世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 在釜山日本国総領事館日本語教育室の日本語教育活動(2003)

国際交流基金派遣日本語教育専門家 稲見由紀子
国際交流基金派遣青年日本語教師  池田 富子

はじめに

在釜山日本国総領事館日本語教育室の日本語教育活動の写真1

在釜山日本国総領事館(以下総領事館)は、嶺南地方、つまり、釜山広域市、大邱広域市、蔚山広域市、慶尚北道、慶尚南道、の日本に一番近い5地域を管轄している。そのため、総領事館に所属する基金専門家も以上の5地域を担当地域としている。しかし、2002年4月、基金ソウル日本語センターが活動を始めたことにより、より効率的な教師支援活動を行うため、集中教師研修、地方教師会出講などについては、ソウルと釜山の連携を強める方向に動き始めている。

韓国での今年度の大きな動きといえば、2001年より段階的に実施されている第七次教育課程が高校二年生に及び、新たに第二外国語選択の自由を与えられた生徒の多くが日本語を選んだことだろう。また、一般的に学習時間数は少ないようだが、中学校レベルでも日本語教育が広がっている。急増した学習者に対応するために、国レベル、地方自治体レベルで、余剰となるフランス語・ドイツ語教師を主な対象とした日本語教師養成プログラムが実施されており、その結果、当地域でも、大勢の新しい日本語教師が生まれている。そのような状況の下、私たちの主な業務も、今までの一般社会人を対象とする日本語講座の運営から、高等学校、中学校で学ぶ大勢の生徒を視野に入れた、中等教育教師支援へと大きく変わってきている。

嶺南地域の日本語教育

(1)大学、短大

当地域には、日本関連学科のある大学が27校(29学部)、短大が23校あり、それぞれ5,135名、4,290名もの学生が日本語を学んでいる。しかし、今まで増え続けてきた学生数が、今年度は、わずかながらも減少に転じ、また、日本経済低迷、中国経済台頭の影響か、優秀な学生が中国語に流れていると危機感を持つ関係者もいる。

大学で教える日本人専任教師は40名、短大は35名。専任教師総数が、それぞれ163名、94名なので、日本人教師の占める割合は、24%、37%とかなりの高率になる。ほとんどが期間2~3年の契約講師で、その採用方法は、日本の提携校からの受け入れ、韓国内での紹介による採用のほか、最近は、ホームページの求人情報によるものも増えている。

(2)高等学校

先にも述べたように、新教育課程実施に伴い、学習者が急増している。教師不足を埋めるのは、主に新規採用の主専攻教師1ではなく、複数専攻2、副専攻教師3だ。一般的に言って、複数専攻、副専攻教師には、語学教師としての経験が長く、教室コントロールなどにも長けている人が多いようだが、その日本語力、教授技術にはまだ不足がある場合もあり、彼らの能力向上が緊急の課題である。現在、どのくらいの数の高校で日本語教育が行われているかについて全体像は掴めていないが、2002年、2003年と激増していることは間違いない。

(3)中学校

2001年より、新教育課程の下で、学校の裁量に任された時間に、生徒は、第二外国語、漢文、コンピューター、環境、の4科目から1つを選択学習することになった。第二外国語の中では、日本語が一番人気で、多数の中学生が日本語学習を始めた。

副専攻、複数専攻教師および非常勤講師が主にこの新たな学習者を担当している地区もある一方で、大邱市のように30名以上の新規採用教師を中学校に配置したところもある。相当数の中学で日本語教育が始まったのは確かであるが、中学校教育は、道、広域市より下の行政機関が担当しているため、日本語教育実施校数、学習者数等の把握は非常に難しい。

なお、正規の学校教育の外でも、「学院」と言われる語学学校での日本語教育も盛んで、ここでも多数の日本人教師が働いている。週5日、朝、または夜1時間ずつ勉強する「学院」では、社会人、大学生のほか、修能試験(日本のセンター試験にあたるもの)を目指す高校生も多数勉強している。

私たちの仕事

在釜山日本国総領事館日本語教育室の日本語教育活動の写真2

現在、総領事館日本語教育室には、国際交流基金より専門家と青年教師が1名ずつ派遣されている。主な仕事は、釜山韓日文化交流協会日本語講座4の運営支援と授業担当、そして、嶺南地域の中等教育(高校、中学校)日本語教師の支援だが、日本語講座でも、教師クラスの比重が重くなってきており、さまざまな形での教師支援活動が増えてきている。

(1)釜山韓日文化協会日本語講座

教師クラス

複数専攻、副専攻教師を対象に、聞くこと、話すことを中心に日本語運用力伸長を図るクラスを3つ開講しており、複数専攻、副専攻教師、それぞれ約30名ずつ、合計60名が受講している。授業の前後、休憩時間には、自分たちの疑問、生徒から受けた質問などが話題になり、週に1回のこの時間は、初めて日本語を教える先生たちにとって、貴重な意見交換、情報交換の場にもなっているようだ。

当面、教師クラスは、緊急度の高い、複数専攻、副専攻教師を主対象とすることになるが、9月からは主専攻教師の熱心な要望に応え、上級レベルのクラスも開講する。主専攻の先生達にも、教師をしていると日本人と話をする機会がないので、日本語が伸びないどころか、どんどん話せなくなる、という悩みを訴える人が多い。なお、当クラスは、釜山広域市教育庁より「職務研修」として認定されており、修了者には学点2点が与えられる。

