世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) まだまだ増えます、インドの日本語学習者

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
山口 明

1.日本語学習者は依然増加傾向

 世界の日本語教育機関調査の結果ではインドの学習者数は98年度の約40%増(1998年3946人→2003年5446人)でした。回収率の低さ、調査対象からもれた機関などを考え合わせると、実際の数字はずっと大きいものと思われます。それでも9億とも10億とも言われる人口からすればまだまだ少ない方ですが、これから増えていく可能性はあります。
 隣国のネパールでは、日本の大学入学を目指す若者が増え、日本の日本語学校の分校や提携校の学習者が急増しています。しかし、インドでは事情が違っています。歴史的にイギリスとの関係が深く、中、高等教育と英語が密接に結びついているので、まず、イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダなどの英語圏を目指す人が多く、日本へ留学という発想はまだ少ないようです。日本の日本語学校関係者も調査に来られ、実際にニューデリーで開校準備を進めている学校もありますが、すぐにはネパールのような現象は起きないでしょう。

2.日本語はインドの経済と日印経済交流の発展と共に

 インドは中国に次いで、順調に経済発展(2003年成長率8.2%〈インド政府発表〉)を続けている国のひとつです。そして、そのインド経済を引っ張っているのがIT産業で、政府も推進しています。インドビジネス紙(3月31日号)によれば、エレクトロニクス・ソフトウェア輸出促進協議会(ESC)の会長は、インドにおける日本とのITビジネス拡大を妨げている3つの要因として、源泉課税、入国ビザ、と共に日本語を挙げています。デリーの邦人の間でも、日印の経済関係拡大のために、もっと日本語普及に力を入れるべきだという意見は多いようです。

バンガロールで行われた南アジア巡回セミナーの写真
インドのシリコンバレーと言われるバンガロールで行われた南アジア巡回セミナー
LANに接続されたパソコンが40台並んだ会場。

 英語力はインドの競争力のひとつとなっていますが、日本語となると忙しいエンジニアにとっては荷が重いのが普通です。大手IT企業では、独自の日本語コースを設置してエンジニアの研修を行っています。設備、教師など条件に恵まれ、1年間日本語だけを集中的に行う企業もあり、成果を挙げています。専門の知識、技術があるエンジニアが、日本市場に対応できる日本語能力を身につけ、その能力を生かせるポストに就きます。
 しかし、ITエンジニアを目指している学生が、就職への戦略として日本語を学習している場合は、その労力と投資に見合う就職の機会が得られるかが問題で、今のところブームには至っていません。日本へのソフトウェアの輸出は全体から見るとまだ少なく(約4%)、一時は全国的なITエンジニア養成機関での日本語教育の実施も検討されましたが、見送りになっています。


3.中等教育への導入の動きが始まりました。

日本語コースを選択外国語として実施している学校の写真
ニューデリーにはすでに独自に日本語コースを選択外国語として実施している学校もある。この生徒たちは6年生(12歳)

 全インド日本語教師会会長と当事務所のアドバイザーが2000年に中央中等教育カリキュラム委員会に対して日本語の公式導入へ向けて再三働きかけを行ったのですが、ずっと回答がありません。ところが、今年1月に全国に先駆けて、マハラシュトラ州(インドで最大の日本語能力試験受験者数のプネーがある南インドの州)の中等教育カリキュラム委員会が高校最終の11-12学年に「第2言語」として日本語を導入することを決定しました。同州には現地語であるマラティー語による教育を行う学校と、英語による教育を行う学校があるのですが、どちらも11年からは英語が必修で、さらに「第2言語」を選択することになります。現在は サンスクリット語、ヒンディー語, フランス語, ドイツ語、マラティー語があり、2005年度より日本語がこれらに加わることになります。
 カリキュラムやテキストの作成、教師の養成など課題も多いのですが、これで学習者数がぐんと増えそうです。


派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
インド全体を視野に入れた日本語教師支援を行うため、1999年から専門家1名が派遣されている。当該専門家はニューデリー日本文化センター付日本語教育アドバイザーとして、機関訪問等による各種調査、教師会や学会への出席を通じた現状把握、教師研修会・セミナー・勉強会の実施ないし実施協力、カリキュラム・教材・教授法等に関するコンサルティング、教師会主催シンポジウムへの協力を通じた教師間ネットワークの形成促進などを行なっている。重点課題として、デリー地区中等教育への日本語導入支援、オリジナル辞書、ネパール中等教育用テキストの作成がある。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation New Delhi Office
ハ.所在地 10,Jor Bagh New Delhi-110003 India
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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