世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 新人教師の育成を目指して

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(南インド担当)
小川京子

1. 若手新人教師の育成に向けて

南インドのアドバイザーの拠点がバンガロールからチェンナイに移ってまる2年が経ちました。初年度は現役教師の日本語と教授能力の向上、インド人と日本人との交流の場の創成、南インド5州の教師ネットワークの構築を主な目標にしましたが、2年目からは新人若手教師の日本語育成を目指していろいろな試みをしています。

2. Brush Up Course for Prospective and Current Teachers in Chennai

このコースは教師志望者と現役教師が日本語を復習しながらいろいろな教室活動を体験して、自分の授業に役立てられるようにするのが目的です。

チェンナイ地域の教師の多くは、自分自身もまだ中級の勉強をしながら、日本語学校や企業、大学の選択科目やオープンコースで初級の日本語を教えているボランティアや非常勤の主婦や会社員ですが、このコースの受講者は初級から中級の日本語を学んでいる主婦と会社員の学習者が中心です。

インドの他地域の教師研修の受講資格は日本語能力試験(以下、JLPT)N3合格以上となっていますが、初級レベルの学習者が中心で、N5で教える側に回ることもあるチェンナイ地域では、初級を一通り修了していれば受講可としています。不適切な日本語が定着して化石化する前に、しっかりと基礎を復習して、きちんとした日本語が指導できるようになってもらいたいと思っているからです。

このコースでは、これまであまり指導されてこなかった、日本語の発音の規則、とめ・はね・はらい、書き順やバランスを意識した正確で美しいかなや漢字の書き方、インドでまだ根強い文法訳読法以外の教室活動を学習者と教師の両方の立場から体験しながら学んでもらっています。

また、自身の日本語能力の向上と教師としての授業準備、それに学習者への指導の練習を兼ねて、授業前に単語の発音を調べ、教科書の練習問題の答えをきちんとノートに書き、授業では確認クイズをして、課題やテストをお互いに添削し合います。

このコースで勉強を始めてから日本語を教えるようになった受講者や、コースでの練習や課題を通して自分の日本語能力の向上を実感し、自分が教えるクラスでも応用したら目に見えて学生の日本語が伸びてきたという教師もいて、少しずつコースの成果が出てきているようです。

また、このコースはインドで主流となっているJLPT対策コースと違ってコミュニケーション能力を重視しているので、受講者がこれまで経験したことのない発話テストも取り入れて、テストを受ける側、実施する側の両方を体験してもらっています。

さらに、このコースで使った教材はファイルにまとめて、どの学校の教師でも自由に使えるようにしていますが、最近は教師自身もネットなどで公開されているいろいろな教材を見つけて授業で活用したり、少しずつ独自のものを作ったりするようになってきました。中には教師が自主的な勉強会を開いて教え方のアイデアを交換し合う活動を始めた学校もあります。

絵カードを使った発話練習の様子の画像
絵カードを使った発話練習

会話テストの練習の様子の画像
会話テストの練習

3. 勉強会とGroup Consultation

そのほかに、勉強会やGroup Consultationも行っています。授業見学をして必要と感じたことや、教師や学習者から質問や依頼のあった項目をできるだけ広範囲にフィードバックするのが目的で、現在、複数の学校を会場に、どの機関からでも自由に参加できるようにしています。テーマによって、現役教師と初級の学生が一緒に参加することもあり、教師が学生を、先輩が後輩を、そして違う学校の参加者同士が助け合って、よい協働学習と交流の場ともなっています。

4. 南インドの教師と学生のネットワークづくり

初年度は広い南インド全体の教師と教師志望者、それに日本人支援者の情報交換と交流の場としてFacebookの南インド日本語教師グループを立ち上げましたが、これによって、実際には顔を合わせたことのない参加者の間に文字通り南インドグループという絆が生まれてきたように思います。

そこで2年目は学習者のグループも作成しました。南インドの課題のひとつに、日本語教師不足解消のために新人教師を育成することがあるのですが、そのためには専門家と学習者が直接つながる必要があると感じたからです。そのおかげで、日本語学習に役立つ情報や、新人教師育成のためのワークショップのお知らせなどを直接学習者に届けられるようになって、学習者のワークショップや勉強会への参加も増えてきました。

南インドではチェンナイの他にバンガロール、ハイデラバード、コチでもワークショップを行っていますが、近隣の人だけではなく、たまにはるばる遠方から参加してくれる受講者もいます。こんなふうに南インド全体がバーチャルでもリアルでも一つにまとまって楽しく日本語というものに取り組んでいってくれればと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センターより南インドのチェンナイに派遣され、インド南部5州を中心に日本語教育の質の向上と拡大を図る。具体的には、1)現地人教師・教育機関支援、ネットワーク形成 2)機関訪問等による情報収集、調査、分析 3)南アジアの近隣諸国も含めたセミナーや勉強会など、各種支援活動の実施
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
What We Do事業内容を知る