世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多岐にわたる日本語専門家の業務をこなす日々

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
平賀達哉

日本とインドは良好な関係を維持している。例えば、「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」と呼ばれる、この両都市間に高速貨物鉄道を敷設するという壮大な計画があるが、日本はこのインドのインフラ整備事業に全面的に協力している。現在、この計画もいよいよ本格的に動き出すところまで来ているし、両国間の経済交流もいっそう活発になってきている。そのような背景から日系企業のインド進出も増加しており、こういった企業では日本語に熟達したインド人の雇用も活発になってきている。

私は現在インド西部に位置するプネという都市に駐在している。プネは巨大都市が数あるインドではそれほど大きい都市ではなく、一般の日本人にはあまり馴染みのない都市であるが、日本語教育の分野では、日本語学習者・教師の質・数ともに全国的に見ても非常にレベルが高く、インドにおける日本語教育を牽引しているところだと言える。

このプネに着任して、1年が過ぎようとしているが、これまで私は事務所を置いているティラク・マハラシュトラ大学(TMV)の修士課程で授業を持ったり、修士論文の作成を指導したり、学部の授業ではプレゼンテーションクラスを教えたりしてきた。

この所属校での仕事の他に、私には西インド地域のアドバイザーとして地域全体の日本語教育の発展を支援する業務もある。例えば、この地域で教える日本語教師や教師を目指している人に対して、日本語教育に関するセミナーや教師養成講座を行うとともに、多くの日本語教育機関を訪れ、セミナーや勉強会を開いたりする業務である。

工学部の学生に日本語を学ぶ意義を説くの画像
工学部の学生に日本語を学ぶ意義を説く

そして、最近増えている業務が、今はまだ日本語を導入していない教育機関に対して、日本語を教えるメリットを説き、日本語を導入してもらうように働きかけるという活動である。特に日本語の導入を考えている技術系の大学や初中等教育機関において、この活動が増えている。技術系の大学では最近日系企業がプネのみならずインドの主要都市に進出してきており、こういった企業ではIT系の技術を持つとともに、日本語能力も兼ね備えた人材が求められている。さらに、アメリカのトランプ政権がインド人のIT関係の技術者を含む、外国人労働者に対する労働ビザの規制を厳しくしていることで、有力なIT関連企業がアメリカにおいて大幅な人員削減を行っているが、今後そういった企業の人材が日本を目指すのではないかという見方もあり、技術系の大学において日本語教育を始める動きが活発になっているようだ。

このような動きを背景に技術系の大学からは「学生たちに日本語を学習する意義について語ってほしい」といった要請が来るようになった。そのような声に応えて、「今工学系の大学で日本語を学習するメリットとは何か」について講堂を埋める学生たちに熱く語ったり、大学のトップに働きかけて、日本語科目の導入を訴えたりしている。そのおかげか、今年度の新学期から日本語を開講するカレッジも出てきた。

また、初中等教育に目を向ければ、上述したように近年の日本とインドの関係が好くなっていることを受けて、学校側が日本語を課外授業の一環として教えようという動きが目立ってきている。そこでは、簡単な日本語を教えるとともに、日本の童謡を教えたり、日本の子どもたちの遊びといった文化活動を行ったりしている。こういった授業は将来日本や日本語に関心を持つ若者を増やすという意味でとても意義深いプログラムである。

小学校で日本の子どもの遊びを教えるの画像
小学校で日本の子どもの遊びを教える

私は、このように日本語を課外授業として教えている小学校に赴いて、けん玉やあやとりを教え、日本の童謡をいっしょに歌ったりして、日本語学習の動機を高める活動も行っている。ここでは私はさながら小学校の先生になった気分で子供たちといっしょに楽しく遊ぶことに努めている。

国際交流基金の仕事は、学習者や日本語教師に日本語や日本語の教え方を教えるだけでなく、一般の日本語教師が体験できないような様々な仕事を任される。多岐にわたる業務をこなすのは大変なことだが、一方で一般の日本語教師の仕事では味わえない大きなやりがいや言い表せない喜びも感じつつ、日々さまざまな業務に勤しんでいる。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとして、マハラシュトラ州プネに派遣されている。執務スペースをティラク・マハラシュトラ大学(TMV)に置きつつ、TMVの日本語コース(学士・修士コース)に対する支援を行うとともに、西インド地域のアドバイザーとして、現職者向けの日本語教育セミナーを実施したり、日本語教師を目指す人に対して養成講座を行っている。その他、日本語教育普及のためのアドボカシー活動、スピーチ大会や文化祭などのイベント支援、情報収集、広報活動なども行っている。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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