世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 若い力があふれる伝統の日本語講座


MOSAI(文部省留学生協会)日本語学院
平賀達哉

新しい任地・デリーへ

余裕満々の上級クラスの学生の写真
余裕満々の上級クラスの学生

 まだ正月気分が抜けない1月4日の未明、私は新しい任地・デリーに向けて出発しました。それから4ヶ月、今ちょうど1学期が終わり、私が赴任した文部省留学生協会(MOSAI)学院は夏休みに入っています。着任した当初はまだ朝晩寒くヒーターが手離せませんでしたが、今は日中の気温が40℃を越え、溶鉱炉の前に立ったような熱風が町を覆う季節の到来です。
 最初はなかなか新しい生活に馴染めず、体調をくずすこともありましたが、授業が始まり、学生たちから元気をもらいつつ次第に新しい環境に溶け込んできたようです。

インドの学生とご対面

明るく元気な中級クラスの学生の写真
明るく元気な中級クラスの学生

 MOSAI学院は、500人近い受講生のうち約8割を大学生が占める、若さあふれる一般向け講座です。今学期私は上級クラスを受け持ち、また職場内研修(OJT)の一環として他の先生方の授業もたくさん見せてもらいましたが、どのクラスも学生たちの熱気に満ち、力いっぱい練習する声が教室に響きわたっていました。
 寡黙を美徳し、以心伝心のようなコミュニケーションが発達した日本と異なり、他民族、他宗教、多言語が融合しているインドではしっかり自己主張をしないと生きていけないと言われますが、それが練習にも反映しているのかもしれません。
 そして学期の途中から、バンガロール、チェンナイといったIT産業が盛んな南インド地域から仕事のオファーが来るようになりました。その試験に受かった学生は、日本語の力がやっと日本語能力試験の3級に合格した程度であるにもかかわらず、不安の色はまったく見せず、元気に教室を去っていきます。
 教師としては卒業も間近に迫っていることだし、もう少し日本語の勉強に精を出してもらいたいところですが、彼らは底抜けに明るい表情で、「先生、バンガロールではどのように勉強したらいいですか」と、私の心中などまったく忖度しない質問をするのです。

明日のMOSAI学院

 1958年に創設され、2002年に在インド日本国大使館から移管されたMOSAI学院ですが、場所は大使館広報文化センター(JCIC)に残されました。また95年に始まった国際交流基金からの日本語教育専門家の派遣もそのまま続いたので、教育の質も維持されています。
 しかし来年度いよいよJCICの敷地から退き、ひとり立ちして学校運営を進めていくことになりました。現在新しい敷地を探しながら、私に代わるコーディネーターへの引継ぎ作業を進めているところです。

来年に向けての大きな動き

 来年度はじめ、今のデリー基金事務所が基金文化センターとして生まれ変わります。それに合わせて私はMOSAI学院を離れ、新しくできるセンターに移り、デリーを中心とする北インド地域の教育アドバイザーの業務に就くことになっています。またセンターには日本語講座も設けられる予定で、今そのカリキュラムについて検討を重ねています。
 一方、南インド地域を担当するために、今月新しく専門家が赴任しました。これで、来年度からは日本の9倍ほどの広大な面積を持つインドを北部と南部に分け、2人の専門家がそれぞれの地域を担当できることになったのです。
 もうひとつ大きな動きがあります。この4月に小泉首相がインドを訪問され、インドのシン首相との合意に基づき、「21世紀における日印グローバル・パートナーシップに向けた8つの方針」が打ち出されました。その中に「今後5年以内に日本語学習者を3万人に引き上げることを目標とし、正規の選択科目として日本語を中等教育課程に導入する」という項目も盛り込まれました。それを受けて現在デリー基金事務所が中心になり、教材作り、教員養成計画など、具体的な準備に取りかかっています。

MOSAIからはこれが最後の便り

 来年度私はデリー基金センターに移りますが、その後もMOSAI学院には教育的なサポートを続けていくことになります。デリーの日本語教育を50年近くも支え、デリー市民の厚い信頼を受けている伝統の教育機関ですから、これからも地道に発展してもらいたいと願っています。短い間ですが、この学院の長い歴史に足跡を残せたことを光栄に思います。


派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
半世紀近くにわたり、質の高い日本語教育を実施し、数多くの優秀な人材を世に送ってきた伝統の講座。2002年に「現地化・自立化」の一環でMOSAIに運営を移管されたが、その後も日本大使館広報文化センター講座の略称、JCICとしてデリー市民の信頼を得ている現専門家は上級クラスの授業、カリキュラム・シラバス作成、現地講師に対し、教授項目・教え方の面でアドバイスを行う。
ロ.派遣先機関名称 文部省留学生日本語学院
MOSAI Institute of Japanese Language
ハ.所在地 Japan Cultural and Information Centre 32 Ferozeshah Rd. New Delhi 110001 India
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1958年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1995年

(ロ)コース種別
初級、中級、上級(各200時間)

(ハ)現地教授スタッフ
非常勤17名(内邦人9名)

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   学生:77%
社会人:23%
(2) 学習の主な動機 仕事:64%  訪日22%  趣味29%
(3) 卒業後の主な進路 調査データなし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級合格が主。若干2級合格者あり。
(5) 日本への留学人数 毎年2~3名

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