世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) よりアクティブな日本語教育へ向けて

国際交流基金ソウル日本文化センター
林敏夫・小川靖子・柿内良太

1.多様化の進む韓国の日本語教育

国際交流基金が3年ごとに実施する日本語教育機関調査では、調査時点の日本語学習者数はわかるのですが、それがどのぐらいのレベルと数とで累積されていくのかということはわかりません。そうした点を考慮するならば、2012年時点の学習者数こそ世界第3位に後退してしまいましたが、韓国ほど日本語普及率の高い国はないと思います。

教育政策の変更により第二外国語の履修者が大幅に減少したため、日本語学習者の全体数も大きく減りましたが、例えば、国際交流基金ソウル日本文化センターが協力している高校生・大学生のスピーチ大会や演劇大会のレベルは、年々確実に高まっています。そして、少子高齢化が急速に進む韓国社会では、生涯学習としての日本語学習が盛んになってきており、例えば、ソウル日本文化センターの日本語講座では60~70歳代の学習者も熱心に日本語を勉強しています。こうした、学習者層の拡大と学習内容の質の高まりとが、韓国の日本語教育全体を下支えしていると言っても過言ではないでしょう。

韓国社会は、多文化・多言語社会へと大きく舵を切っており、その取り組みは日常生活の様々な場面や企業活動や観光の分野などに顕著にあらわれています。韓国語のわからない人でも以前よりは国内旅行はしやすくなっており、買い物や食事などでも多言語の対応が期待できます。大きな病院はもちろん、都市部の日本人が比較的多く住んでいる地域であれば、小さなクリニックでも日本語で対応してくれます。また、大企業などでは数十年にわたり自前で日本語教育を実施しているところもあり、最新の言語教育理論を取り入れることにも熱心です。

この数年来若干目減りしているとはいえ日韓の間では年間500万人以上の往来があり、韓国内に進出している日系企業も659社(2013年10月現在)を数える日韓関係ですから、国交正常化50周年を機に、今こそ、ことばと文化の学びを通じて、ともに新たな未来を開いていかなければならないと考えています。

2.中等教育への支援

ソウル日本文化センターには3名(釜山派遣専門家を除く)の日本語専門家が派遣されており、中等・高等教育への支援と日本語講座の運営とを主たる業務として担当しています。

教育政策の変更により日本語学習者数が減少したことで、学校教育機関の日本語教師たちは大変な苦境に立たされています。そうした中で、日本語を教えることへの自信や元気を感じにくかったり持ちにくかったりという声を聞くこともあります。ソウル日本文化センターとしては、こうした教師たちが自信を取り戻し、彼らに少しでも元気になってもらおうと、アクティブな日本語教育をめざして、支援の活動を続けています。

2014年にソウル、仁川、京畿道の日本語教育研究会(中学・高校教師の教師会)が始めた中学生向けの「日本語キャンプ」は、企画・運営に携わった多くの教師によって2015年にもさらに進化した形で実施されました。昨年の「恋するフォーチュンクッキー」に代わって、今年は「ようかい体操第一」で生徒も教師も弾けていました。このキャンプでは、その他に、日本の伝統的な遊び、たこ焼きづくり、浴衣体験などの様々なプログラムを通し、日本語で生徒と教師がつながり、たくさんの“元気”を感じることができました。

生徒ばかりではありません。教師の元気と活力のある授業のために、教師研修の根本的な見直しも行ないました。教師全体が厳しい局面に立たされていることと、オンライン研修が普及することとで、現在、直接参加型のオフライン研修が低迷しています。かつて、ソウルと釜山で夏冬の2回ずつ実施されていたソウル日本文化センター主催の5日間の「中等学校日本語教師集中研修」は、2014年からは年1回になってしまいました。

そこで、2015年の研修では、従来の座学中心の研修ではなく、研修自体が魅力的な「体験交流活動」を核にしたものになるような形態を考えました。さらに、教室を出る、あるいは教室の外とつなげるというコンセプトも大胆に取り入れることにしました。その結果、2015年の研修の柱は、「ソウル日本人学校訪問」ということにして、その準備からふりかえりに至る一連の過程のもとに研修のスケジュールを組むことにしたのです。研修目標も「体験交流活動を通じて、異文化理解の授業を考える」としました。また、教室の外とつなげるということで、ブダペストとハングアウトでつないでインタビューを行なう活動も取り入れました。

結果的には参加者が、昨年の19名から27名に増加し、研修の満足度も非常に高くなりました。そして、何よりも参加した教師たちがアクティブに体験交流活動に取り組む姿が印象的でした。オフラインだからこそ可能な研修のあり方という点について大いに考えさせられる研修であったと思います。

ソウル日本文化センターの教師研修:教室を飛び出した体験学習の写真
ソウル日本文化センターの教師研修:教室を飛び出した体験学習。
ソウル日本人学校の前で、日本人学校教諭とともに。

3.日本語講座の改編

ソウル日本文化センターでは2002年より一般日本語講座を開講してきました。上級の学習者を対象とした講座として10年以上の実績があり、2011年度からは中級のクラスを開講し、2013年度からは文化日本語講座も充実させてきました。その講座全体が2014年度秋から大幅に改編されつつあります。

国際交流基金が制作している日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』を使用するコースを入門の段階から設置し、これまで技能別に科目が設定されていた中級レベルも総合的に学習できる体制にしました。

ソウル独自の上級科目としては、「韓日翻訳」や「日韓通訳」がありますが、これを残しながら、上級は「産出」と「やりとり」が中心の「スピーチ&ディスカッション」と、「受容」が中心の「メディアで学ぶ日本語」という科目に再編しました。

沖縄の伝統芸能を講師とともに楽しむ文化日本語講座の写真
沖縄の伝統芸能を講師とともに楽しむ文化日本語講座

そして、このような一般講座に対して、茶道、日本の小説、お笑いなどのユニークな切り口から、日本語だけでなく日本の文化的な側面にも焦点を置いた文化日本語講座を数多く配置し、講座全体をさらに充実したものへと進化させています。

受講生も60~70歳代のシニア世代から大学生までが席を並べて熱心に勉強していますし、これまで多かった会社員、主婦、学生の他に、今学期は、大学教授、作家、映画監督までもが足を運んでくれています(国際交流基金ソウル日本文化センター『カチの声 第100号【PDF:外部サイト】』をご覧ください)。

ソウル日本文化センターは、こうしたよりアクティブな日本語教育へ向けて、日々様々な活動を展開している次第です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行なうとともに、教師を対象とする支援を大きな柱とした各種支援を実施する。
具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、入門段階から日本語能力試験N1合格レベルまでの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けて、ホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行なっており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行なっている。
所在地 Vertigo Bldg. 2&3F
Yonseiro 8-1, Seodaemun-gu, Seoul 03779, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年

ページトップへ戻る