世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ケラニア大学 ―スリランカ日本語教育の名門―

スリランカ ケラニア大学
青沼国夫

 スリランカでは中等教育機関の日本語教育が盛んに行われています。その理由の第1として大学入試科目になっていることが挙げられるでしょう。日本語はスリランカ人の多くが使用しているシンハラ語と構造が似ています。ですから、学習しやすい科目として、高校生の間でも日本語を選択するケースが多く、入学検定(高校卒業兼大学入学試験)の合格率も高いようです。いくつかの伝統ある高校ではランゲージ・デーやスピーチ大会が開かれ、積極的な教育活動が実施されています。そして、このような高校で日本語を学んだ学生が、この日本語学習を継続し、発展させようとして目指す大学がコロンボ市郊外にあるケラニア大学なのです。

 ケラニア大学では今年の5月16日に新入生のオリエンテーションが行われました。日本語講座の属する人文学部の新入生およそ1500人が一堂に会し、各学科長の説明を受けました。この中から数十名が日本語を選択します。ケラニア大学の日本語講座はAレベル試験(日本語能力試験3級程度)という入学検定(高校卒業兼大学入学試験)に合格したものを対象としています。今年は合格者が少ないという噂があり、受講生の減少が懸念されておりましたが、昨年より多い38名を日本語学習者として登録しました。教授陣はスリランカ人4名、日本人2名(筆者を含む)の計6名です。しかし、現在、主任講師が日本に留学中で、他の教員は非常勤や時間講師であることから、国際交流基金日本語教育専門家が講座を牽引する役割を担っています。通常の授業を受け持つほか、カリキュラムの作成や教員の日本語力向上のための支援、教授力の育成も期待されています。

日本語講座の所属する人文学部の学部長の写真
(写真1)日本語講座の所属する人文学部の学部長
ケラニア大学日本語講座の教授スタッフの写真
(写真2)ケラニア大学日本語講座の教授スタッフ

 筆者はスリランカに住み始めて間もないのですが、流暢に日本語を話す人にしばしば出会います。日本語の専門教育を受けた人ばかりでなく、いろいろな専門を日本で学んだ留学経験者が日本語を操りながら各自の専門を極めています。日本語講座の所属している人文学部を統括しているクラティラカ・クマラシンヘ学部長もその一人です(写真1)。氏は日本文学や演劇に対する造詣が深く、多くの著書を持つ知日派です。例えば「風姿花伝」の翻訳、シンハラ文学賞を受賞した「日本の演劇」など。また、新聞に夏目漱石の作品について連載していますし、日本の伝統的演劇などについての英文の著書もあります。現在は日本文学史を執筆中とのことです。
 「私は日本語が好きで時々私塾で教えています。ここスリランカでは日本一般の情報が少ないので日本のことを広く知らせて行きたいし、日本人にもスリランカを知ってもらいたい。そのための活動を今後もやって行きたいと思っています。」
 これはクラティラカ学部長自身のことばです。

 ケラニア大学日本語講座は今、人材不足に陥っています。留学中の教員が大学に戻らなかったり、現職で教えている教員が転職したりする事態が続きました。そのため、日本語専門学位コース(4年制)が開講できず、学生たちは一般学位コース(3年制:日本語と同時に他科目も学ぶ)の中でしか学ばざるを得ないため、日本語学習に対して、より意欲を持つ学生のニーズに応えられていません。スリランカ人講師3名と日本人講師2名(写真2)が懸命に講座を支えていますが、教授陣の体制の立て直しが今後期待されるところです。


派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
   及び業務内容
ケラニア大学の日本語講座はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、また中級レベルのカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。スリランカではまだ上級レベルの日本語講座を持つ学校教育機関はない。そのため、教育省からの依頼によりAレベル試験(高校卒業兼大学入学試験)の問題作成、採点などにもケラニア大学講師が参画しており中等教育の日本語教育にも影響力を持っている。本講座には毎年高校で初級を学んだ学生が集まる。日本語教育専門家は大学での授業を始めとして、コース運営の支援、講師の指導、Aレベル試験の問題作成と採点の協力を行う。
ロ.派遣先機関名称 ケラニア大学
University of Kelaniya
ハ.所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部 現代語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   課外講座:1978年
一般学位:1980年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1980年

(ロ)コース種別
主選択 ・副選択 ・ 課外講座 ・ 学外講座 

(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(邦人0名) 非常勤4名(うち邦人1名)

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:38名 2年生:25名 3年生:43名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ・留学・日系企業への就職・日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業・日本語教育機関に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 2名程度

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