世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 地方巡回の目的 見えにくいニーズへのアプローチ

国際交流基金ソウル日本文化センター
小西広明 中村直子

「日本語学習者数世界一」その数「96万人!!!」(2009年度海外日本語教育機関調査による)と言われても、韓国に来るまではいったいどういう状況なのかまったく想像できませんでした。実際に来てみると「なるほど!」とうなずける出来事にたくさん遭遇しました。街を歩いていると、いたるところで目にする日本語の看板、地下鉄などのアナウンスや掲示板に驚くだけでなく、タクシーの運転手、何気なく入ったお店のおばちゃんまで、かたことの日本語で一生懸命話しかけてきたりします。韓国語が分からず困っていると、周りの人が日本語で助けてくれる、そんな状況に何度も出会いました。日本語がそこらじゅうに溢れている、「これが日本語学習者数世界一の国なのか」と、実感させられる毎日です。

専門家の業務

なぜこんなに日本語を話せる人が多いのか。それは学習者数の90%以上が中等教育機関で学ぶ学習者である、ということに大きな関係があるでしょう。つまり、日本語を学ぶ入口が学校教育の比較的早い段階で、どの国よりも広いということが、自然に日本や日本語を受け入れるきっかけになっていると思われます。

そんな巨大な日本語市場に派遣された日本語専門家(以下、専門家)の業務はというと、もちろんその膨大な学習者を支援することに他ならないのですが、その中でもやはり9割以上を占める中等教育学習者支援に重点が置かれています。ただし、これだけ多くの学習者に直接支援を行うことは難しいため、その指導者である教師への支援を通して、より効率的な学習者支援をめざしています。

その主な活動内容としては、毎年夏と冬にソウル日本文化センター(以下、ソウルセンター)で行われる日本語教師集中研修、年8回行われる日本語教師サロンのほか、地方の研究会への出講・巡回ワークショップ、学校訪問などを行っています。今回はその中の一つ、地方への出講・巡回ワークショップについてお話したいと思います。

地方への出講・巡回ワークショップ

地方でのワークショップの写真
地方でのワークショップ

韓国は全国1特別市、6広域市、8道、および1特別自治道の16地域に分かれており、各地域には中等日本語教師の集まりである「中等日本語教育研究会(以下、研究会)」が組織されています。各研究会では年に数回、集会を開いて勉強会やセミナーなどを行っています。ソウルセンターが担当している地域には11の研究会があるのですが、昨年(2010年度)一年間では、そのうち6つの研究会(合計12回)へ出講しました。内容は、「発音」「文法」「聴解」「会話」「文化」などをテーマに、より良い教え方について考えるワークショップが中心でした。

このような地方巡回では、教師としてのスキルアップもさることながら、現場の先生方の苦労や悩みに耳を傾け、時間と空間を共有することに大きな意義があると思います。普段センターの中で仕事をしている私たちにとっては、このような機会を通して教育現場のニーズを敏感に察知していくことが大切です。今後、さらに地方の研究会への働きかけ、結びつきを強めることで、現状把握や情報収集に努めていきたいと考えています。

普段会えない先生方との情報交換の場の写真
普段会えない先生方との情報交換の場でもあります

韓国では各地方の研究会のほかに、現地韓国人教師による全国的な中等教育日本語教師のためのウェブサイトが開設されています。普段忙しく研究会などに出られない教師にとっては、アクセスするだけで様々な授業のアイデアや教材等が共有できます。

研究会やウェブサイトなど、教師としてのインフラが整いつつある韓国ですが、実はそれらに積極的に参加する教師はそれほど多くはないようです。現在、中等機関で教える日本語教師数は約3,900人、そのうち私たちが昨年(2010年度)研修会や研究会で直接会った教師は延べ約400人。教師一人当たりの学習者数を考えると、その数も非常に限られています。活発に活動しているところは当然目に見えやすいですが、実は埋もれている部分のほうが大きいのかもしれません。

今後の課題―見えにくいニーズの開拓

今後、活動の範囲をさらに広げていくためには、見えるところ、求められているところでできることを精一杯やることはもちろんですが、見えにくいところにニーズが埋もれている可能性があることも視野に入れていく必要があるでしょう。見えにくいところにアプローチするには、まずはアプローチできるところを足場に、その範囲をどう広げていくかを考えていかなければなりません。そこにニーズが隠れているかどうかは未知数ですが、少しずつでもそれを開拓することができれば、この整ったインフラを有効に活用できる教師が増え、私たちにとっても中等教育支援に貢献できる機会が増えるのではないかと思います。地方への巡回はそのような「足場づくり」としても重要な意味を持っていると言えるでしょう。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行うとともに、教師を対象とした支援を大きな柱とした各種支援を実施する。 具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、日本語能力試験1級合格レベルの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けてホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行っており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行っている。
所在地 Vertigo Bldg. 2&3F
Yonseiro 8-1, Seodaemun-gu, Seoul 03779, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年

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