世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語の教え方について考える場作りを

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
長田佳奈子

西インドは、インド最大の都市ムンバイを州都とするマハラシュトラ州、新興産業地域として注目されるグジャラート州を擁する地域で、南インドほど勢いはないものの、日系企業が次々に進出しています。在インド日本国大使館、ジェトロの「インド進出日系企業リスト」(2014年1月)によると、西インドに拠点を置く日系企業は、2008年には208社でしたが、2013年には523社と、この5年で2.5倍になっています。今後日本語ができる人材がますます必要とされるでしょう。ここで問題になるのは、翻訳、通訳ができるレベルまで日本語学習を続ける人が少ないことと、日本語教師不足です。

マハラシュトラ州は、歴史的に日本語教育が盛んな地域ですが、日本語能力試験合格を目指した知識の学習を重視する傾向があります。しかし、初級前半のクラスには学習者が大勢いるのですが、初級後半、中級と進むにつれ、学習者がどんどん減っていきます。「翻訳、通訳ができるレベル」まで勉強しようとする学習者が少ないのです。漢字学習の壁、インド人学習者向けの教材不足、教師の教え方など、要因はいろいろ考えられますが、「教材不足」や「教え方」に問題があるとしたら、改善していく必要があるでしょう。

また、慢性的に日本語教師不足の状態が続いていますが、インドでは、特に教師になるための要件がないため、日本語を勉強したことがある人が、日本語の教え方について学ぶことなく、日本語教師になります。そうなると、「文法翻訳法」で習ってきた人が、そのまま「文法翻訳法」で教えるようになるのも自然です。しかし、ビジネス・ニーズに応えるためには、効果的な日本語教育を展開していく必要がありますし、試験に合格するための文法教育だけでなく、コミュニケーション教育ができる教師が求められます。国際交流基金ニューデリー日本文化センター(以下、JFND)は、コミュニケーション教育について学んだり、考えたりする場を提供するために、日本語教育ワークショップや勉強会を展開しています。2013年度はプネで13回、ムンバイで6回実施しました。

JFNDは、新たな試みとして、2014年4月に、プネで6日間の日本語教師養成講座を実施しました。これから教師になりたいという人が18人、日本語の教授法を学び直したいという人が10人と、計28人が参加しました。目標は「初級の教え方について教授法の基礎を学ぶ」「目標に合った授業の方法を具体的に考える」です。理論として学んだことを、すぐに模擬授業で実践に結びつけるのは難しかったですが、講師と参加者、参加者同士のやりとりから、いろいろな気づきが生まれていたように観察します。参加者からのコメントを少し紹介します。

*わたしが日本語を習ったとき、教材やゲームや会話練習がなく、教科書だけでした。今は教材もたくさんあるし、新しい教授法もあります。役に立ちます。

*文法を教えるとき、学習者に考えさせるのが大切だと初めて考えました。

*絵を見せて教えるのは効果的です。そのようにしたいという気持ちになりました。日本事情も学習者に教えたいです。

*ほかのグループの模擬授業を観察して、初めて初級の授業の難しさがわかりました。基本練習のさまざまな方法を使いましたが、それぞれの大切さに気づきました。

*模擬授業はおもしろかったです。いろいろなことを学びました。講義で習ったことを実際に運用するとき、うまくいかないところがあったと思います。

*いろいろなことを初めて勉強しました。将来先生になるために必要なことを習いました。気をつけないといけない、いろいろなことに気がつきました。

*これから先生になる方はもちろん、経験がある先生にとっても、新しくておもしろい方法がたくさんありました。学習者の興味をひく授業をするようがんばりたいです。

これから教師になる人だけでなく、多くの先生方に、ぜひ新たな教え方に挑戦してもらいたいです。効果的な日本語教育を展開すれば、継続して日本語学ぶ人たちが増えると考えられます。これからもインドの先生方と日本語の教え方について考える場、意見交換できる場を作ること、そして、教師の輪を広げていくことを大切にしていきたいです。

参考URL在インド日本国大使館・ジェトロ (2014)「インド進出日系企業リスト」 【PDF:外部サイト】

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣されている。執務スペースをティラク・マハラシュトラ大学(以下、TMV)に置き、TMV日本語コース(学士コース及び修士コース)の支援、日本語教育セミナー、日本語教師勉強会、日本語教師養成講座等の実施、日本語教育機関訪問、教師会支援、アドボカシー、スピーチ大会や日本文化祭などのイベント支援、情報収集、個別相談などを行っている。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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