世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育・日本語学習事情の変化に応じて

香港日本語教育研究会
宇田川 洋子

香港日本語教育研究会(以下、研究会)は香港の日本語教育ネットワークの中心的組織として、日本語教師支援や日本語普及促進活動など、さまざまな事業を行っています。研究会には7つの委員会があり、私は日本語教育アドバイザーとして、学術委員会、中等教育促進委員会の委員であるほか、研究会の論文集「日本學刊」、助成事業、日本語能力試験の各委員会のプロジェクトに関わっています。

香港の日本語教育事情も、世界の動向や多様化する日本語学習者の影響を受けて刻々と変化しています。研究会では、このような変化に即した日本語教育を実践していこうと、既存プログラムの見直しや、新たなプロジェクトへの着手などを行っています。今回は、その中からいくつかご紹介したいと思います。

1.年少者の日本語学習の振興(学術委員会・中等教育促進委員会)

香港では今、年少者の日本語学習が振興し、研究会では、学習者、学校や教員に対する日本語の普及・支援に力を入れています。

<1>中高生を教える日本語教師対象の研修

教師研修ワークショップの発表風景の写真
教師研修ワークショップの発表風景

香港政府による教育制度改革に伴って、大学入試共通試験Hong Kong Diploma of Secondary Educationが導入され、選択科目として日本語の試験も2011年から実施されています。試験は英国の国際試験機関が開発したもので、課題遂行力が重視され、例えば、スピーキングテストには、プレゼンテーションと質疑応答という課題があります。しかし、従来、香港の日本語教育は文法シラバスが主流であるため、先生方にとってこの試験の概念は新しく、教材や教授法についての情報も必要でした。そこで昨年度は、私が前任地英国などで類似の試験に関わった経験を活かし、香港の試験局の協力も得て、シラバスの確認や教材の検討、プレゼンテーション能力を伸ばす教授法などのテーマで研修を実施しました。研修はワークショップ形式で実施し、参加者の先生方には、情報共有や意見交換ができると好評でした。今後は、試験目的以外のコースも考慮し、中学1年からの日本語学習奨励と教員支援を行っていきたいと考えています。

<2>香港小中高生日本語スピーチコンテスト

小中高生日本語スピーチコンテスト小学生の部の出場者と審査員の写真
小中高生日本語スピーチコンテスト小学生の部の出場者と審査員

中高生だけでなく、小学生の日本語学習者も少しずつ増えてきています。子供たちが日本のアニメやゲームに興味を持っているということもあると思いますが、日本のテレビドラマを見て育った世代の親が、子供をいい小学校や中学に入れるために日本語学習の経歴も役立つと考えて日本語学習を勧めたというケースも少なくないようです。そこで、研究会では、今年、既存の中高校生のスピーチコンテストに、小学生の詩の朗読部門を加えました。応募者が少なかったらという私たちの心配に反して、7歳から12歳まで50名近い応募があり、決勝には13名が出場しました。

日本語アドバイザーは、詩の選択、採点基準の作成、予選や決勝の審査員などを担当したのですが、発音の良さや表現力の豊かさに感心しました。このコンテストは日経新聞のアジア版に記事が掲載されるなど、日本語教育の広報にも役立ったようです。また、研究会では、小学生を教える先生方のネットワーク拡充、情報や意見の交換、教授法向上などを目的とするセミナーの実施も計画中です。

2.日本語および日本語教育の普及促進(学術委員会、日本語能力試験委員会、「日本學刊」委員会)

日本語能力試験応募者減少の要因に関する調査と報告

最近、香港では日本語学習者の減少、特に、社会人向け講座での減少傾向が目立っています。また、日本語能力試験受験者も1984年の実施開始以来、増加の一途をたどっていたのが、2010年を境に減少気味です。政治関係、他言語の任期などがその要因ではないかという推測がされていたため、日本語能力試験の応募者を対象に「日本のイメージの変化」「将来の香港の日本語学習者の増減予想」などについてアンケート調査をしてみようということになりました。結果は、政治関係の影響はさほど大きくないものの、韓国語の人気が高まっていることがわかりました。また、日本の経済や2011年の震災の影響に対する不安が少し見られました。この調査の報告は研究会の「日本學刊」16号に掲載され、研究会のウェブサイトからダウンロードもできます(2013年6月掲載)。ただ、この調査は焦点が絞りきれていなかったという反省もあり、今年も改善版の調査を実施する計画です。

このほか、研究会では、在香港日本国総領事館と共催で「香港における日本語の普及促進に関する有識者懇談会」を実施し、日本語普及の方策を話し合っています。

今年も、日本語アドバイザーとして研究会と協力し、さまざまな形で幅広い日本語学習・教育拡充・日本語普及に取り組んでいきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に日本語専門家(以下、専門家)を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたため、2001年7月からの専門家派遣は同総領事館の日本語教育アドバイザーとしての派遣となった。2005年、香港日本文化協会内にあった香港日本語教育研究会(以下、研究会)の事務所設立に伴い、2006年1月より専門家の派遣先を研究会に変更した。日本語教育アドバイザーとして当該専門家は、香港・マカオ・中国華南地域の日本語教育機関に協力して日本語教育の支援を行なうほか、教師研修やネットワーク形成促進に努めている。
所在地 Rm701-2, 7/F., Marina House, 68 Hing Man Street,
Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年

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