世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) インド、MOSAI日本語学院より

文部省留学生協会日本語学院
池津丈司

インド人はマルチリンガルが多い。多くの人々が母語とヒンディー語と英語の3つの言語を使っている。だから、日本語の上達も早い。当講座では100時間程度の学習時間で日本語能力試験4級、200時間程度で3級、450時間程度で2級に合格する学習者もいる。これはこれまで私が見てきたどこの国の状況と比較しても高い水準といえよう。

ただ惜しむらくは伝統的な教授観、学習観の影響からか、当地の生活言語となっていない日本語に関しては知識偏重の傾向があり、2級を持っていても全然書けないし、しゃべれないという人が少なくない。学習者の7割前後が将来日本語を使って仕事ができるようになったらいいなと考えている背景を考えると、これはあまり歓迎すべき状況ではない。

一方、学習者たちからは日本語能力試験対策コースの開講を求める声も毎年高く、文部省留学生協会(MOSAI)に移管する以前の大使館講座としては、それにできる限り応えてきた。一人でも多くの人々に日本語を学んでもらいたいという思いからである。

能力試験を受けること自体は奨励したいが、短期集中で試験対策をして合格率を挙げることには疑問が残る。そんなことでは能力試験の価値が低められてしまうことになりかねない。

いくら学習者に証書より実力が大事と説明しても、たとえば彼らを受け入れる企業をはじめとする世間が、彼らの証書しか見ないのであれば説得力がない。インドの企業、日系企業の雇用者、日本人会など学習者たちを取り巻く総合的な学習環境の見直しが必要である。 そこで当講座では、次の3つ改革を進めている。

  1. 1.日本語の知識に加え、日本人とのつきあい方を身につけるカリキュラムにする。
  2. 2.講座の修了生の進路を開拓する。
  3. 3.学習者を取り巻く企業や日本人コミュニティーとの連携を強化する。

MOSAIの授業風景の写真
MOSAIの授業風景

 現在は、新しいカリキュラムのデザインと教材の開発がすすめられているところなのだが、この新カリキュラムでは、教室に日本人コミュニティー(日本人会、商工会など)からお客さんを招く、いわゆるビジターセッションを大幅に取り入れることが計画されている。 学習者に生身の日本人に多く接してもらうこと、日本人に日本語の学習者の存在をもっと知ってもらうことを一度に行おうというわけである。

また、最近はIT産業の発展から、インドから日本へ送られる企業戦士が増えている。そうしたところから、日本へ行ってビジネスができるコミュニケーション能力を短期間に身につけるプログラムを行って欲しいという政府筋の要請も出てきている。

ビジネスを日本語だけで行える日本語力を身につけるには、それ相応の時間がかかる。よしんば短期間で日本語の語彙と文法を覚えたとしても、日本人との付き合い方がわからなければ、ビジネスは成功しない。短期間でというなら、むしろ「付き合い方」のほうが大事であろう。

しかし、一口に日本人との付き合い方といっても、日本人も千差万別である。日本人と付き合うときはああしろ、こうしろと教えられるものではない。学習者一人一人が日本人と接して、試行錯誤を繰り返さなければ身につかないものである。

インドに限らず、また日本語に限らず、世界の語学教育において、言葉自体よりも人との付き合い方を、知識として覚えるのではなくて、技能として身につけるように、講座の進化が求められている。

インドもその例外ではないし、時機としても決して遅くはない。その機運をこの講座から高めていくことができればと考えているところである。


派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 1959年、在インド日本国大使館に日本語講座が開設され、基金は1995年から専門家を派遣、現在の専門家で3代目である。講座開設当初160名前後だった学習者数は、2001年現在800名を超えている。40年以上にわたり数多くの優秀な人材を輩出してきた「大使館講座」は、インド全国の日本語教育関係者に知られ、絶大なる信頼と期待を寄せられている。2002年1月に文部省留学生協会(Mombusho Scholars Association of India;略称MOSAI)に移管された後も、専門家は引き続き授業担当、カリキュラム・教材作成、現地教師の育成等の教務面で中心的な役割を果たしている。
ロ.派遣先機関名称 文部省留学生協会日本語学院
MOSAI Institute of Japanese Language
ハ.所在地 c/o Japan Cultural and Information Centre, 32, Ferozeshah Rd., New Delhi 110001, India
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1959年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1995年

(ロ)コース種別
初級I・II、中級、上級I・II、会話I・II

(ハ)現地教授スタッフ
非常勤11名(うち邦人3名)

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   学生:約75%、
社会人:約25%(全受講者数800名強)
(2) 学習の主な動機 仕事・就職、留学・研究、趣味・興味
(3) 卒業後の主な進路 調査データなし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3~2級(500時間)
(5) 日本への留学人数 毎年2~3名程度

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