世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語学習者3万人化計画」とJFの仕事

ニューデリー日本文化センター
柴原智代・鈴木今日子

はじめに:学習者3万人化計画

 2005年の小泉首相の訪印の際に、「日印両政府は、5年以内にさまざまなレベルで日本語学習者を3万人に引き上げる」という共同声明が行われました。来年2010年が、その5年目にあたります。2006年日本語教育機関調査(国際交流基金、以下JF)によると、 2006年時点でのインドの学習者数は、11,011人でしたから、「5年で3万人」というのはかなりチャレンジングな目標です。これに対する現状や取り組みについてお話したいと思います。

現時点(2009年5月末)での状況:目標達成・・・?

 2005 年の共同声明がはずみとなり、初中等教育段階の一部では、日本語学習が正式導入され、6~12年生(12~18歳)までの一貫した日本語学習が可能となりました。2009年現在、首都デリー中心に44校、約2,000人の生徒が日本語を学んでいます。これらの生徒の中には日本を訪れる機会に恵まれた人もいます。柔軟な心で日本に触れた生徒たちが、日本とインドのより深い関係構築に貢献してくれるものと思います。

 また、共同声明を機に、JOCV(青年海外協力隊)の日本語教師隊員の派遣再開が決まり、高等教育段階中心に隊員が増えました。2009年現在では7名、来年には10名になる予定です。学習者と隊員との間で、「人と人の交流、心の交流」が広がっていくことでしょう。

 インドの学習者全体の80%を占めるのは学校教育外(民間日本語学校、大学の市民講座、印日協会など)の学習者数ですから、3万人という目標達成のカギをにぎるのはこの段階です。インドに進出する日系企業は増えつつありますが、2008年1月時点で438社とまだ少なく、他方、ビジネス場面で必要な高い日本語力を身につけることは非漢字圏のインドではハードルが高いので、この段階の学習者数が急激に増加することはないと予想しています。しかし、日本語学習機関は小都市にも広がり始めており、インドの各地に着実に日本語学習が浸透しつつあります。

 現状を見ると、2010年までに学習者数3万人という目標達成は難しいようです。しかし、日本語学習を通して、インドと日本の人々の心の中に「つながり」という種がまかれ、着実に育っているのを実感します。

JFの取り組み:教師の成長支援

 次に、私たちJFの取り組みについてお話しましょう。JFは、首都デリーに日本文化センターを設置し、全インド及び近隣諸国に対して活動を行っています。現在は、立ち上げ期にある初中等教育段階に重点を置いて、シラバス・教科書・副教材・全国統一修了試験などの作成を行っています。

インドでの日本語教育現場の写真1

 そのほか、全教育段階の教師対象に、現職者研修会や教師養成コースを実施しています。ひとりの教師の後には数多くの学習者がいますから、教師への支援は日本語教育促進の鍵となります。今年度初めて、日本語学習者の中から教師希望者を集めて教師養成コースを開きました。わずか1週間の募集期間に 40人もの問い合わせがあり、教師になりたい人が多いのに驚かされました。面接で受講者を10人にしぼり、8回にわたって教授法の授業を行いました。(写真1)このコースでは、教授法の基礎知識を学ぶと同時に、日本語学習を通してどのような人を育てたいのかという教育観を問い直すことも大切にしました。この中から教師になれる人がどのぐらい出るのかわかりませんが、これからも教師志望のインド人への支援策として、教師養成コースを継続したいと考えています。

インドでの日本語教育現場の写真2

 従来から行っている現職者対象の教師研修では、現職の教師が自分たちの授業を自己点検し、現場改善のための持続的な取り組みを支援するようなアプローチをとっています。(写真2)は、西インドのプネ市で実施した研修会のようすです。研修会では、プネ市の企業で働くインド人に必要とされるCan-Do-Statementsを洗い出し、コースデザインをするという活動をしました。現地で本当に役に立つ日本語学習のために、自分たち教師はどうすればいいのか、熱いやりとりが繰り広げられました。

おわりに:「インドで日本語を学ぶ意味」の再検討

 「日本語学習者3万人化計画」の話をすると、「どうして学習者を増やしたいのですか、3万人という数字にどんな意味があるのですか」という質問を受けます。数値よりも、日印双方の日本語教育関係者が「インドで日本語を学ぶ意味」をともに考え直すきっかけになったことのほうが意義深いと考えています。インドの学習者数が3万人を超えるにはもうしばらくかかるでしょう。私たちは、学習者数の陰にある人と人のつながりが強くなっていくのを見つめながら、10年、20年のスパンで現地と関わっていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
 及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援を目的としている。業務は(1)日本語教育機関、環境についての情報収集・調査。(2)教師セミナーやコンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関の支援。(3)教師会などが主催する日本語弁論大会などの各種行事への協力。(4)当センターにおける教師研修の実施。(5)中等教育用日本語教材の作成など。多岐にわたる。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
ハ.所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi - 110024, India
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家 2名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1999年

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