世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 在釜山日本国総領事館日本語教育室の日本語教育活動(2004)

国際交流基金派遣日本語教育専門家 稲見由紀子
国際交流基金派遣青年日本語教師   池田 富子

はじめに

総領事館は、嶺南地方、つまり、釜山広域市、大邱広域市、蔚山広域市、慶尚北道、慶尚南道、の日本に一番近い五地域を管轄しています。そのため、総領事館の基金専門家も、当初より同地域を担当してきました。それ以外の地域はソウル日本文化センターの管轄となります。

韓国での最近の大きな動きといえば、中等教育で第七次教育課程が実施されたことでしょう。その影響を受けて、嶺南地方でも、ほとんどの高校で、第二外国語として日本語が教えられるようになり、また、中学校での日本語教育も急速に広がり始めています。国や地方自治体は、日本語クラスの急増に対処するため、フランス語・ドイツ語教師などを対象として、日本語教師養成研修を実施し、その結果、当地域でも、大勢の新しい日本語教師が生まれています。

そのような状況で、私たちの仕事も、今までの一般社会人を対象とした日本語講座の運営から高校、中学で学ぶ大勢の生徒を視野に入れた、中等教育教師支援へと大きく変わってきています。

私たちの仕事

(1)中等教育教師支援活動

教授法集中研修

釜山・グループ発表(教授法集中研修)の写真
釜山・グループ発表(教授法集中研修)

年2回、夏と冬に中等教育教師を対象とした5日間(30時間)の研修を開きます。計画の段階から実施まで、ソウル日本文化センターの専門家との協働で行います。この研修では、参加者は、講義を聞くだけではなく、みんなで考え、話し合い、課題に取り組む中で、学んでいきます。経験の浅い先生たちからは「経験豊かな先輩の話が聞けてよかった」という声が、また、ベテランの先生たちからも「斬新なアイデアをもった若い先生たちといっしょに勉強するのはいい刺激になった」という声が聞かれます。どちらにしても、大勢の先生たちから「参加してよかった」という声が聞かれるのは、とてもうれしいことで、次の研修への大きな励みになります。

月例教授法研究会

釜山・月例教授法研究会の写真
釜山・月例教授法研究会

昨年9月にスタートしました。最初のコンセプトは、経験豊富な主専攻(注1)の先生たちと複数・副専攻(注2・注3)の先生たちの出会いの場を作り、先輩から後輩へ長年培った「知恵」をわけてもらう、私たちは、必要に応じて会の流れをコントロールし、アドバイスをする、というものでした。でも、現在は、私たちが主導権を握り、経験の浅い先生たちに「教える」というような形になってしまっています。先生たちのニーズを考えて、トピックを決めたり、開催曜日も変えたりしたのですが、参加者も増えません。まだ当分は悪戦苦闘が続きそうです。

書籍・教材貸し出しとアドバイス活動

昨年度、カード教材や、初級会話テキスト、教授法や教室活動についての書籍などを中心とした教師用書棚を設けました。最近は、その存在が徐々に知られてきたためか、書籍・教材の貸し出しだけではなく、書籍・教材を媒介としたアドバイス活動も増えてきています。電話やメールによる相談にも応じています。

地方教師会出講

嶺南地域の教師会の総会にそれぞれ年1、2回出講し、日本語教授法について話したり、ミニワークショップを開いたりします。内容は、集中研修のダイジェスト版の他、新学期の前であれば「かな指導の方法」をとりあげたり、いっしょに教科書分析をしたり、要望に応じた活動もしています。休憩時間や会の後の食事会では、いつも大勢の先生たちと話をしますが、地域が違うと教育現場の様子、先生たちの問題意識も微妙に異なることなどがわかり、貴重な情報収集の場ともなっています。釜山から一番近い蔚山教師会には、月に2回、交代で出講し、日本語と日本語教授力アップを目標とした講座を開いています。

(2)(社)釜山韓日文化交流協会日本語講座(注4)


教師クラス

聞く力、話す力を伸ばすことを主な目的とした4クラスを開講しています。現在の受講者約60名の中には主専攻の先生もいますが、ほとんどが、日本語を教え始めて3年未満の複数専攻および副専攻の先生たちです。授業の前後、休憩時間には、教授法や教科書についての疑問、生徒からの質問などが飛びかい、週に1回のこの時間は、貴重な意見交換、情報交換の場にもなっているようです。なお、当クラスは、釜山広域市教育庁より「職務研修」として認定されています。

一般クラス

現在は、民間機関の開講しにくい上級講座だけで、4コース(会話、読解、ドラマ、ニュース)です。

全コースで生教材を使っていますが、何しろ日本の情報がすぐに入ってくる韓国のこと、受講者はみな教材の鮮度に非常に敏感で、どんなにいいトピックでも、古い、とわかると「な~んだ」という顔をされてしまいます。次々と新しい素材を見つけ、教材にするのは大変ですが、手をかけた教材が作れることが、この講座の存在意義の一つだと考え、録画したニュースやドラマの文字おこしや、ワークシート作りに励んでいます。また、そうやって作った教材は、手を加えて教師クラスでも使っています。授業は、非常勤講師として、釜山市内の大学、短大で日本語を教える日本人教師にも手伝ってもらっています。

おわりに

第七次教育課程が実施され、韓国中等教育の日本語教育は、今まさに激動の時代を迎えているといっても過言ではありません。そのような状況に対応するためには、今後、より一層、ソウル日本文化センター所属の教師との連携を強めていく必要があると感じています。私たちの課題は、情報収集に努め、当地の教育現場に合った教授法を模索することです。授業見学や先生たちとの話し合いから得られた情報を基にして、地道に活動を進めていきたいと思います。

1 主専攻教師:日本教育学科、日本語学科などを卒業、地方自治体教育庁に日本語教師として採用された教師
2 複数専攻教師:韓国教育部がドイツ語、フランス語教師を対象に実施した1年間(1200時間以上)の日本語教師養成集中研修を修了した教師
3 副専攻教師:地方自治体教育庁がドイツ語、フランス語などの教師を対象に実施した1年間(300時間以上)の日本語教師養成研修を修了した教師
4 日本語講座は、2002年3月に総領事館から(社)釜山韓日文化交流協会に移管された。現在、我々は、総領事館より協会へ派遣される形で講座の運営、教授活動にあたっている。開講場所はまだ総領事館だが、2005年1月に協会に全面移転することが決まっている。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語講座は、1968年に総領事館職員によって開設された。その後、1988年に基金より専門家が派遣されるようになってからは、初、中、上級を備えた本格的な講座として、嶺南地方の一般社会人を対象とした日本語教育の中心的な役割を果たしてきた。しかし、近年は、一般社会人が日本語を学ぶ場が増えてきたのを受け、上級クラスのみに縮小している。
2002年3月に講座が(社)釜山韓日文化交流協会に移管された後も、専門家/青年教師は運営と授業の一部を担当してはいるが、その業務は総領事館に拠点をおいた中等教育教師支援活動が中心になってきている。
ロ.派遣先機関名称 在釜山日本国総領事館
Consulate-General of Japan at Busan
ハ.所在地 1147-11 Choryang-3dong Dong-ku Busan Republic of Korea
ニ.国際交流基金派遣者数 2名(派遣専門家、青年教師)

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