世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) さらなる進化をめざす韓国の日本語教育

国際交流基金ソウル日本文化センター
林敏夫・鎌田牧子・鎌田美保

1.多文化・多言語化の進む韓国社会

韓国の日本語教育は成熟期に入っているということができるのではないでしょうか。

2012年に国際交流基金が実施した日本語教育機関調査の結果、学習者数こそ世界第3位となりましたが、全人口のおよそ60人に1人が日本語を学んでいるという状況は、他国では考えられないことです。そして、日本と韓国との間には年間556万人の人々の往来がありますが、これは韓国の人口の1割を超えています。また、韓国社会はこの数年の間に確実に多文化・多言語化しつつあります。電車のアナウンスや観光地の案内板は、英語、日本語、中国語が普通になり、行政機関に対する苦情申し立ても13言語に対応するようになりました。各地域にはグローバルセンターが設置され、外国人のためのサービスも充実してきています。驚くのは、観光スポットなどのボランティアの通訳ガイドのレベルが高く、普通の観光客が利用するホテルではほとんどが日本語で対応してくれることです。

こうした多文化・多言語化の背景には、国際結婚の増加ということもあります。現在の韓国の国際結婚率は10%程度で、日本の4.3%(2010年)に比べてもはるかに多いことがわかります。当地で日本語教育に携わっている日本人教師も、韓国人の配偶者がいる場合がかなりの数に上ります。その結果、継承語教育も大きな問題になりつつあります。韓国では、日本以上に少子化が深刻な問題です。その分、こと外国語教育に対しても、質的な充実を望む声が高くなっています。

2.中等教育への支援

韓国の日本語学習者の8割以上を占める70万人弱が中学生・高校生です。この数は全世界の学習者の17.6%を占めていますが、この中等教育の指導要領にあたるものが「教育課程」です。2009年に改訂されたものが現在実施されているのですが、ここには語学教育の最新の成果が反映されており、コミュニケーション活動と異文化理解が大きな柱になっています。つまり、日本語学習の根本理念の部分で、CEFRやJF日本語教育スタンダードと共通の基盤を持っているということです。レベル的にはA1~A2レベルが中心になりますが、この具体的なCan-doもかなりの程度で重なっています。また、釜山を中心に、より韓国の実態に合わせたCan-do作成も進められています。

このような状況に合わせて、国際交流基金ソウル日本文化センター(以下、ソウル日本文化センター)はこれまで「評価」や「教材の使い方」をテーマとする集中研修、各地域の要請に応じた研修等、様々な形で教師に対する研修を行ってきました。

一方で、外国語科目が必修から選択に変更になったこと(実は、これが学習者減の最大の要因)を受けて、日本語学習者、あるいは将来の学習者に直接働きかけ、少しでも多くの生徒に日本に興味を持ってもらい、日本語の選択を促すために、中学生を対象とした「日本語キャンプ」を、ソウル、仁川、京畿道の日本語教育研究会(中高教師の教師会)への協賛の形で実施しました。2014年2月、「グローバルリーダーへの第一歩」という全体テーマのもと、各地域から集まった中学生51名と教師18名が1泊2日の日程で、着付けや伝統的な遊びから、アルゴリズム体操、J-POP(「恋するフォーチュンクッキー」の振り付け)、日本文化に関するクイズ、と古今にわたる多様な内容の体験活動を行いました。2日間、教師たちがそれぞれの「得意技」を持ち寄った熱気の溢れる会場で、生徒たちの得たものは非常に大きかったと思います。

3.日本語講座

ソウル日本文化センターでは、一般の学習者向けに文化日本語講座を開講しています。こちらについては2013年度から科目を大きく増やし、2014年度前期には、関西のことばや文化、文学史や漢字、アニメや朗読と歌を学ぶ講座、茶道の体験講座など様々な講座を開講しています。すべて日本語だけで行う講座の内容に韓国の学習者たちは目を輝かせ、「そうか!」と大きくうなずき、授業終了後は質問攻めという状況が続き、担当講師たちは毎回汗だくです。学習者の日本語能力のレベルの高さだけでなく、日本文化への関心の深さ、そして何よりよく話す積極性にはいつも驚かされています。
そして、中・上級レベルの学習者を対象とした日本語講座は10年以上の実績をもち、2014年度の秋からは国際交流基金の『まるごと 日本のことばと文化』を使用した講座も開講する予定です。これまで以上に「実際の場面で〇〇ができる」というコミュニケーションを重視した内容へと充実させていくつもりです。日本語能力試験のN1合格者が非常に多いここ韓国でも、実は漢字や文法はよく知っているけれども、うまく話せないと嘆く多くの学習者がいます。そういう学習者に満足して学んでもらえる場を提供し、従来とは少し違ったクラスを体験してもらいたいと考えています。

いま、日韓関係は難しい局面にありますが、なぜか、熱気と笑い声があふれる教室の中ではお互いの文化を深く理解しあえるという確信が持てるのです。

ソウル日本文化センターは、こうした新たな試みに次々と挑戦し、日本語教育のさらなる進化をめざしています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行うとともに、教師を対象とした支援を大きな柱とした各種支援を実施する。
具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校及び高校への訪問授業等である。また、日本語能力試験N1合格レベルの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けてホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行っており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行っている。
所在地 Vertigo Bldg. 2&3F
Yonseiro 8-1, Seodaemun-gu, Seoul 03779, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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