世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 多様化する社会のなかでの日本語教育

アルバータ州教育省
永富あゆみ

 “We do not tolerate diversity. We celebrate it.” 移民の多いカナダに来て感銘を受けたことばです。2006年の国勢調査によると、移民は総人口の19.8%、5人にひとり。中東を含むアジア系移民がその過半数を占め、ヨーロッパ系16.1%、中南米10.8%、アフリカ10.6%、と続きます。このなかには日本からの移民も含まれており、その数は国際結婚の増加に伴い今後も増え続けることが予想されます。

コミュニティーとの交流による相互理解と日本語教育振興支援

 日本・日本文化に触れる機会が限られることは、 日本国外の日本語学習者の共通課題です。しかし、カナダ全体においては、移民の増加に伴い拡大する日系コミュニティーもあり、学習者との交流の発展に期待が持てるとも言えるでしょう。

Explore Japanプログラム

Explore Japanプログラムの写真
Explore Japanプログラム

 前年度の「世界の日本語教育の現場から」(~日系コミュニティーと日本語教育機関~)で、日系コミュニティー(エドモントン日系人会、以下、EJCA)とアルバータ日本語教師会(以下、AJTA)と合同での日本語・日本文化振興イベント実現が期待されていることに触れました。

 EJCA提供の、中学2年生社会科学習のなかで日本語・日本文化を紹介する“Japan Today”は人気が高く、うわさを聞きつけた先生方から、9月から日本語を学び始めたばかりの高校1年生向けのものもぜひ検討してほしいという声があがっていました。そこで、EJCAAJTA、エドモントン・パブリック教育委員会第2言語センターの代表者およびアルバータ州教育省日本語アドバイザーが“Explore Japan”企画実行委員会を立ち上げました。第一回目は試験的な試みでしたが、エドモントン近郊地域から5校185名の参加登録があり、6時間半のプログラムを行いました。大人数での太鼓や空手のワークショップから小グループに分かれてのセッション(書道、折り紙、華道、茶道、浴衣の試着、現代日本文化紹介など)まで、まる一日盛りだくさんの内容でした。特に、参加高校の卒業生が日本に留学していた時の写真や動画をパワーポイントで見せながら現代日本文化を紹介するセッションでは、「私も早く日本に行きたい!」という感嘆の声が飛び交い、学習意欲がますます高まったようです。また、在カルガリー日本国総領事館、アルバータ大学、トロント日本文化センターからも支援や協力を得て、「日本」を通じ複数の機関ェ交流を深めるきっかけにもなりました。2011年秋実施の第二回目には、既に9校約290名の参加申し込みが入っています。

日本語・日本文化紹介ミニプログラム


 このようなプログラムをアルバータ州以外でも・・ということで、トロント日本文化センターとともに、2時間ほどの高校生向け日本語・日本文化紹介ミニプログラムをマニトバ州の高校でやってみました。これから各地に出没し、日加友好の橋渡しの一助となれれば、と考えています。

自律学習を促す「できる」視点からのワークショップ

多様化する学習者


 教室内においても、様々な背景・日本語能力を持った学習者の混在というかたちで、多様性が見られます。ポップカルチャーから日本に興味を持ち、インターネットなどを活用し独学した経験があるという学生。公用語である英語やフランス語以外を母語とする学生。日本語を話す家庭環境で育ち、話すことは得意だけれど漢字は苦手だという学生。ゼロからスタートする学生。多様化する学生を一手に引き受けている先生方をどうサポートすればいいのでしょうか。

教師用ワークショップ


教師用ワークショップの写真
教師用ワークショップ

 ひとりひとりに合わせた指導は教室内ではなかなか難しいものです。むしろ、教室内外で、自ら学び続けることができる、という自律性を育むことが重要かもしれません。そこで、教師用ワークショップでは、自律学習を促すサイクルとして、

①現在の日本語運用能力の把握(日本語で何が「できる」のか?)
②目標の明確化(これから、何が「できる」ようになりたいのか?)
③具体的な学習活動(目標達成のために、何をすればいいのか?)
④振り返り(目標をどの位達成「できた」か?)
・ ・(①に戻る)

 というように、「できる」視点を念頭に置いたコースデザインについて意識を向け、 国際交流基金のみんなの「Can-do」サイトを紹介しました。さらに、「書く」活動に焦点をあて、書くことが「できる」という意味、「できる」ようになるための学習活動、書いた成果物のポートフォリオ評価を先生方と考えてみました。

おわりに

 広大な国土を有するカナダのなかで、上記のようなプログラムやワークショップを実施した地域はまだまだ限られています。引続き、様々な場所や機関で日本語・日本文化に関わる皆さんのネットワーク構築や広報をお手伝いし、「うちでもやってみよう!」「私も挑戦!」とハートに火をつけ、複数言語・文化の混在するカナダで日本のプレゼンスも高まるよう、頑張りたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Alberta Education
派遣先機関の位置付け 教育を管轄するアルバータ州政府機関内の国際教育サービス課に所属し、主に初中等機関での日加交流プログラムや日本語教育および振興への支援(学習指導要領、指導手引書、到達度評価文書などの開発、教材の情報提供、各種日本語・日本文化振興行事の運営サポート)を行う。カナダ全域のアドバイザーを兼任しており、州レベル・全国レベル双方においての情報収集・広報、弁論大会や学会への協力、教師研修や日本語教育関係者間のネットワーク促進の機会を広く提供している。
所在地 8th Floor, 10044-108 Street NW, Edmonton, Alberta, Canada T5J 5E6
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年

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