世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) モンゴル日本センターより(2006)

モンゴル日本人材開発センター
桜井千代子

アウトリーチの視点

出張講座「日本語一日体験授業」に出席した子どもたち(左端は当センター職員)の写真
出張講座「日本語一日体験授業」に出席した子どもたち(左端は当センター職員)

「すべてはモンゴルで日本語を学び、教える人たちのために。日本語チームの誓い」という紙が日本センターの事務室に貼ってあります。これが開館当初からの日本語コースの運営の指針です。

日本語を学びたい、教えたい人のために何ができるかを考える時、思い出すことがあります。それは以前、自分が社会教育(現在は生涯学習というようですが)の仕事に携わっていたころ、ある講師が言われた言葉です。「社会教育とは、手が届く場所のその先にいる人をも対象にしていくべきで、それがアウトリーチの考え方です。」というものでした。これは日本センターの事業を考える際にも重要な示唆ではないかと思うのです。

先日、ゲル地区(*注1)にある、NGOが運営している施設からの依頼により、「日本語一日体験授業」の出張教室を実施しました。この施設では予算が乏しい中、教育に恵まれない地域の子どもたちを対象にさまざまな活動(日本人のボランティアによる日本語教室を含む)を行っています。以前から日本センターの行事にもお誘いしていたのですが、市の中心地から距離があるため、時間的にも金銭的にも難しいということだったのです。今回、先方の先生も子どもたちも、こちらが行くのを待ち望んでいた様子が伺え、手ごたえを感じました。モンゴル日本センターの目的の一つである「日本モンゴルの相互理解促進」を推進するためには、ターゲットが集まっている場所へ出向いて実施するアウトリーチプログラムの積極的な実施が必要であると感じています。

(*注1)「ゲル」は遊牧民の居住用テントのこと。都市近郊では、ゲルに住む定住者も多く、定住者のゲルが集まっている地域を「ゲル地区」とよぶ。

相談窓口としての機能

日本語コースには、来館、またはメールでいろいろな相談が寄せられます。その内容は主に(1)日本留学やビザに関して、(2)日本語の教授法や教材について、(3)日本語教師の求人・求職などです。(1)、(2)についてはセンターの図書室の情報をフルに活用します。豊富に揃えてある日本の大学等の資料、留学試験関係書籍を紹介し、参考にしてもらいます。また初級・中級の教科書やそれを補完する教材を示し、使い方をアドバイスします。(3)については、教師を必要とする学校からの相談と、学校をかわりたい、または日本語教師の仕事がしたいという在留邦人からの相談の両方があります。日本語教師メーリングリストに載せたり、こちらでつかんでいる情報に照らし合わせて紹介したりすることで、この3ヶ月に2人の先生の就職が決まりました。

相談の中にはおもしろいものもあります。日本留学経験のある大学生(女性)は「卒業式に日本の着物を来て出席したいので、誰か着せてくれませんか」と聞きに来ました。私には技術がなく困ったのですが、JICA派遣シニアボランティアの方にお願いし、無事に着せることができました。「日本に関することだから、日本センターに聞いたらなんとかしてくれるのでは。」という期待が様々な相談という形で現れるのだと思います。

人材のネットワークを活用し、また日本大使館・JICAモンゴル事務所などとの連携を密にすることで、今後も可能な限り様々な要望に応えていきたいと考えています。

日本語力プラスアルファが必要

日本センター1階のパソコンで自分の日本語能力判定のための簡易テストを受けている写真
日本センター1階のパソコンでは自分の日本語能力判定のための簡易テストがうけられます。

私が初めてモンゴルに赴任したのは1994年。日本語教育大衆化の幕開けの時代でした。社会主義時代には日本語習得は厳しく制限されており、日本語を学ぶ機会が与えられたのは1年に数人だけでした。それが1990年の民主化によって一挙に開放されたのです。

005年には日本への留学生数も1000人に近づき、(*注2)首都ウランバートルで日本語を話せる人は珍しくなくなりました。そのような状況の中、学んだ日本語をいかに仕事につなげていくかが今後の課題です。日本センターでは「日本語IT初級・中級コース」「ビジネス日本語コース 中級・上級コース」などを設けて人材育成をはかっていますが、日本語の高い能力に加え、得意分野が求められる傾向は今後ますます強くなっていくことでしょう。

(*注2)2005年5月1日現在留学ビザで学んでいる留学者数。日本学生支援機構(JASSO)による。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
当センターの目的は、モンゴルの市場経済化のための人材開発を行うこと、日本に興味のある人に、日本語・日本文化など日本についての情報を提供することなどを通して、両国の友好関係をますます発展させ、両国民の相互理解を深めることである。日本語の話者や教員を養成する日本語コース、モンゴルの経営者を育成、支援するビジネスコースなどがある。
ロ.派遣先機関名称
The MONGOLIA-JAPAN CENTER
ハ.所在地 P.O.B.46a/190, Ulaanbaatar, MONGOLIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
日本語コース
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2004年
(ロ)コース種別
選択(ノンフォーマル教育) 教師研修
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名) 非常勤6名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各コース定員32名以下
(2) 学習の主な動機 留学・仕事上必要・日系企業への就職希望・日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職・日本語教育機関に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
コースによるが敢えて平均を取れば三級以上二級以下程度。
(5) 日本への留学人数 留学経験者は数十名。

ページトップへ戻る