世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) とんとん相撲からスタンダードまで

モンゴル日本人材開発センター
片桐準二

おすもうさん、だまし舟、はね風船、かざぐるま、紅白鶴、羽子板、仔馬、手裏剣、クナイ、以上は折り紙、そして、忍者の合い言葉と秘密の文字、書道、けん玉、おにぎり、豚汁、浴衣着付け、ドラえもん音頭、ふろしき、茶道、福笑い、すごろく、ざるそば、J-POP、デコアート、お手玉、コマ回し、日本祭り、、、、みんなこの1年の日本文化体験講座で扱ったテーマである。

日本語コース

モンゴル日本人材開発センター(以下、日本センター)では、9月から始まるモンゴルの教育年度に合わせて、9月~1月の秋期コース、2月~5月の春期コース、6月~8月の夏期コースの3期に分けて日本語コースを実施している。秋期・春期は国際交流基金が開発しているワークブック『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使った入門~中級前半の各レベルのコース、漢字だけを学ぶ漢字コース、教師または教師志望者向けの日本語教育講座を開講している。夏期は夏休み中ということもあり、日本に旅行へ行く人を想定したサバイバル・ジャパニーズ、主に中高校生をターゲットにした漢字コース、気軽に学べる入門会話コースを開講している。どのコースも2~6名のモンゴル人教師と日本人教師がチームティーチングで担当し、毎週1回打ち合わせを行い、教案・教材検討をしている。国際交流基金日本語専門家(以下、日本語専門家)は教育講座の担当をしながら、各コースの担当チームの打ち合わせに入って議論に参加しながらアドバイスを行っている。昨年のこの欄にも書いた通り、『まるごと』を使ったコースでは中間日と最終日に文化体験の時間を設けている。教師たちも初めは書道、折り紙、けん玉ぐらいしか思いつかなかったのだが、冒頭で記した通り、少しずつレパートリーを増やしつつあり、そのための道具や教具も次々と増えつつある。

モンゴル日本語教育スタンダードプロジェクト

モンゴル日本語教師会は国際交流基金の助成を受けて、初中等教育機関用の日本語教育スタンダードを開発している。日本センターはこのプロジェクトの共催機関となっており、日本語専門家もその活動に協力している。このスタンダードはモンゴルの教育科学省が2005年に発表した「外国語教育スタンダード」に合わせて、JF日本語教育スタンダードを参照して作るモンゴル版日本語教育スタンダードである。2013年は5月~6月にワークショップを毎週1回行い、初中等教育機関の日本語教師を集めてスタンダードについて学び、目標とCan-doリストの作成を始めた。続いて9月~2014年2月に実践支援会議を隔週に1回開き、10校の実践協力校の教師たちによる教材作成・模擬授業・反省会を行った。3月にはシンポジウムを開催し、日本からの2名の招聘講師にスタンダードに関わるワークショップと講演をしてもらうと共にスタンダード実践協力校の代表による報告発表が行われ、延べ180名ほどの参加者と成果を共有した。招聘講師のお一人からは「スタンダードへの取り組みは日本よりも進んでいる」と評され、ちょっと急ぎ過ぎているのかと不安になるが、遊牧文化と共に暮らす人々は次の地への移動が速いのかもしれないとも思った。

文化体験講座

昨年のこの欄にも書いたが、その後も若者向けの若者文化講座、JFスタンダード紹介と文化体験講座を行うための地方出張を続けている。

若者文化講座は若い日本語課スタッフが企画して実施しているが、この1年に日本の大学生の生活・サークル・アルバイト・旅行などを紹介する「日本の大学生の生活」、J-POPの歴史を音楽とクイズで紹介して最後にAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を踊る「J-POP」、自分でデザインして作る「デコアート」体験を行った。

地方出張は2013年9月にモンゴル西部にあるホブド県のホブド大学、11月に中部のウブルハンガイ県のメルゲド総合学校、2014年2月にダルハンオール県ダルハン市内の初中等機関3校を回り、3月にオルホン県のモンゴル国立大学オルホン学部へ行った。初中等教育機関での日本語学習者は多く、メルゲド総合学校では日本の小学校3年生~高校2年生にあたる児童・生徒の511人が、ダルハン市内の3校では合計280人余りが日本語を学んでいる。このうちメルゲド総合学校への出張はウランバートルから草原の中を430kmあまり、車で約8時間の移動後、同行した日本センター図書情報交流課のスタッフと共に総勢5名で2日間かけて各学年のクラスを回って講座を実施するというハードなスケジュールだった。こうした学校での文化体験講座では折り紙、けん玉、書道、茶道、おにぎり、豚汁、浴衣着付けに盆踊りを実施。低学年向けの折り紙ではだまし舟を作って友達をだまし、おすもうさんを折って「とんとん相撲」大会をするなど作って遊べるものがいつも人気である。

ところで、鶴竜が横綱昇進を掛けていた今年の春場所、出張へ一緒に行った運転手がホテルに着くなり部屋に駆け込みテレビをつけた。大相撲はモンゴルのテレビでも中継されており、日本の相撲から目が離せないファンも多いと聞く。5月場所、幕内力士42名のうちの約4分の1ともなる10名がモンゴル出身となり、モンゴル三横綱時代が始まった。『まるごと』は言葉と文化をまるごと学ぶというコンセプト。横綱たちのような日本語話者が「とんとん相撲」を楽しんだ子供たちからも育つよう、日本語専門家はこれからも東奔西走を続ける。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Mongolia-Japan Center For Human Resources Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
モンゴル日本人材開発センターは、産業多角化及び雇用創出の観点からのビジネス人材の育成と日本・モンゴルの様々な人的交流の拠点として、1)ビジネス人材育成、2)日本語教育、3)相互理解促進の3つの事業を行っている。2012年からはモンゴル国立大学の独立採算ユニットとなり、国際交流基金のJF講座も開設され、JF日本語教育スタンダードに準拠した日本語コースを実施している。また、モンゴル全体の日本語教育アドバイザーとしてシンポジウムやスピーチコンテスト等の教師会・大使館の主催事業等にも協力し、学習環境の整備や教師間ネットワークの拡充に努めている。
所在地 Mongolia-Japan Center, University St., 6-Khoroo, Sukhbaatar District, Ulaanbaatar, Mongolia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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