世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ソウル日本文化センターの上級学習者支援

国際交流基金ソウル日本文化センター
小西広明 中村直子

上級学習者を対象とした日本語講座

国際交流基金が実施した2006年日本語教育機関調査によると、韓国で日本語を勉強している人の数は約91万人。世界で最も日本語学習者数の多い国です。2010年現在の韓国の人口が約4887万人ですから、国民の約54人に1人が日本語を勉強しているということになります。これは満員電車に乗るとその中に3人日本語学習者がいるというぐらいの数字です。実際ソウルの町を歩いていると「日本語ができる人が多いなあ」という印象を受けます。

さまざまな教室で日本語を教えていますが、初中等機関で約76万9千人(84.4%)、高等教育機関が約5万9千人(6.4%)、学校教育以外の一般約8万3千人(9.1%)という内訳で、実は学習者の8割以上が中学生と高校生です。ソウル日本文化センター(以下、センター)の日本語教育支援もこの中等教育機関が中心となっています。(中等教育機関支援に関しては2008年度版でご紹介しています。)

ところで、ソウルにいてもう一つ感じることは「日本語がうまい人が多いなあ」ということです。今回はそういった「日本語がうまい人」に対するセンターの支援をご紹介します。

センターでは、毎年春と秋に「日本語講座」(以下、講座)を開講していますが、原則として18歳以上の韓国人であること、直近5年以内に日本語能力試験1級に合格していることという募集規定があります。また応募者多数の場合、原則として日本語能力試験の成績が高い方から順に受講を認めていくことになっているため、2010年春学期には受講最低ラインが370点以上といった人気の高い科目もありました。まさに上級学習者のための講座といっていいと思います。では、上級学習者はこれからどんな能力を伸ばそうと思っているのでしょうか。

講座は「翻訳」「対話技術」「テーマ討論」などといった専門科目を開講しており、受講希望者の多い科目は複数クラス設置しています。下のグラフは受講生に受講理由を聞いたアンケートの結果ですが、グラフが示すとおり、現在開講している科目が「他機関にはなく、受講生の希望する内容である」ことがおわかりいただけると思います。

受講生に受講理由を聞いたアンケートの結果

テーマ討論Ⅰの授業の写真
テーマ討論Ⅰの授業では
ディベートが行なわれました

さらに特筆すべきは、講座では、国際交流基金が研究・開発を進めているJF日本語教育スタンダードを取り入れた講座運営・授業実践を行なっているという点です。その成果は「JF日本語教育スタンダード試行版」において報告されています。また、2009年10月に開催されたシンポジウム「JF日本語教育スタンダード―その活用と可能性―」でも「上級コースにおける教師と学習者の学習目標の共有と教師の内省」と題して講座の実践報告が行なわれています。講座では今後も日本語能力記述文(Can-do)やポートフォリオを利用した日本語教育を実践し、その成果を発信し続けていきたいと考えています。

2010年春学期は6科目9クラスで約160名の方が勉強していますが、わたしたちはこうした上級学習者に対して直接的な支援をすることによって、日韓の相互理解と交流の促進に寄与することができると考えています。また、国際交流基金の海外事務所が全世界で提供している講座の中で、当講座が唯一、日本語能力試験1級合格者を対象としたものなので、ここでのノウハウの蓄積やJF日本語教育スタンダードの講座への活用例が、今後、基金講座のみならず、広く日本語学習機関の活動の参考になればと願っています。

♪♪移転しました♪♪

新しいセンターの図書館の写真
新しいセンターの図書館

センターは、2009年11月、若者の町「新村」に移転しました。ここは延世大学、梨花女子大学など、多くの大学や教育機関が集中しているところで、韓国の若者文化発信の拠点です。

新しいセンターは、文化情報室(各種日本語教材などの日本語教育関連書籍を含む約15,000冊の図書、約3,700本のビデオ、49種類の雑誌を所蔵し、貸し出しサービスをしている)のほか、3つの講義室があり、上記講座や日本語教師サロンなど、さまざまな活動が行われています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行うとともに、教師を対象とした支援を大きな柱とした各種支援を実施する。
具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、日本語能力試験1級合格レベルの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けてホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行っており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行っている。
所在地 Vertigo Bldg. 2&3F, Changcheon-dong 18-29(Yonseiro 10-1), Seodaemun-gu, Seoul 03779, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年

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