世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 在釜山日本国総領事館日本語教育室 私たちの活動

日本語教育専門家 稲見由紀子
ジュニア専門家   池田富子

はじめに

日本語教育室の主な仕事は、中等教育(中学・高校)日本語教師の支援活動です。2002年夏に赴任したときには、一般社会人を対象とした日本語講座(以下一般クラス)の運営が主な仕事でしたが、この三年間で、少しずつ中等教育教師支援に重点を移してきました。今年夏、私たちは離任しますが、その後は、一人派遣となることもあり、(社)釜山韓日文化交流協会に移管した一般クラスへの支援は行わず、基金専門家の活動は、教師支援一本に絞られることとなります。

また、その一般クラスは2006年6月をもって閉講することになりました。1968年より、40年近くもの間、一般社会人を対象とした日本語教育機関として、高い評価を受けてきた一般クラスが終焉を迎えるのは、感慨深いものがあります。しかし、釜山地域だけで18校もの短大・大学で日本語教育が行われ、町中でも日本語教育機関がしのぎを削る現状を考えると、やむをえない判断であったように思われます。

私たちの主な活動

教師クラス(日本語運用能力向上講座)

複数専攻(注1)、副専攻(注2)の先生たちを主たる対象として、日本語運用能力(特に聞く力、話す力)の伸長を目的とした4クラスを開講しています。

中級レベルの1クラス以外、教材は、「今の日本」の一面を伝えるテレビニュースや新聞記事などの生教材が中心です。この一年で扱ったトピックは、「韓流ブーム」「親子留学」「一人客を取り込め」(いずれもNHK衛星放送)など。例えば「一人客を取り込め」では、一人客の増加とその一人客を取り込もうとするビジネスの話題(NHKニュース)から、社会の「晩婚化」「少子化」などへと、関連新聞記事や人口動態調査なども使って話題を広げ、話し合います。もちろん、「お一人さま」「負け犬」などという流行語も取り上げます。

継続受講者のほとんどが、着実に「読む・聞く・話す」力をつけており、主専攻(注3)の先生たちに伍して「教授法集中研修」にも参加し、成果を上げている方も大勢います。これは偏に先生たちの自助努力のたまものなのですが、私たちにとっても何よりの喜びです。

月例教授法研究会

月例教授法の写真
月例教授法

今年度は、「教室ですぐに役立つ研修をしてほしい」という先生たちの要望に応えて、「授業の組み立て方」を考える集まりを企画しました。当地で一番よく使われている二種類の高校教科書を取り上げ、生徒にあわせた授業をするための方法をみんなで考えます。私達の提案をすぐに教室で試してみることができるように、パワーポイント教材を中心にしたサンプル教材も作成しています。

出席した先生たちから、ちょっと授業を変えたら、「今まで寝ていた生徒たちが起きた。」「生徒の反応がよかったので、うれしくなった。」などというコメントが返ってきており、手応えを感じています。

公開授業の支援

今期の月例教授法研究会の「まとめ」として、教師クラスを受講する副専攻教師の一人に、公開授業をしてもらいます。授業計画・教案・教材の作成などは私たちもサポートしますが、授業はティームティーチングではなく、その先生が一人で行います。非日常的な特別な授業ではなく、「ちょっと頑張れば誰にでもできる」いい授業を見せてもらいたいと思っています。見学するのは、教師クラスの仲間の先生たちです。

日本語教授経験の浅い副専攻教師にもいい授業ができることを、実際に見ることは、いい刺激になるのではないかと期待しています。これはジュニア専門家の当地での最後の仕事になります。

集中教授法研修

集中研修の写真
集中研修

この夏も、2004年8月および2005年1月に続き、「文化」をテーマに、中学・高校の先生たちを対象にした研修を行います。企画から実施まで基金ソウル日本文化センター所属の専門家との協働です。

この研修を企画する上で一番むずかしかったのは、「どのような文化を取り上げるのか」ということです。現在の韓国の「教育課程」では、「コミュニケーションと関連のある文化」が重要視されているようなのですが、その一方で、高校生にとって大切なのは、修学能力試験(大学入学のための全国統一試験)の五択問題で問われる「文化」なのです。両者の間には隔たりがあり、私達も悩みつつ研修をすすめています。

これからの課題

釜山から一番近い日本である対馬まで、高速船で約1時間半、大人7,500円、学生6,000円。それだけあれば、当地の人たちは日本に行って帰ってくることができます。他の地域では、中高生が今、または近い将来、学んだ日本語を実際に使う機会に恵まれることは、そう多くはないかもしれません。しかし、当地では、誰でも、望みさえすれば日本に行き、日本語で話をしてみることができると言っても過言ではありません。実際、2004年3月から修学旅行生のビザなし渡航が始まったこともあり、日本に行く高校生は増えてきています。

そんな環境での中高生のための日本語教育はどうあるべきなのか。それを考える主体は、もちろんこちらの先生たちなのですが、支援する私たちも真剣に考えていかなければならないのではないかと感じています。

注1: 複数専攻教師:韓国教育部がドイツ語、フランス語教師を対象に実施した1年間(1200時間以上)の日本語教師養成集中研修を修了した教師
注2: 副専攻教師:地方自治体教育庁がドイツ語、フランス語などの教師を対象に実施した1年間(300時間以上)の日本語教師養成研修を修了した教師
注3: 主専攻教師:日本教育学科、日本語学科などを卒業、地方自治体教育庁に日本語教師として採用された教師
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1968年の開設以来、釜山地域における一般社会人を対象とした日本語教育の中心的役割を果たしてきた。しかし、近年は、日本語教育をとりまく環境の変化を受け、徐々に中等教育教師支援へと活動の中心を移してきた。2005年1月には、一般社会人を対象としたクラスを(社)釜山韓日文化交流協会に完全移転し、現在は、「領事館アドバイザー事業」の名のもと、中等教育教師を対象とした教師クラスの運営、各種教授法研修会の開催、教師からの問い合わせへの応対など、教師支援活動だけになっている。
ロ.派遣先機関名称 在釜山日本国総領事館
Consulate-General of Japan at Busan
ハ.所在地 1147-11 Choryang-3dong Dong-ku Busan Republic of Korea
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名 ジュニア専門家:1名(05年7月まで)

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