世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 香港の日本語学習者

香港日本語教育研究会
木山登茂子

日本人が母語以外の言語を学ぶというとき、まず頭に思い浮かべるのは英語だと思います。それは、英語が小学校や中学校で習い始める言語であり、また、役に立つことばとして認められているからです。香港の人の場合、これにあたるのが英語と中国語(北京語)です。この二つの言語は政府の方針で幼稚園や小学校で習い始めます。住民の9割以上は広東語を母語とする人々ですが、在住外国人も多いこの香港で生まれ育った人々は、母語以外の言語の習得が生活の質を変えるということを切実に感じていると思います。香港と日本ではこうした背景から人々の言語学習への取り組み方が異なります。

さて、アドバイザーの仕事は一般の日本語の先生と比べ、学習者のみなさんに直に接する機会が少なく、みなさんのニーズを知るためには調査や学校訪問などを積極的に行う必要があります。わたしが香港に赴任した2009年に思い立ったのは「2010年香港日本語学習者調査」という調査でした。英語、中国語とはまったく異なった位置にある日本語は香港の人々にとってどんな言語なのでしょうか。

ここに調査の一部を紹介します。この調査は香港日本語教育研究会のウェブページにアクセスしてくださった学習者のみなさんにアンケートの質問に答えていただく方法で行われました。協力してくださったのは10歳から59歳までの1123名です。

次の4つのテーマについて質問項目に回答していただきました。
① 日本についての体験・経験
② 日本についての情報入手法
③ 日本への関心
④ 学習目的

結果は、①③において非常に影響が強いのが、映画、ポップカルチャー、日本の製品・商品、日本の食べ物でした。②では、雑誌、本、テレビ、映画館の映画、ビデオ、インターネットの利用率が高くなっています。④で上位を占めているのは、日本語でコミュニケーションできるようになりたい(97.95%)、日本語自身に興味がある(96.62%)、日本が好きだから(93.68%)、日本へ旅行に行くため(91.18%)、ポップカルチャーを知るため(89.75%)、日本の食べ物について知りたい(84.68%)です。ポップカルチャー、日本の製品、日本の食品、旅行を通じて日本を知り、好きになるという香港の人は多いですが、「好き」ということがこのように人々の日本語学習の目的として意識化されているということは日本人として嬉しいことです。

第7回香港中高生スピーチコンテストの写真
第7回香港中高生スピーチコンテスト

以上の結果は、少し香港に住んでみると肌で感じることができ、ある程度予想できることですが、この高い数字は説得力があると思います。

香港日本語教育研究会では毎年「中高生日本語スピーチコンテスト」を開催しています。今年は厳しい予選を通過して出場した10名のうち、2名がアイドルグループの嵐のことをスピーチの中で取り上げていました。

中学校の先生のためのワークショップの写真
中学校の先生のためのワークショップ

この高校生たちは、嵐のメンバーの生き方から諦めずに努力する気持ちを学んだり、彼らをきっかけにしてお笑い番組や花粉症などの日本に関する知識を得たりしています。優勝に輝いたのはこのうちの一人です。アイドルグループが高校生の日本語学習にギアを入れ、さらに自分なりの意見を構築することに強い影響力を持っているのです。

わたしは上にご紹介した調査の結果と学習者のみなさんの声を肝に銘じ、同時に、これまで香港の先生方が言語教育のプロとして蓄積してこられた実践の報告に耳を傾け、アドバイザーとしての仕事を続けていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に日本語専門家(以下、専門家)を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたため、2001年7月からの専門家派遣は同総領事館の日本語教育アドバイザーとしての派遣となった。2005年、香港日本文化協会内にあった香港日本語教育研究会(以下、研究会)の事務所設立に伴い、2006年1月より専門家の派遣先を研究会に変更した。日本語教育アドバイザーとして当該専門家は、香港・マカオ・中国華南地域の日本語教育機関に協力して日本語教育の支援を行なうほか、教師研修やネットワーク形成促進に努めている。
所在地 Rm701-2, 7/F., Marina House, 68 Hing Man Street,
Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年

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