世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) スリランカの日本語教師を結び、支えるネットワークを目指して

ケラニア大学
尾崎裕子

ムンバイ教師会、セミナーのようすの写真
教師会例会でのワークショップ風景

 インド亜大陸の南に位置する島国スリランカ。東南アジアと比べて日本企業や在留邦人も少なく、日本人にとってなじみが薄い南アジアの中で、この国が際だって、日本語熱の高い国であるということはあまりご存知ない方が多いのではないだろうか。

 スリランカでは90年代に入ってから、日本語学習者が急増した。国際交流基金の1993年と1998年の調査によると、日本語学習者全体数は1,060人から4,340人に伸び、300%以上の増加率になっている。これは中等教育レベルで日本語学習が急激に広がっていったことを示している。スリランカでは12年生と13年生の2年間でAレベル試験(高校卒業試験と大学入学試験を兼ねたもの)の受験科目を3つ選び、履修することになっているが、この受験科目として日本語を学習する人が増えているのだ。

 学習者のすそ野が広がる一方で、教師の育成、研修を行う体制ができておらず、大きな課題になっている。

 スリランカの日本語教師の数は推定で150人前後。その内、初等・中等教育機関で教えている教師は40人程と考えられるが、正確な数は教育省でも把握していない。実は現在スリランカの公立の中等教育機関では、外国語教師は正教員としては採用されず、日本語教師は各学校から直接非常勤講師として雇用されている。正教員でないから、雇用のための資格も明確な基準がなく、高校卒業程度で、つまりAレベル・コースで初級レベルの日本語を学習しただけで、外国語教育の訓練も受けたことがないまま日本語を教えている教師がたくさんいる。結果として、多くの日本語教師が安い賃金で働き、日本語能力や教授法のスキルアップの機会もなく、カリキュラムや教材不足などの問題があっても、教育省はもちろん、学校や正教員の同僚などから理解や支援も得られず、一人で悩むという状態が続いてきた。過去に基金の専門家を中心に日本語教師の勉強会を行っていたこともあったが、2,3年前から休会状態になっており、孤立無援の状況でがんばっている日本語教師をまとめ、支援することが求められていた。

教師会例会でカルタに挑戦するスリランカ人教師たちの写真
教師会例会でカルタに挑戦する
スリランカ人教師たち

 そんな中、2001年3月に国際交流基金巡回セミナーがコロンボで開催されることになり、コロンボだけでなく全国から教師が集まるこの機会を生かして日本語教師会を作ることにした。セミナーで日本語教師のネットワーキングとレベルアップのために教師会結成が必要であることを説明し、参加者に呼びかけたところ、約60人の参加者から非常にポジティブな反応があった。

 そして2001年4月に第1回目の会合を持ち、スリランカ日本語教師会が発足した。その後毎月1回例会を持ち、今に至っている。登録会員数は現在60人あまりで、例会には毎回30人程度が参加している。

 例会では、毎回日本人教師1名とスリランカ人教師2名程度の担当者を決め、授業活動の紹介や、発表を行っている。活動の内容は様々だが、大きく分けると次の5つのタイプに分けられる。(1)すぐにクラスで使えるアクティビティーの紹介(2)文法についての講義(3)文型・技能別(発話、作文など)の教え方の紹介(4)教材作りのワークショップ(5)日本文化の体験。(4)の教材作りは国際交流基金のリソースブック『続教科書を作ろう』の素材を基にして、スリランカの学習者向けの読解教材を作る作業をグループで行った。また、(5)の日本文化の体験活動としては書道や、折り紙ワークショップ、正月にはもちの試食などをしたが、多くのスリランカ人教師には新しい経験でもあり、好評だった。

 教師会活動開始から1年経って行ったアンケートでは参加者全員が教師会の活動を有益だと評価している。中でも参加者が特に役に立っていると感じているのが「教え方の勉強になる」ことと「情報が得られる」ことの2点である。また、今後どんな活動を希望するかについても、「文型の教え方」「技能別の教え方」を挙げる人が一番多く、教師会を教授法面でのスキルアップの場として生かしたいと期待している人が多いことがわかる。一方で会員教師自身の日本語能力向上のための勉強もしたいという希望も強く、今後日本語能力レベル別のグループに分かれての勉強会なども積極的に進めていきたいと思う。

 この教師会活動ではJOCV(青年海外協力隊員)をはじめとする日本人教師達の協力も大きく、バスで片道3時間も5時間もかかる任地から参加してくれる隊員もいる。しかし教師会はあくまでもスリランカ人の教師が中心になって、自主的に運営していくのが理想であることはいうまでもない。過去の例では、日本人がすべてお膳立てして、スリランカ人教師の積極的な参画を進めることができなかったために、会が自然消滅してしまった。今回はまず教師会を定着させることを目標に1年間例会を続けてきた。今のところほとんどの教師が余裕のない仕事・生活環境にあることを考えると、教師会の運営を完全にスリランカ人教師だけで行えるようになるにはまだ時間がかかりそうであるが、日本人がサポートしながら、徐々にスリランカ人教師のみんなに自分たちの会を自分たちで作り上げ、運営していく力と自信をつけてもらいたいと考えている。そして将来的にはコロンボ近辺の教師だけでなく、地方に点在している教師も組み込んで、より広い、より強力なスリランカ日本語教師ネットワークに発展させていってほしいと願っている。


派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
   及び業務内容
本日本語講座はスリランカの高等教育機関の中でも最も長い日本語教育の歴史を持ち、高い水準の日本語教育を行っている。また、教育省に協力して、日本語Aレベル試験の実施やシラバスの改訂などに講師が参画していて、中等教育レベルの日本語教育についても影響力、指導力をもっている。スリランカではまだ上級レベルの日本語コースはなく、本講座は中級レベルのカリキュラムを持つ数少ないコースの一つである。卒業生の多くは高校をはじめとする各教育機関で、比較的質の高い日本語教師として活躍している。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成等を行う。
ロ.派遣先機関名称 ケラニア大学
University of Kelaniya
ハ.所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部現代語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1978年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1980年

(ロ)コース種別
主専攻、副専攻、選択、課外、学外学位

(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人0名、2名とも留学中)、非常勤5名(うち邦人2名)

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻1年:17名、2年:11名、3年:49名
(2) 学習の主な動機 日本語・日本文化への興味、就職
(3) 卒業後の主な進路 日本語教師、その他の語学教師、一般企業、公務員など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級合格に少し届かないレベル
(5) 日本への留学人数 1名

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