)の語学学習補助費が支給されることになっているが、これは個人ではなく、公的学校機関への支援制度である。いずれにせよ、その認定基準としてケンブリッジの試験が採用されるため、カリキュラム作成には試験内容を考慮に入れざるを得ないのが現状である。

3.今後の対策

教師研修の写真
教師研修(香港日本語教育研究会内)

 国際交流基金派遣の日本語教育専門家(以下、派遣専門家という)の受入れ機関である香港日本語教育研究会は、1984年から日本語能力試験の実施団体としての役割を果たしており、2008年には国際交流基金のJFにほんごネットワーク(さくらネットワーク)メンバーとして登録され、2009年3月には、「日本語教育における理論及び教授法」というタイトルで、年少者を対象とした現場の先生方を対象に講演とワークショップを開催した。また、月例会でも中等教育の現場の先生を講師として招き、中等教育委員会で教師研修、教材開発などを企画するなど、香港の中等教育における牽引的な立場で社会貢献を行っている。

 多様化する学習ニーズと政府の教育制度の変革、新たな試験の導入などに対応するためには、政策を決定する公的な機関だけではなく、現場の教師と民間学校、研究会のような団体の連携が欠かせない。特に最も多くの日本語学習者を抱える民間学校は、実質的に日本語学習者の裾野を広げる大きな役割を担っており、初中等教育機関への日本語教師派遣など、香港の日本語教育全体に大きな影響を与えている。

 このような現場の先生方との情報共有と教師研修などの機会提供ために、香港日本語研究会と派遣専門家は常に、時代の変革に対応し、現場の声に耳を傾けていく必要があるだろう。

派遣先機関の情報
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に日本語教育専門家(以下、専門家)を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたことに伴い、2001年7月より同総領事館に専門家1名を派遣、2006年1月より専門家の派遣先を香港日本語教育研究会に変更した。当該専門家は日本語教育アドバイザーとして、香港及びマカオの日本語教育機関に協力して日本語教育の推進を行なうほか、教師研修やネットワーク形成促進を行なっている。また、香港日本文化協会日本語講座にも教務面で協力している。さらに、中国華南地域の日本語教育に対しても様々な形での協力を行なっている。
ロ.派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
ハ.所在地 Rm701-2, 7/F., Marina House, 68 Hing Man Street,
Shau Kei Wan, Hong Kong
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 2001年

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