世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)目標は、JLPT? コミュニケーション能力?

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
長田佳奈子

「学生の目標は日本語能力試験(以下、JLPT)合格です」と言われ続けて、早3年。よく耳にする台詞ですが、コミュニケーション能力を高める授業を細々と提案してきた身としては、種まきがうまくいっていないなぁと感じる次第です。

西インドでは、JLPTに合格すると、就職に有利だと考えられおり、そのため、JLPT対策クラスが主流です。インドに進出する日系企業が急増しており、日本語でコミュニケーションができる人材が求められているものの、JLPT対策クラスでは、コミュニケーションの練習はほとんど行われません。そのせいで、JLPTに合格しても、あまり話せない日本語学習者が多い印象があります。また、初級前半で日本語学習をやめてしまう人も多いです。日本語学習者は増えているものの、継続して日本語を勉強しようとする学習者が少ないのです。ある機関では、初級前半レベルは300人いた学習者が、初級後半になると3分の1に減るそうです。それはまだいいほうで、企業内日本語クラスでは、クラス開講時30人いた学習者が、初級前半終了時には3、4人になることもあるとのこと。日本語学習が続けられない理由は「漢字が難しい」「時間がない」などが挙げられますが、本当に漢字は難しいでしょうか。短時間で言語知識を身につける方法はないのでしょうか。答えは「いいえ」です。楽しく漢字を身につけられるようにしたり、時間がなくても、効率よく日本語を習得できるようにしたりすることも、教師の仕事です。説明中心のJLPT対策から離れ、短時間でグッと学習者のコミュニケーション能力を伸ばす方法を考えていく必要があるでしょう。

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(以下、JFND)は、現状を踏まえ、さまざまな試みを行っています。その中のひとつが日本語教育ワークショップです。ワークショップでは、新たな教授法の提案を試みています。2015年度、西インドでは、プネで3回、ムンバイで2回行い、延べ132人の日本語教師および日本語教師志望者が参加しました。テーマは「文法」「語彙」「会話」「聴解」「読解」「作文」「中級指導」「通訳トレーニング」「テストの作り方」「ビジネス日本語」「スピーチ指導」です。講師は、インド人日本語教師3名、JFND日本語専門家3名、JFND日本語指導助手1名、青年海外協力隊員1名が担当しました。JFNDは、そのほかに日本語教師養成講座、勉強会を通した支援を行っています。

しかし、ワークショップや勉強会で新たな知見を得たからといって、教師の教え方が劇的に変わるわけではありませんし、参加しない教師も多いのが現状です。JLPT対策中心の土壌に変化をもたらすのがいかに難しいかを、あらためて感じます。

それでも、「『は』と『が』の使い方の違いが初めてわかりました」「初めて自動詞と他動詞がうまく教えられました」などの教師の声、勉強会参加者の真摯な態度やその教え子が日本語で一生懸命話そうとする様子を見ると、もっともっとネットワークを広げて、コミュニケーション教育の種をまき続ける必要性を感じます。わたしは2016年6月に帰国しますが、より多くの教師と意見交換する場をさらに増やしていけそうな雰囲気になったところで、後任にバトンを渡します。

グループでの話し合いの様子の画像
グループでの話し合い

模擬授業の様子の画像
模擬授業の様子

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣されている。執務スペースをティラク・マハラシュトラ大学(以下、TMV)に置き、TMV日本語コース(学士コースおよび修士コース)の支援、日本語教育セミナー、日本語教師勉強会、日本語教師養成講座等の実施、日本語教育機関訪問、教師会支援、アドボカシー、スピーチ大会や日本文化祭などのイベント支援、情報収集、個別相談などを行っている。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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