世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大学教師として、日本語教育学を深めるために -自身の実践を振り返る研修―

国際交流基金北京日本文化センター
松浦とも子、鈴木今日子、柳坪幸佳

2012年度に実施された、国際交流基金による「日本語教育機関調査」で、中国の日本語学習者数は世界第1位となりました。中国の大きな特徴は、大学など高等教育機関での日本語学習者が多いことです。また、高等教育機関で日本語を教える教師数は1万1000人以上で、全機関教師数の67%を占めます。その中で、私たち国際交流基金北京日本文化センター(以下、北京日本文化センター)は、大学の日本語教師対象の教師研修に積極的に取り組んでいます。

日本語力が高く、博士号を持つ者も少なくない中国の大学教師ですが、私たちがここ数年重視しているのは、「日本語教育研究」の推進です。

中国において「日本語教育研究」は、まだ盛んであるとは言えません。大学の日本語教師は、文法や文学・歴史などそれぞれ専門を持っていますが、日本語教育専門の教師は僅かです。が、教師になって、まず教えるのは日本語。教壇に立っての戸惑いも大きいようです。更には社会の急激な変化に伴って、教え方やコース内容の更新が常に求められます。

「いい教師であり続けたい」とは誰もが思うことです。と同時に、大学教員に共通した思いは、理論を知りたい、小手先の知識では満足できない、そしてできれば実践を論文にまとめたいということではないでしょうか。その中で生まれたのが、「日本語教育学実践研修会」です。

この研修は、北京日本学研究センター(http://www.jpf.go.jp/j/intel/study/support/bj/)と北京日本文化センターの共催で、2009年に始まりました。目的は「研修で学んだ内容を自らの実践と結びつけ、自身の授業での課題を振り返る」ことです。

最初は北京・天津地域の教師が対象でしたが、第5回目にあたる2013年は対象を全国に広げて実施しました。更に、「研究」という性質をより強め、「自身の現場で行った試みを、実践研究としてレポートにまとめる」ことを最終的な課題としました。4か月間のコースの流れは、以下です。

開始前: 事前課題提出

8月: 一週間の研修

日本語教育理論の講義、グループに分かれての課題相談、課題決定

9月~11月: 教育現場での実践

11月: 実践研究レポート提出

12月: 実践研究発表会


自身の実践研究をPPTにまとめて報告する参加者の写真
自身の実践研究をPPTにまとめて報告する参加者

研修では、参加者各自がまず「授業での問題と改善計画」を立て、事前課題として提出するところから始まります。それぞれの計画には、教育への熱い気持ちが書かれていましたが、そのままでは実践研究にはなりません。8月に行われた一週間の研修と課題相談、現場に戻ってからの授業実践、そして最終的にレポートにまとめるまで、対面で、あるいはメールを通じて、自身の課題をどのような実践研究にしていくかについて何度も何度も話し合い、レポート作成に取り組みました。通常授業と並行しての研究は大変だったと思いますが、最終的に19名がレポートを書いて提出しました。

参加者たちは、懇親会の席でも食事そっちのけで教育への思いを語り続けるという、熱い気持ちの持ち主でした。「教育について話したくても、周りに話せる相手がいなかった」「仲間ができて嬉しい」と、口々に言っていました。これからも各地で実践を続け、中国の日本語教育研究を盛り立てていってほしいと思います。同研修の様子とレポートの内容は、報告書「2013年日本語教育学実践研修―成長し続ける教師たち―」(http://www.jpfbj.cn/down/2014/yanxiucezi.pdf【PDF:外部サイト】)をご覧ください。

さて、実践研究と並行して取り組んできたのが、「日本語教育基礎理論と実践シリーズ叢書」の編集及び出版です。


完成した日本語教育学研究叢書から、2013年に出版された二冊の写真
完成した日本語教育学研究叢書から、2013年に出版された二冊

「日本語教育学を学びたい」と思っても、中国でこの分野に関するまとまった書籍がないということが、以前から課題となっていました。そこで私たちが計画したのは、中国初の日本語教育学研究叢書の編集・出版です。叢書は全8冊、内容は教授法・教育研究方法・日中対照研究など、多岐にわたっています。2014年3月には、最初の2冊『日本語学と日本語教育』『協働学習理論と実践』が、高等教育出版社から出版されました。

8冊の本は、これから2015年6月にかけて随時出版されていきます。この本がきっかけとなって、中国で日本語教育研究の裾野が広がることを願っています。 今回は、主に「大学教師と日本語教育研究」という視点から、「日本語教育学実践研修会」と叢書の編集を取り上げました。大学教師を対象として、その他にも「地域巡回日本語教師研修会」「全国大学日本語教師研修会」「日本語教育学シリーズ講座」など、様々なタイプの研修を行っています。また、2013年は高等教育出版社と協力し、初めて中国全土をカバーするオンライン研修も行いました。日本語教育が盛ん、かつ多様な中国においては、様々なタイプの研修を組み合わせ、場を作っていくことが大切だと感じています。

*北京日本文化センター日本語専門家によるその他の業務は、以下のブログをご覧ください。

「北京つなぐブログ」 http://blog.sina.com.cn/tsunagu

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など各層の日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。また、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成促進にも力を注いでいる。教師研修会には、全国大学日本語教師研修会、全国中等日本語教師研修会、日本語教育実践研修会、東北三省・内蒙古高校生プロジェクトワーク/観察型教師研修会及び地域巡回教師研修会などがある。2009年度より社会人向け入門日本語講座も開講。HP以外にMLやブログも活用し情報発信している。
所在地 #301, 3F, SK Tower Beijing, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing, CHINA, 100022
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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