世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 多文化社会の中の日本語教育

アルバータ州教育省
矢沢理子

カナダの日本語教育

 世界で二番目に広い国土(日本の約27倍)に人口は日本の約1/4 (3118万)。英仏二公用語制の国、カナダですが、その民族的構成は、42%が非英仏系、16%の出生地はカナダ外、先住民を先祖とする人口は3%強となっています。これが現在の「カナダ人」なのです。

 「多文化社会」カナダの言語教育は、それぞれのコミュニティーのための継承語教育として始まり、後に、基礎教育の中の第二言語教育としても発展してきました。言語教育に関しては、イマージョンプログラム、バイリンガルプログラムの研究と実践、リソースの蓄積など、優れた実績と遺産を持つ国です。

 日本語教育もまた、日系人子女を対象とした継承語教育として20世紀初頭に始まりました。50年代には大学で日本語講座が開講され、更に80年代半ばから初中等のレベルにも広がりました。1998年の国際交流基金による調査では、日本語の学習者数は21,784名で世界第9位、学習者の60%が初中等レベルの学習者で占められていて、1,389人に一人が日本語を学んでいることになります。

専門家としての業務

私の派遣先はアルバータ州教育省です。カナダでは教育は州ごとの管轄で、制度も州によって違います。ですから、この教育省のポストはアルバータ州の基礎教育における日本語学習支援のためのものですが、国際交流基金からカナダへの日本語教育専門家の長期派遣は初めてなので、現在はA)アルバータ教育省所属の日本語コンサルタントと、B)カナダ地域アドヴァイザーの二つを兼任する形になっています。そのため、業務も州内と州外の2つに分けられます。

A)アルバータ州内の業務

 1) アルバータ州の教育システムについての情報収集
 教育関連機関の訪問取材、関係者へのインタビュー、文献調査
 2) 日本語教育の現状に関する情報収集
 学校訪問、日本語教師へのインタビュー、文献調査
 3) カリキュラム開発(後述)
 4) 日本語教師ネットワーク作り
 教育省のコンタクトリスト作成とメーリングサービス
 5) 対教師サービス
 州内各地に出向いての教師研修会、ワークショップ、情報提供
 6) 関連の行事、会議への出席・協力
 言語教育関連の会議への出席、セッションの提供、行事開催への協力、コーディネート
 7) 国際交流・交換留学プログラム、日本紹介プログラムへの協力
 8) リソース収集
 教材の収集と目録作成、貸し出しサービス

 このうち、3)のカリキュラム開発が主たる任務になります。アルバータでは2000年から教育省のイニシアティブで第二言語学習強化の特別プロジェクトが始まっており、その一環として、日本語教育に関してもa)現在の10-12年生(高校に相当)用カリキュラムの改訂、b)7-9年生(中学に相当)用カリキュラムの開発、c)中学からの継続学習としての10-12年生用カリキュラムの開発が予定されています。カリキュラム開発委員会の結成は2002年夏に予定されており、本格的な活動は秋からになる見込みです。

B)州外の業務
 大体2ヶ月に一度の割で州外に出向いて、1)カナダ各州の現地事情、教育システムについての情報収集、2)カナダの日本語教育の現状に関する情報収集、3)対教師サービス(研修会、ワークショップ、情報提供)、4)関連の行事、会議への出席・協力を行っています。教育制度、政府の言語教育に対する姿勢、第二言語科目の位置付け、日本語の置かれている地位など、日本語教育を取り巻く状況は州によって異なります。地域ごとのサポートのあり方を探って行くために、直接出向いての情報収集は欠かせないものになります。

 アルバータ州は言語コンサルタントの州外活動を積極的に支援してくれています。先に述べたように各州の教育行政は独立していますが、その言語教育の進むべき方向を探るにはカナダ、そして北米全体の動向を無視してはならないからです。公用語とエスニック・コミュニティのプレゼンスが大きい言語は教育のインフラ整備(カリキュラム、教材開発、教員養成など)が進んでいます。学習環境は整っていなくても、経済成長が目覚しい言語、将来使用の機会が多いと予想される言語、学ぶに易しい言語には人が集まります。現在の日本語はそのいずれにも当てはまりません。そんな中で、日本語教育を根付かせるために努力してくださっている先生方、実利というよりは知的興味から日本語を学び続けている学習者がここにはいます。そうした皆さんを支援する環境作りがカナダでの専門家の仕事であり、そしてそれは始まったばかりなのです。


派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
連邦レベルでの教育省が存在しないカナダにおいては、各州の教育省が州内の教育内容と水準の管理に責任を持つ。アルバータ州教育省は就学前から成人教育に至るまで、生涯教育の充実を旨に州民の学習を支援する政府機関である。専門家の所属する国際言語科では、公用語(英・仏)とアボリジナル語を除く言語コース科目(基礎教育レベル)の教育事情調査、カリキュラム開発、教員研修機会の提供、教員ネットワーク作りのサポート等を行っている。尚、アルバータ州の中等教育レベル日本語学習者人口はブリティッシュ・コロンビア州についで国内第二位である。
ロ.派遣先機関名称 アルバータ州教育省
The Department of Learning of the Province of Alberta
ハ.所在地 4th Floor, Devonian Building, 11160 Jasper Avenue,
Edmonton, Alberta, CANADA T5K 0L2
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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