世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 南インド支援の拠点がタミールナドゥ州チェンナイへ

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(南インド担当)
小川京子

1.南インドの新拠点、チェンナイの概要

南インド担当のアドバイザーはアーンドラ・プラデーシュ、テランガーナ(後者は2014年に前者から分割されましたが、業務上はハイデラバードを中心とした一地域として扱っています)、カルナータカ(州都バンガロール)、タミールナドゥ(同チェンナイ)、ケーララ(同ティルヴァナンタプラム)の5州の日本語教育支援を担当しています。

南インドへのアドバイザー派遣は2005年に始まり、バンガロール、ハイデラバード、再度バンガロールへと拠点を移して、2014年5月末からタミールナドゥ州チェンナイに配置されることになりました。

2012年の調査では、同州の学習者は7000名強(国際交流基金 日本語教育機関調査)で、デリー及び近郊を若干越えてインド最多、日系企業数は同じくデリー及び近郊に続いて第2位の約350(在インド日本国大使館・JETRO)となっています。

しかし、実は他地域に比べて初級、特にN5の受験者の割合が圧倒的に多く、高レベルの日本語人材はまだ育っていないのが実情です。

2.主婦や会社員教師に支えられる日本語コース

南インドで日本語が専攻できるのはバンガロール大学とハイデラバードの英語外国語大学だけ。チェンナイ地域にはオープンコースや外国語科目として初級クラスを開講している大学や企業内日本語研修を行っている会社もありますが、日本語教育の中心は民間の日本語学校や私塾です。

学習者の大半は会社員や学生のため、授業は主に週末で、教師の多くは自分自身も中級の日本語を学びながら初級を教える主婦や会社員の非常勤とボランティアです。

中には金曜日の仕事の後、夜行列車で郷里に帰って週末に日本語を教え、日曜日の夜行列車でチェンナイに戻ってそのまま出社、という教師もいて驚きました。みなさん、自分が日本語を学んで世界が広がったことに感謝し、同じような経験を後輩にもしてもらいたいという気持ちで教えているのです。

3.セミナー、勉強会、日本語ボランティアによる教師支援

チェンナイ地域は日系企業数や学習者の増加が著しく、通訳を中心とした実務日本語人材の需要も急激に高まっていますが、そのためにはまず高レベルの日本語能力と教授能力を持った教師を養成しなくてはなりません。

そこで、着任以来、教師との懇談や授業見学を通してその都度設定したテーマで、毎週平日と週末に、複数の学校を会場に、どの学校の教師でも自由に参加できる勉強会を開いてきました。

国際交流基金主催のセミナーとしては、週末セミナーや、プネ、デリーに続く6日間集中教師養成講座を開講しましたが、遠くハイデラバードやバンガロールからの参加者もあり、教師研修への関心の高さが伺われました。

同時に、教師や学習者が日本語に触れる機会を増やそうと、チェンナイ在住の日本人の方に呼びかけて日本語ボランティアを募り、今では約15名の主婦や会社員の方がいろいろな学校を訪問して、教師や学生との交流会や授業のアシスタント、さらには自らが講師となって日本語クラスや文化クラスを担当してくださっています。

初めて日本人と話したという学習者、日本語で話すことに慣れ、日本語や日本の文化に対する理解が深まったというインド人教師、日本語でインドについて学ぶことができ、今まであまり考えたことのなかった日本の文化を再考するよい機会になった、という日本人ボランティア、それぞれの立場で得ることが多いようです。

教師養成講座の写真
教師養成講座

教師と日本語ボランティア交流会の写真
教師と日本語ボランティア交流会

4.Facebook とグループメールによるネットワーク作り

広い南インド全体をお互いの顔が見える形でつなげようと、教師と教師志望者、日本人ボランティアを対象にFacebookで非公開の「南インド日本語教師グループ」を立ち上げて、いろいろなお知らせや活動報告を写真入りで紹介しています。

参加者からも情報や活動の報告が投稿され、それを読んだ他地域の教師から同様の活動をしたいという問い合わせがあったりして、楽しそうな写真入りの記事がよい刺激になっているのが感じられます。

Facebookのほかにメールでも情報を送っていますが、2015年5月末現在の登録者は約200名です。

5.若手教師の育成のために

任期1年目は現職教師に必要な支援をさぐり、実施することで精一杯でしたが、今後は若手教師の発掘と育成にも力を入れて行きたいと思っています。

非常勤と善意のボランティアで成り立っているチェンナイの日本語教育。教師の顔ぶれがどんどん変わっていってもしかたがないと割り切るしかありません。しかし、ありがたいことに、日本語だけでなく、教授法についても自分が学んだことを後輩に伝えていこうとする先輩教師たちがいます。今年は、既習のテーマはそうした先輩教師たちに任せて私は後方支援に回り、教師研修ができる教師が育っていけばいいと願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センターより南インドのチェンナイに派遣され、インド南部5州を中心に日本語教育の質の向上と拡大を図る。具体的には、1)現地人教師・教育機関支援、ネットワーク形成 2)機関訪問等による情報収集、調査、分析 3)南アジアの近隣諸国も含めたセミナーや勉強会など、各種支援活動の実施
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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