一般クラス

1968年、まだ他には日本語が学べる機関がなかったころ、総領事館現地職員によって始められ、その後、1988年よりは基金専門家の派遣もえて、初、中、上級クラスを開設、当地域の日本語教育の中心的役割を担ってきた。しかし、近年、大学での日本語教育が普及し、また、民間日本語学校も増えたため、競合を避けて徐々に規模を縮小、現在は一般民間機関の開講しにくい上級講座だけになっている。

2003年前期のクラス編成は、読解(夜)会話(夜)ドラマ(昼、夜)、ニュース(昼、夜)となっているが、その中で、受講希望者に一番人気があったのはドラマとニュースクラスだった。これは、受講者の「生の日本語を学びたい」という要求を反映しているように感じる。受講生の日本語レベルは非常に高く、また、高速船で3時間足らずで日本、という地理的条件もあって、日本についての知識も豊かで、話題によっては講師よりも詳しいくらいなのだが、だからこそ「生の日本語」に対する要求が強いのかもしれない。その要求に応えるため、私たちも常に新しい生教材の作成に取り組んでいる。

授業は、派遣専門家のほか、非常勤講師として、釜山市内の大学、短大で日本語を教える日本人教師に依頼している。熱意のある優秀な先生たちだが、2~3年で帰国する者が多く、入れ替わりが激しいのが悩みの種である。

(2)中等教育教師を対象としたアドバイザー業務

日本語教育室では、来訪者に対して日本語教育全般についてのアドバイス業務を行っている。また、電話による相談には、可能ならば即答し、即答できないものには、ファックスやメールで、まとめたものを送ったりする。徐々にではあるが、利用者も増えている。

今年度より、基金からの予算措置を得て、日本語教育室内に、教師用参考図書書棚を設け、絵カード、初級会話テキストや、教授法、教室活動についての本などを揃えた。まだ発足したばかりではあるが、今後、先生達のニーズを確認しながら充実させていきたい。

(3)地方教師会出講

嶺南地域には、釜山、大邱、蔚山、慶北、慶南の5つの中等教育日本語教師の研究会があり、それぞれ年1~4回、研究会を開催している。その研究会に出講し、日本語教授法について話したり、ワークショップを開いたりする。休憩時間や会の後には、いつも大勢の先生たちと話をするが、行政区分が違うと教育現場の様子、先生たちの抱える問題も微妙に異なることなどがわかり、貴重な情報収集の場となっている。

(4)中等教育月例日本語教育研究会(仮称)

9月から月に1回、釜山地域の高校教師の集まりをもつ。ベテランの先生達に中心になってもらい、私たちは協力者として要望に応じて手伝うつもりである。気軽に参加して、ちょっと新しい知識を仕入れ、日本語で話して、そして何より、横のつながりの少ない先生達のネットワークを広げる場になればいいと思う。日本語教育の現場を知るために、授業見学をさせてもらってはいるが、まだまだ私たちの理解は限られている。こちらの先生達と学びあう場をもつことで、中等教育日本語教育の現場についての認識が深まり、より効果的な教師支援活動が行えるようになることも期待している。

おわりに

第七次教育課程が施行された結果、中学で日本語教育が始まり、高校でも学習者が激増し、それに伴って教師も増え、まさに今、中等教育の日本語教育は激動の時代を迎えている。当館での職務も、教師支援に重点が移りつつある。中学・高校の授業見学、教師クラス、集中教師研修、地方教師会など、さまざまな機会をとらえて現場の先生方の声を聞き、学びあいながら、地道に教師支援活動を進めていきたいと考えている。

1 主専攻教師:日本教育学科、日本語学科などを卒業、地方自治体教育庁に日本語教師として採用された教師
2 複数専攻教師:韓国教育部がドイツ語、フランス語教師を対象に実施した1年間(1200時間)の日本語教師養成集中研修を修了した教師
3 副専攻教師:地方自治体教育庁がドイツ語、フランス語などの教師を対象に実施した1年間(300時間以上)の日本語教師養成研修を修了した教師
4 日本語講座は、2002年3月に総領事館から釜山韓日文化交流協会に移管された。我々は、総領事館より協会へ派遣される形で講座の運営、教授活動にあたっている。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1968年に日本語講座が発足した時は、初級・中級2クラスだけの小規模なものであった。その後、徐々に規模を拡大していき、88年に基金専門家の派遣を得てからは、本格的な講座として発展することとなった。しかし、近年、一般社会人が日本語を学ぶ場が増えてきたのを受け、当講座は、上級クラスのみに縮小し、専門家の活動も中等教育教師支援へと広がっていった。2002年3月に講座が釜山韓日文化交流協会に移管された後も、専門家/青年教師は運営と授業の一部を支援してはいるが、その業務は総領事館に拠点をおいた教師支援活動が中心になってきている。
ロ.派遣先機関名称 在釜山日本国総領事館
Consulate-General of Japan at Busan
ハ.所在地 1147-11 Choryang-3dong Dong-ku Busan Republic of Korea
ニ.国際交流基金派遣者数 2名(派遣専門家、青年教師)

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