世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 人口11億人のインドで中等教育の日本語が始まる。

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
山口 明

小泉首相のインド訪問

 2005年4月28日、小泉首相は一日だけのインド訪問の忙しいスケジュールの中で、デリーパブリック(以下、「DPS」と略す)スクールを訪問しました。DPSはインド全国および数カ国に展開する私立の初等、中等一貫教育校です。全校挙げての歓迎セレモニーのスピーチで、会長は「全国のインドのDPSで日本語コースを開始する予定です」と言いました。
 両国の首脳は共同声明として8項目の取り組みを発表し、その第5項に文化・学術交流、人と人との交流の強化が謳われ、日本語に関して「日印両政府は、5年以内に様々なレベルで日本語学習者を3万人に引き上げる」と明記されています。

国際交流基金のサポート

 上記の目標に従い、インドの中央中等教育カリキュラム委員会(以下「CBSE」と略す)と交渉がおこなわれ、日本語が選択外国語科目として認定されました。CBSEは全国で8000校近くが採用し、約8百万人の生徒がそのカリキュラムに沿って学んでいます。すでに2000年に認定申請を国際交流基金の海外派遣日本語教育専門家(以下、「基金の専門家」と略す)と全インド日本語教師会が提出していましたが、これまで進展がありませんでした。首相訪問で一気に話しが決まったというわけです。
 これから基金の専門家、インド人日本語教師、CBSEが共同で、シラバス、カリキュラムを作り、テキストなどの教材を作成していきます。まずは来年4月に6年生で開始し、最終的には中等教育最高学年の12年生までの日本語コースを立ち上げます。教師研修を基金の専門家が講師となり各地の拠点で2週間程度行い、さらに日本での研修参加も計画されています。

学習者の急激な増大

ビデオ会議でスクリーンに映った日本語小学校の生徒とインドの生徒の写真
ビデオ会議でスクリーンに映った日本語小学校の生徒とインドの生徒
ビデオ会議でインド料理の作り方を簡単な英語で説明する生徒の写真
ビデオ会議でインド料理の作り方を簡単な英語で説明する生徒

 これまでにもすでいくつかの学校で日本語は教えられてきました。デリーでも日本語コースを継続している学校が現在4校あり、2年前から教師のネットワークを作り、教師の交流、ビデオ会議、スクールレベルスピーチコンテストなどの合同プログラム実施を基金の専門家がサポートしてきました。しかし、CBSEに認められていないことで、日本語が卒業試験と関係ない科目であることを残念に思っていた生徒も多かったようです。ですから、今まで日本語を勉強してきた生徒たち、そして、その父兄も今回のCBSEの決定を喜んでいるに違いありません。
 上記のDPSはその後、135校で日本語を開始すると決定しました。さらに、プネー、ムンバイという日本語学習者の多い地域を抱えるマハラシュトラ州でも、州の中等教育カリキュラム委員会が既に2004年に日本語の導入を決定していました。当初の予定より1年遅れて、授業開始は2006年4月からになりそうですが、このカリキュラムを採用している学校は17000校もあります。
 2003年の海外日本語教育機関調査で、インドの日本語学習者数は5446人でした。インド全国でどの位の学校が日本語コースを始めるのかわかりませんが、大幅に増加することはまちがいありません。

教師の養成

 教師をどのように確保するのかは大きな問題です。大学の日本語関係者に聞いてみると、大学で日本語を専攻した学生は高収入のIT企業などを希望することが多く、初中等教育レベルの日本語教師は、生活のための収入を必要としない主婦、拘束時間が短いことを利用して、翻訳や通訳の仕事もしようという人々になるだろうとのことでした。
 教師の雇用は各学校に任されていますが、外国語の教師は非常勤講師として採用されることが多く、当面現実的な資格として、Advance Diploma 修了(各地の大学の公開講座で取得可能)、日本語能力試験2級合格、教師研修参加などが考えられています。
 教師全体の労働条件の改善、大学の日本語専攻課程の増設などはインドの教育制度全体に関わる大きな課題ですが、中長期的な視点で将来の日本語教師を養成していけるシステム作りに取り組んでいく必要があります。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
インド全体を視野に入れた日本語教師支援を行うため、1999年から専門家1名が派遣されてきたが、2005年5月よりインドを南北に分け、2名の専門家によりアドバイザー活動を行うことになった。2005年7月より、初中等教育への日本語導入支援のため1名の専門家が増員となる。当該専門家は日本語教育アドバイザーとして、機関訪問等による各種調査、教師会や学会への出席を通じた現状把握、教師研修会・セミナー・勉強会の実施、カリキュラム・教授法等に関するコンサルティング、教師間ネットワークの形成促進、教材作成支援などを行なう。また、2006年初めに開設される新しい日本文化センターの日本語講座も担当する。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
ハ.所在地 10, Jor Bagh, New Delhi 110003, India
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家: 3名

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