世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)韓国の「あつい」日本語教師、そして中高生

国際交流基金ソウル日本文化センター (嶺南地域担当)
中野友理

韓国の日本語教師は「熱い」

中等教育における外国語教育は、どの国でも国内の教育制度改革の影響をもろに受けざるを得ません。韓国でも、近年の教育カリキュラム改定で、「日本語」を含む「第二外国語」科目は必修科目から選択科目となりました。これに加えて少子化も進む当地では、中学・高校の日本語学習者数が以前と比べて減少しています。日本語教師達にとっては厳しい状況といえるでしょう。しかし、そんな向かい風の中でも教師達は、生徒がより効果的に日本語を学習すること、言語だけでなく異なる文化を理解することで何らかの気づきを得ること、日本語学習が将来へと繋がる学びの場となることを、前向きに目指しています。

教師研修の様子の画像
教師研修はアイディアの宝庫

釜山日本語教育室では、そんな現役日本語教師のために教師研修を毎年2回行っています。そもそも日本語力も教授力も高く、また熱意もある先生方との研修は大変内容の濃いものです。2016年前期の研修は、単なる日本語のブラッシュアップではなく、一歩進んで「関西地方」の言葉と文化を知る機会としました。常に日本語の力を磨いている先生方にとっては、関西弁もお手の物。ネイティブである韓国・慶尚道方言と比べても引けを取らない「まいど!」「ちゃうちゃう」を披露していました。また教授法を学ぶ時間においても、生徒が主体的に日本語を学ぶための方法を話し合い、よりアクティブな教室活動を参加者全員で共有すべく、様々なアイディアが出されました。

既に経験豊かな日本語教師が多い韓国。その中でも特に日本と近い嶺南地域(釜山市、大邱市、蔚山市を含む韓国南東部、慶尚道の総称)。私は「日本語教育アドバイザー」という立場ではありますが、韓国の先生方の言動から気づくこと、教わることも多い日々であります。ここで私が先生方のために何ができるのか。それは、日本語の微妙な使い回しや表現に隠れている私たちの思考、文化に見え隠れする価値観、日本社会や教育界に起こる新しい動きを常に共有し、話し合う機会を持つことです。このような私と韓国の先生方との繋がりが、日本と韓国の真の絆をより強く保つための助けになると考えています。

「日本ってどんな国?」中高生の関心の層が「厚い」

男子校の日本語クラブ活動の様子の画像
男子校の日本語クラブ活動

上でも述べたように、中学・高校で日本語を学ぶ生徒たちは、以前と比べると減少傾向です。とはいえ、その数は70万人弱(国際交流基金2012年度日本語教育機関調査より)にもなります。私の業務の一つに中学・高校への訪問があります。どの学校を訪れても、授業で習う以上に日本語の達者な生徒、アニメや漫画など日本文化が大好きな生徒、将来日本留学を夢見る生徒などが、少なからず存在します。また、「日本語クラブ」というサークル活動も珍しくなく、メンバーには授業で日本語を学んでいない生徒達もいるのです。

生徒達は私に、日頃感じている疑問をどんどん投げかけてきます。彼らの質問のいくつかをご紹介すると、
「日本のどこを旅行したらいいですか?」
「日本でいちばんおいしいものは何ですか?」
「ラーメンは何味がいいですか?」
という旅行準備系から
「日本の学生はどのぐらい勉強しますか?」
K-POPは人気がありますか?」
「日本の学生も第二外国語で韓国語を勉強しますか?」
という同世代への興味。
「日本の若者は、みんな就職できますか?」
「日本人は韓国人のことをどう思っていますか?」
といったちょっと社会的な質問も飛びだします。時には、
「このクラスで誰が日本人っぽいですか?」
「この中で誰が一番、日本でモテると思いますか?」
という、返答に困ってしまう質問もありますが、日本への関心が決して低くないことがわかると思います。

隣国に対する好奇心と積極的な態度を育んでいるのは、まさに先ほど紹介した日本語教師達です。先生方の「日本語教師」という仕事へのプロ意識と情熱、日本への飽くなき興味は、そのまま生徒に受け継がれているのだなと感じるのです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1988年以来、在釜山日本国総領事館に日本語専門家が派遣されて嶺南地域の日本語教育を支援してきた。2005年8月より、派遣先はソウル日本文化センター、勤務地は釜山(釜山日本語教育室)という派遣形態に変更された。日本語専門家の担当業務は、当地域の中学・高等学校などの韓国人日本語教師を対象とした中等日本語教師職務研修、嶺南地域教育庁及び各中等日本語教師会への出講、学校からの依頼に応じて行う出張授業等である。
所在地 YMCA Bldg.15F, 319 Jungang-daero, Dong-gu, Busan 48792, Korea
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名(嶺南地域担当)
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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