世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 牛歩のごとくゆったりと発展する日本語教育

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
平賀達哉 長谷川理恵

経済発展とともに増える学習者

 1991年、それまで続いた経済不振のために外貨準備高が底をつくほど悪化したことがきっかけになって、時のインド政府はそれまでの社会主義的な色合いが強かった経済政策を大幅に自由化しました。それからは今日までおおむね高い経済成長が続き、現在ITサービス業を中心に活況を呈しています。
 近年日本とインドの経済関係も急速に深まり、インドへ直接投資する企業の数はこの1年で約100社も増えました。自動車・二輪中心だったビジネス形態も多様化し、アウトソーシングなどITサービス関連ビジネスへも日本企業からの発注が増えています。

 それとともに高い日本語力を持つ人材も求められるようになり、今や日本語は若者にとって将来のキャリアを決めるツールになったと言えるでしょう。

民間学校中心から中等教育へ

当事務所を訪問、日本語の歌を習う生徒たちの写真
当事務所を訪問、日本語の歌を習う生徒たち

 2003年に実施された国際交流基金の調査によると、インドの日本語学習者数は5,446人で、世界の20位以内にも顔を見せていません。この数字からインドでは日本語教育がそれほど盛んではないと思われるかもしれません。その一方で、2005年度の日本語能力試験の受験者数を見ると、その数は4,152人で、これは中国、韓国、台湾、香港、タイ、インドネシア、ベトナムに次いで堂々と8位にランクされる数字です。そのほとんどが民間の教育機関で学んでいます。

 初中等教育レベルで学ぶ学習者は少なく、その数は上述の調査によるとインドの総学習者の10%にも満たないのです。世界の日本語教育では学習者の65%近くが初中等教育レベルで学んでいます。中でもオーストラリアでは、全部で38万人の学習者のうち約37万人、全体の97%近くを初中等教育レベルの学習者が占めています。

 人口が10億を超えるインドでも初中等教育レベルに日本語が導入されれば、どれほど学習者数が増えることだろうとは誰しも想うところですが、インド側にも複雑な言語事情があって、これまでなかなか実現しませんでした。

 しかし昨年4月、小泉首相がインドを公式訪問した際、インドのシン首相との間で「中等教育に日本語導入する」ことが共同宣言に盛り込まれました。こうして日本語はアジアの言語で最初に学校のカリキュラムに採用される言語となったのです。

教科書作成と教師研修

かわいい絵をふんだんに使った教科書が完成の写真
かわいい絵をふんだんに使った教科書が完成

 この共同宣言が発表された日から時をおかず、インドの大学教員と当事務所のアドバイザーからなる教科書作成チームが結成され、6年生向けの教科書作りが始まりました。そして1年近くにわたる作業の結果、教科書とともに練習帳、教師用指導書が完成しました。現在7年生の教科書作りに取りかかっています。

 教師研修の方は、7月からデリーとその近郊にある学校で日本語を教えている現職者を対象とした研修プログラムを実施する予定です。また教師養成プログラムも始まっています。青年海外協力隊の隊員が派遣されているデリー・パブリック・スクール(DPS)協会の附属校で日本語以外の科目を教える教師10名を対象に日本語教師養成プログラムが始まりましたが、このプログラムにも協力しています。

一歩一歩、着実に発展を続ける

 今インドではケーブルテレビの普及で「ドラえもん」「キャプテン翼」といった日本のアニメが人気を集めています。日本語が民間レベルだけではなく学校レベルで広がっていくためには、まず子供たちや若者の間で日本に対する関心が高まることが前提になると言われますが、インドでもようやくその基盤ができてきたようです。

 中央中等教育委員会(CBSE)のホームページに日本語を導入することが告示されて以来、各地の中等教育関係者から教科書や教師研修への問い合わせもじわじわと増えています。あせらず、地道に現地のニーズを拾っていけば、中等教育レベルの日本語学習者の数は確実に伸びていき、「日本語学習者数3万人」という、今はまだ途方もないと感じられる目標に一歩一歩近づいていくことでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
全インドの日本語教育への支援を目的に、1999年から専門家1名が送られてきたが、2005年に広大なインドを南北に分け、北インド担当2名、南インド担当1名の3名体制になった。その業務は、(1)管轄地域の教育機関訪問による情報収集・調査、(2)弁論大会審査員など地方教育団体・教師会主催行事への協力、(3)教育機関・教師からのカリキュラム・教授法などの問い合わせに対するコンサルティング、(4)教師ネットワーク促進のための後方支援、(5)本部行事である巡回指導・独自企画セミナーの実施、(6)中等教育レベルの教科書作成と教師研修・養成プログラム実施など、多岐に亙る。
ロ.派遣先機関名称
5-A, Ring Road
Lajpat Nagar-IV, New Delhi-110024, India
ハ.所在地 10, Jor Bagh, New Delhi 110003, India
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名(北インド担当)

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