世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)わたしたちの仕事

国際交流基金 ニューデリー日本文化センター
若菜結子・小西広明・モーリス歩

多様な日本文化のひとつとして「沖縄」を体感(モーリス歩)

日本語講座で使用している『まるごと 日本のことばと文化』では東京や大阪などの主要都市の紹介以外にも筆者の故郷である「沖縄」を取り扱うトピックがあります。今回はご縁があり『島唄』で有名な音楽家の宮沢和史さんが来印され、沖縄の楽器である三線(さんしん)演奏も交えて沖縄の音楽を中心に紹介するイベントを実施しました。テキストでは十分に伝えることができない三線の調べを実際に聴いた受講生はみな大喜びでした。日本語学習の動機付けにつながり、以前よりもなお一層日本の文化に興味を持ってくれたのが大きな収穫です。またこのイベントのためにB1中級クラスの受講生が率先して、司会進行や来場者の整理、沖縄の踊りなどを披露したのですが、A1レベルの受講生にもいい刺激になりました。このような機会はめったに訪れるものではありませんが、ひとつの目標に向かって協力し合うことで言葉を学ぶ以上のものを得ることができました。

昨年から本格的にインドで『まるごと』のテキストが「A1かつどう/りかい」、「A2-1かつどう/りかい」と現地出版化されており、現在はA2-2レベルの発刊を今年中に予定しています。着任時からの筆者自身のテーマである“世界中に一人でも多くの日本のファンを増やす”ため、常に受講生が日々楽しく続けられる講座を第一に心がけています。

沖縄の音楽を中心に解説する有名な音楽家の宮沢和史さんの写真
沖縄の音楽を中心に解説する宮沢和史さん

インドで初めて「群読コンテスト」を開催!(若菜結子)

みなさん、群読ってご存じですか。群読は、大勢が文章や詩を分担しながら読む活動のことをいいます。日本の卒業式でよく行われる「呼びかけ」も群読の活動の一つです。ニューデリー日本文化センターでは、昨年当地の初中等日本語教師会と共催で「群読コンテスト」を実施しました。国際交流基金の専門家がワークショップで紹介したことをきっかけに、このような活動を「楽しそう」「やってみたい」という日本語の先生方の声と、子ども達のために新しいイベントを実施したいという初中等日本語教師会の意見が合致し、開催が決定しました。題材は、谷川俊太郎の「生きる」。単独ではなくグループでの朗読なので、参加した学校は、それぞれ生徒同士が協力し、工夫した読み方で、一生懸命発表していました。日系企業にもご協力いただき、入賞した学校には、景品もありました。このようなイベントを通して、子供たちに日本語を学ぶ楽しさ、チームワークの大切さ、達成感を感じてもらい、日本語の先生方にも日本語の教え方の幅を広げてほしいと考えています。

インドでは、受験勉強のため高校生が日本語学習を続けることが難しい状況です。一度日本語学習から離れたとしても、中学校や高校の時に感じたこと、学んだことを、その後の人生に生かしてほしい! 今回のようなイベントがひとつのきっかけとなり、日本の様々なことに興味を持ち、将来日本とインドの架け橋になるような方がでてきてくれたら嬉しいです。私の任期はあと1年を切りました。残りの任期も、より多くのインドの子ども達に日本語、そして日本に興味を持ってもらえるよう、先生方と一緒に様々な活動にチャレンジしたいと思っています。

群読コンテストの様子。9人の学生が心を一つに群読をしています。詳細は以下。
心を一つに!レッツ群読!

1,000人の日本語教師を育てよう(小西広明)

2017年9月に日印首脳会談が開かれ、今後5年間で、インドの100の高等教育機関において認証日本語講座を設立し、1,000人の日本語教師を育成することが決定されました。これらの教師は、インドにおける理工系大学などの高等教育機関で日本語教育に従事することが期待されています。この決定をもとに、日印両政府によって、日本語教師を育成する日本語教師育成センター(仮称)の設置が合意され、わたしたちのセンターがその運営を担うことになりました。

インドの高等教育機関は、特に優れたIT技術者の輩出によって、その名を世界にとどろかせています。そうした優秀な技術者たちは、「日本語」というもう一つの強力な武器を身に付けることによって、更に広く大きな世界に飛び込んでいくものと思います。

わたしたちは今後5年間、彼らに日本語を教える教師の育成というやりがいのある仕事に取り組んでいきます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援・普及を目的としている。具体的な業務としては、(1)インド国内外でのワークショップ、勉強会、コンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関への支援・協力、(2)初等・中等学校での日本語普及のためのプロモーション、行事への参加、(3)現職教師の研修および新規教師育成、情報通信技術を利用した日本語教育の導入推進、(4)JF講座の運営、講座担当講師の育成など多岐にわたる。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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