世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 地方へ広げたい日本語教育

モンゴル日本人材開発センター
桜井千代子

大相撲の幕内力士全員の名前と顔が一致するモンゴル人が珍しくない、と聞いたら日本人はびっくりするでしょうか。ここモンゴルでは朝青龍・白鵬時代の到来とともに、相撲を介して日本や日本語に興味を持つ人が増えているのを感じます。とはいえ、平均人口密度が1.7人/平方キロメートル、しかも人口の半分近くが首都ウランバートルに住む状況の中、地方に住む人々にはなかなか日本語を学ぶチャンスがありません。「モンゴル日本人材開発センター(以下「センター」と略す)が私の県にあったらいいのに・・・」という声をよく聞きます。

初の全国規模の教師研修実施

「中学校日本語教師研修」の案内板の写真
「中学校日本語教師研修」この部屋でやっています。

モンゴルの国土は日本の4倍。センター職員が地方に長期出張をして日本語を教えるというのも現実問題としては難しいものがあります。そこで、地方を含むモンゴル全体の日本語教育の振興には、まずは今日本語を教えている先生のレベルアップを図ることが大切だと考え、ウランバートル市教育局と共催で6月5日から8日まで「中学校日本語教師研修」(全4日24時間)を実施しました。

これは全国規模の教師研修としては初の試みでした。まず、どの県のどこの学校で日本語を教えているのかを調べることから始めました。日本語学習者数が急激にのびているモンゴル。新しい学校、小さな学校はなかなか網にかかってきません。国際交流基金の「日本語教育機関調査」のデータのほか、日本語教師、国際協力機構(JICA)や大使館関係者などからの口コミ情報等を駆使して、地方の学校に個別にあたりました。各県の教育局にも情報提供を仰いだ結果、地方から7地域・8名の教師(首都の2名と合わせ合計10名)が研修に参加してくれました。

首都から700キロはなれたフブスグル県の先生は「新聞の全国版の広告を見た」と言ってさっそくセンターに申し込みに来てくれました。「私の県で日本語を教えているのは、自分一人です。」という先生もいました。昨年地方で実施した「一日日本語教室」で知り合った先生は来月出産を控えていましたが「どうしても出たい」と参加してくれました。参加者の期待の大きさをひしひしと感じました。

学習者中心の授業をするために

教師研修の一コマ-ネイティブ日本語教師を交えて情報交換の写真
教師研修の一コマ-ネイティブ日本語教師を交えて情報交換(右から2番目が筆者)

モンゴルでは社会主義時代から「教師は知識を与える人、生徒はそれを拝聴する人」という「教師主導」の授業が伝統的に行われてきました。文法はモンゴル語で説明し、授業では暗記が重要です。知識や正確さは身につくかもしれませんが、果たして使えるようになるかは疑問です。実際の会話場面では、相手は教科書の「Aさん」「Bさん」のように話してはくれないのですから!

最近、教育省が中等教育の外国語学習に関する指針である「新スタンダード」を発表しました。これは、従前の教育とは反対に「学習者中心」、「実用的」、「意味・場面の重視」、「機能的」、「コミュニカティブ」という5項目がキーワードになっています。今回の研修はそれにそって行うこととしました。

例えば、新しい文法(文型)の導入は「モンゴル語で説明」するのでなく、学習者自らが発見したと感じるような方法を考える。学習の目的は「コミュニケーションすること」ですから、インフォメーションギャップやロールプレイを取り入れた応用練習を重視する(ゲームやアクティビティーは「遊び」ではないことに気づいてもらう)ことなどです。

研修カリキュラムも講義形式でなく、なるべく参加型のものになるよう心がけました。受講した教師の日本語力は必ずしも十分ではありませんでしたが、「導入→基本練習→応用練習」の流れにそって40分の授業の教案を書き、教材を作成し、媒介語を使わずに模擬授業をおこなうことができたのは、彼女たちの自信につながったでしょう。

今回の研修を通じ、各県の日本語教師の交流、情報交換が図れたことは非常に有効でした。「一人で教えているんじゃないんだよ。仲間がいるよ。」ということを感じてもらえたと信じています。2年後ぐらいには上級研修へつなげていければいいなあ、と考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
モンゴル日本人材開発センターの目的は、モンゴルの市場経済化のための人材開発を行うこと、日本に興味のある人に、日本語・日本文化など日本についての情報を提供することなどを通して、両国の友好関係をますます発展させ、両国民の相互理解を深めることである。日本語の話者や教員を養成する日本語コース、モンゴルの経営者を育成、支援するビジネスコースなどがある。講座は2002年に開始され、国際交流基金日本語教育専門家の派遣も同年に始まった。
ロ.派遣先機関名称
The MONGOLIA-JAPAN CENTER
ハ.所在地 P.O.B.46a/190, Ulaanbaatar, MONGOLIA
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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