世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本とインドの若者の相互理解の礎を築くために

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
平賀達哉 長谷川理恵

はじめに

ニューデリー日本文化センター独自の教師養成コースの写真
当センター独自の教師養成コースが始まる。(当センターで)

 21世紀に最も経済成長が期待できる国として、ブラジル、ロシア、インド、中国がBRICs と呼ばれだしたころから、インド経済は世界の注目を浴びてきました。近年、政治・外交面でも、日本にとってインドは重要な国と位置づけられてきました。2006年12月にはインドのマンモハン・シン首相が日本を訪問し、安倍首相との間で「戦略的グローバルパートナーシップに向けた共同声明」が合意されましたが、その中の「国民交流」の項目で、「今後3年間に、日印両国間で5000人規模での若者交流をめざす」ことが謳われました。

相互理解が足りない

 この計画の背後には、政治・経済面で日印関係がさらに進んでいくと想定されているにもかかわらず、両国の国民レベルでの相互理解が浅いという認識があります。2000年に日本の外務省がインドで行った世論調査では「一番好きな国は日本」との結果が出ていますが、それは「日のいずる国」への遠い憧れに過ぎず、実際の日本についての関心はまだ低いと言わざるを得ません。例えば、インドから日本への留学生数は隣国のバングラデシュ、スリランカ、ネパールよりずっと少ないのです。

日本語教師を育てる

 このように今後日本とインドの若者交流が盛んになってくると予想されますが、その際大切なのが、その基礎となる日本語教育の発展です。特に年少者レベルにおける異文化相互理解の視点に立った日本語教育が望まれています。しかし、インドの教育制度に日本語教師を養成するシステムが整っていないため、慢性的に日本語教師が不足しています。その状況を少しでも改善しようと、ここ数年当センターでは日本語教師を育てるプログラムに重点を置き活動しています。

日本語教師養成プログラム

当センター独自の教師養成コースが始まる。(当センターで)の写真
2年目に入ったDPS教師向けのクラス。(DPSマトゥラロード校で)

 昨年、青年海外協力隊に協力する形で実施した、デリーパブリックスクール(DPS)の教師に対する日本語教師養成プログラムは今年2年目を迎えています。現在、日本語以外の科目を教えている9人の教師が、年末に実施される日本語能力試験の3級合格を目指しています。
 また今年から学校の長期休暇期間を利用した当センター独自の養成プログラムもスタートしました。現在デリーは連日40℃をこす猛暑が襲っていますが、参加者は一日4時間半の授業を受けています。

現職教師研修プログラム

 2006年に日本語が6年生の選択外国語科目に採り入れられてから、日本語を導入した学校が少しずつ増えてきました。これらの学校で教える日本語教師に向け、新しく開発された教科書を使った授業の方法、年少者向けの歌やゲームを使った授業などの研修を行っています。昨年は11名の教師が修了しましたが、今年も同様のプログラムを実施する予定です。

地方日本語教師向けセミナー

 インドは広大な国です。地方都市では、日本語教育についての情報も乏しく、また教授法についての知識もなく日本語教育に勤しんでいるたくさんの教師がいます。そのインドの地方都市や他の南アジアの国々に赴いて、2~3日間のセミナーを実施しています。この2年間に北インド地域担当の私たちは、プネ、ムンバイ、チェンナイ、コルカタ、ハイデラバード、そしてネパールのカトマンズ、バングラデシュのダッカ、パキスタンのカラチの各都市を訪れました。

おわりに

 先の大戦が終わって数年経った1949年、インドのネルー首相は日本の子供たちからの願いに応えて、上野動物園に象を贈ってくれました。この象はネルー首相の娘の名にちなんで「インディラ」と名づけられ、戦争の傷が癒えやらぬ当時の日本人に大きな喜びをもたらし、特に子供たちには明るい希望を与えてくれたのです。
 それから60年近く経った今、今度はインドと日本の若者たちがじかに交流することを通して、お互いに喜びを与え合う時代が近づいてきたようです。いろいろと障害があって、道は平坦ではありませんが、将来の日印関係の礎を築くという大きな仕事に携わっていると感じつつ、日々教壇に立っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
1999年から国際交流基金の日本語教育専門家の派遣が開始された。日本語教育専門家の主な業務は、(1)教育機関訪問による情報収集・機関調査、(2)弁論大会審査員など地方教育機関・教師会主催行事への協力、(3)教育機関・教師からのカリキュラム・教育情報などの問い合わせに対するコンサルティング、(4)教師ネットワーク促進のための後方支援、(5)地方教師支援の枠組における教育セミナーの現地実施、(6)中等教育レベルの教科書作成、日本語教師養成・研修プログラムの実施など、多岐に亙る。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
ハ.所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi - 110024, India
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名(北インド担当)

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