世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)モンゴル日本人材開発センター来館者200万人達成!日本を発信する場として活躍中!

モンゴル日本人材開発センター
齊藤智子

モンゴル日本人材開発センター(日本センター)の概要

日本語課はモンゴル日本人材開発センター(写真1)にあります。ウランバートル観光名所スフバートル広場の近くのモンゴル国立大学のブロック内にあり、地の利がよく、誰でも知っている建物です。今年4月には来館者が200万人に達し、在モンゴル日本国特命全権大使をお呼びして式典が催されました。

モンゴル日本人材開発センター全職員の集合写真
モンゴル日本人材開発センター全職員(写真1)

このセンターはモンゴル国立大学の教育機関の一部として、ビジネス人材育成、日本語教育および相互理解の促進を3本の柱に経営されています。1階にビジネス課と、図書室(図書情報課)、2階に日本語課と総務課、施設課が入っています。全職員は30名ほどで、日本人はJICAから派遣されている2名、JFから派遣されている2名です。

日本語コースについて

モンゴルに来て、驚いたのが、日本語の発音がとても自然だということです。モンゴルは大陸の中で、四方八方の外国語を学びながら生き抜いてきたという歴史があります。

こんな外国語学習の素地のある意欲に満ちた学生、社会人が集まります。JFの『まるごと』講座が開かれてから4年目、モンゴル語訳された副教材も充実しています。「文化体験講座」もコースの中盤と最後に料理、茶道、風呂敷、日本の遊び、書道、浴衣で盆踊り、リサイクル工作などが実施され大好評です。

日本語課では、JF『まるごと』講座(総合講座1から5までの5段階)のほか、「ゼロスタート6週間コース」、「サバイバルジャパニーズコース」(平日連続で10回)、「ビジネス日本語コース」、「教育講座」(日本語教師のための講座)などがあります。「ゼロスタート6週間コース」というのは、今年から国費留学の試験に日本語が課されるようになり、少しでも日本語試験で得点したいという受験生のニーズに合わせたもので今年新しく生まれたコースです「ビジネス日本語コース」というのはモンゴルと日本のビジネス語彙、習慣、法規の相違、基礎的なビジネスの知識をベースにした内容重視のコースで、これも、今年初めての試みです。日本語コースのほかに、日本語能力試験を受験する際どのレベルを受ければいいかの目安にするため、また、自分の日本語力がどのレベルかを確かめるために「レベルチェックテスト」を4月から10月まで4回実施しています。受験者には言語知識、聴解、読解の得点率をフィードバックします。そのほかに、今年秋に開講予定なのは「ひらがな・カタカナコース」、「総合5の補習コース」(B1レベル後半)、「アニメと歌で学ぶ日本語」などです。さらにニーズを掘り起こし、日本センターならではのコースをデザインしていく予定です。

センター内講師研修について

毎週木曜日常勤4人非常勤6人(内日本人3人)が全員集まり、『まるごと』の教材分析、教え方のシェア、JFが行う研修を受講した常勤講師が研修内容のシェアなどをしています。

センター内講師研修の様子
センター内講師研修

また、各自が教師としてのcan-doを決め、そのためにどのような勉強をすればいいか考え取り組み、お互いの授業を見学し合い、時には授業を手伝うなどしていい授業をするために努力しています。今後は『まるごと』中級2の音声を全て聞くこと、問題を解くことなどを夏の課題としています。講師が誰でも自信をもって中級の授業を持てるよう準備しています。

モンゴルの日本語教育における課題と解決

モンゴルの人口は日本の都道府県人口ランキングで11番目に入ります。茨城県より少し多い300万人です。人口比の日本への留学生数1843人(2015年JASSO調べ)というのは世界一だということです。留学する人は2005年の949人の倍になり、近年毎年300人ほど増えてきています。

しかし、留学し帰国した人の就職先は少ないです。今年6月7日に経済連携協定(EPA)が発効し、2国間の貿易は盛んになり、ビジネスチャンスも増えていくと予想されますが、優秀な人材の受け皿としてはまだまだ小さいというのが現実だと思います。日本の技術やビジネスを学び、モンゴルで起業し、隣国の諸大国をマーケットとし発展していくという理想的なモデルが育つことを祈っています。

日本センターでは、全職員が、モンゴルの未来を育てる支援をしています。その大きい枠組みの中での日本語教育はどうあるべきなのでしょうか。

第一に前任者が作成した初中等向けの教材『にほんご できるモン』の普及、教え方の講座を開くなどの支援があげられます。

第二に、建築、介護、エンジニアなどの専門日本語を学び技能実習生として日本へ行きたいと考えている人がいると予想されます。専門日本語を教えるための教師養成が必要になります。専門領域を持った日本語教師を養成していかなければなりません。

第三に現在あるモンゴル日本語教師会を情報提供の場、問題解決の場、様々な企画実践の場ととらえ、参加者を増やすことがあげられます。教師会の主催、共催行事はシンポジウム、漢字コンテスト、学校対抗スピーチコンテストの開催、日本語能力試験の実施、日本留学試験の実施、様々な派遣の人選、『紀要』の発行、『にほんご できるモン』の改訂、印刷、販売など多岐に渡ります。

今後、参加する教師を増やすために教師会活動の内容の充実を図るとともに、広報活動を広げる必要があります。遠隔地の日本語教師、日本語学習者にはその機会が非常に少ないのも問題となっています。そのため、地方に巡回指導を年2回ほど行っています。さらに日本センターの日本語課から遠隔地に情報を発信し、日本語学習の機会もオンラインを利用して作ろうという機運が高まっています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Mongolia-Japan Center For Human Resources Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
モンゴル日本人材開発センターは、産業多角化及び雇用創出の観点からビジネス人材の育成と日本・モンゴルの様々な人的交流の拠点として、1)ビジネス人材育成、2)日本語教育、3)相互理解促進の3つの事業を行っている。2012年からはモンゴル国立大学の独立採算ユニットとなり、国際交流基金のJF講座も開設され、JF日本語教育スタンダードに準拠した日本語コースを実施している。また、モンゴル全体の日本語教育アドバイザーとしてシンポジウムやスピーチコンテスト等の教師会・大使館の主催事業等にも協力し、学習環境の整備や教師間ネットワークの拡充に努めている。
所在地 Mongolia-Japan Center, University St., 6-Khoroo, Sukhbaatar District, Ulaanbaatar, Mongolia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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