世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 未来の日本のパートナーを育てる

ニューデリー日本文化センター(北インド担当)
鈴木今日子

遥かなる東の果て、日本

インドの日本語教材(6-8年生用)の写真
インドの日本語教材(6-8年生用)

 インドは今やIT大国、次なる巨大市場として世界から注目される国であることは間違いないでしょう。では、インドでは日本はどう見られているのでしょうか。インド人の日本のイメージは、テクノロジー、ヒロシマ、キモノ・・・といったところでしょうか。日本に対する漠然とした憧れはあるものの、日本のリアルなイメージはなく、インド人にとって日本は、いまだ遥か東の果ての国なのです。

インドの日本語学習者

 グローバル社会の中でのインドの存在感が増すにつれ、インドに進出する日本企業も年々増えています。インドの日本語学習者のうち、就職のために民間の語学学校などで日本語を学ぶ人が最も多いです。インド人にとってなかなか漢字の壁は厚く、読み書きには苦労していますが、ビジネスは英語、友達とはヒンディー語、家族とは故郷の言語で、というように複言語社会を生きるインド人は言葉を操る能力が大変高く、初級レベルの学習者でも驚くほど日本語を話します。また、最近ではビジネス日本語を学びたいという人も増えています。

 日本=テクノロジーというイメージがあるためか、日本語を選択科目として学ぶ理工系の大学も最近増えています。インドは理系志向が強く、ITエンジニアは人気の職業です。インドの優秀なITエンジニアは、世界中からひっぱりだこで、日本の企業や大学からも注目されています。日本語を学んだ学生が将来、日本企業に就職したり、日本へ留学したりすることを期待しています。

 また、インドでは2006年に高校修了試験実施機関の1つである中央中等教育委員会(以下CBSE)の選択科目の1つに日本語が正式に導入され、2010年現在、6-10年生(12-16歳)の選択科目として正式に認められています。現在、50以上の初中等教育機関で、5,000人以上の生徒たちが日本語を学んでいます。年々、導入校が増え、日本語を学習する生徒数も増えています。

JF-NDの仕事:初中等教育段階の日本語教育支援

 JF-NDの専門家の主な仕事は、初中等教育段階の日本語教育支援です。日本語がCBSEの選択科目に正式に導入されたのを受け、これまでシラバス、教科書、副教材、試験問題例を作成してきました。

 また、デリー近郊の初中等教育機関で日本語を教えている教師のための研修も行っています。教師研修は今年で5年目に入りますが、年々参加する教師も増え、研修会は先輩教師と新米教師が情報を交換したり、相談したりする場にもなっています。2006年にCBSEの選択科目に日本語が正式に導入されて以来、毎年日本語が導入される学年が上がるため、そのつど導入される新しい教材を使ってどう教えるか、現場の教師とともに考えています。

 今後、最終学年の12年生まで日本語を導入する予定です。インドの初中等教育機関の日本語教育は、まだ道半ばなのです。

初中等教育段階の日本語

 初中等教育機関で日本語を学んでいるといっても、大半は歌や折り紙などの課外活動が中心です。しかし、生徒たちの中には、自主的に漢字を覚えたり、日本の文化について調べたりするなど、教師も驚くほど熱心に勉強し、日本語能力試験も受けてみたい、将来は日本の大学で学びたいと言う生徒も出てきているそうです。そして、そんな生徒たちのやる気が教師を刺激し、「教えることが楽しい」という声も教師たちから聞かれるようになりました。

地方へ広がる初中等教育機関の日本語教育

初中等教育レベル現職教師研修会の写真
初中等教育レベル現職教師研修会

 現在、インド全体で50以上の初中等教育機関で日本語が教えられています。その大半はデリー近郊の学校ですが、地方でも日本語を教える学校が少しずつ出てきました。地方の学校を訪問すると、生徒たちは初めて見る日本人に好奇心で目を輝かせながら、「スモウはどんなスポーツ?」「どうして日本語はひらがなとカタカナと漢字があるの?」と、次から次へと質問してきます。広大なインドに点在する学校を訪問するのは、なかなか容易ではありませんが、生徒たちの学習意欲に少しでも応えられるよう努力していきたいと思います。

初中等教育機関で日本語を学ぶ意味

 日本語はまだまだインドのごく一部の学校で、ごく一部の生徒が学んでいるにすぎません。これからさらに大勢の生徒たちに日本語に親しんでもらえるよう、初中等教育レベルの教師支援、教材作成などの環境整備をしていくつもりです。

 初中等教育レベルでの日本語教育は、日本語の運用力よりむしろ異文化相互理解、広い視野を養うことなどを目指しています。今後、ますますインドはグローバル社会において重要な国になるでしょう。日本語を通して日本を学んだインドの子供たちが、将来日本のよき理解者となり、日印のより強い絆を築いていくことを期待しています。そんな未来の日本のパートナーを1人でも多く育てていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援を目的としている。業務は(1)日本語教育機関、環境についての情報収集・調査。(2)教師セミナーやコンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関の支援。(3)教師会などが主催する日本語弁論大会などの各種行事への協力。(4)当センターにおける教師研修の実施。(5)中等教育用日本語教材の作成など。多岐にわたる。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi - 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年

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