世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「スリランカ日本語教材開発プロジェクト」

ケラニア大学
青沼国夫

1.中級教科書「読χ話」作成

中級教科書【読χ話】の中表紙の写真
中級教科書【読χ話】の中表紙

 スリランカは日本語教育の歴史が約40年と比較的長く、学習者数も現在では9千人以上(全人口約2千万人)を越え、日本語教育が普及している国の一つと言えますが、これまで独自の教材開発はあまり進んできていませんでした。そこで、1年半前に筆者は青年海外協力隊日本語教育隊員(JOCV)や現地日本語教師とともに「スリランカ中級教材開発研究会」を立ち上げました。目的はスリランカ人学習者のための中級者用読解教科書の作成です。毎月2回、新しい教材作りのための会合を開いてきました。今年3月に「試用版」を開発し、教科書名を「読χ話《どっかいわ》」としました。

 ここまでの道程は、たやすいものではありませんでした。まずはインストラクショナル・デザインなど教材作成の技術を学び、これまでの教授理論やスリランカ人の学習観などを整理し、読解文などについても初めから勉強し直しました。メンバーはそれぞれ異なる機関に所属していることから全員集合できる日程がスケジュール通り行かないこともありました。そのため、合宿をして集中作業を行ったこともあります。現在、完成版に向けた改訂作業とその出版に向けて活動中です。

 教材作成においては、今日の言語教育の動向である「コミュニケーション能力の育成」を念頭に入れて、言語習得の理論に基づくことを優先課題としました。スリランカという地域性を考慮して、スリランカ人学習者が興味の持てる内容にし、日本とスリランカの文化社会の理解や相互交流を可能とするための知識や技能が習得できることを目標としています。この教科書を使用することで、学習者が読解文の各テーマについて議論などを繰り返しながら考えを深め、レポート作成やプレゼンテーション等の運用力を身につけて、「日本を理解し、自国スリランカの文化社会について日本語で発信する」ことが実現できるようになることを期待しております。

2.「高校生日本語セミナー」「文化フェア」

高校日本語セミナーの写真
高校日本語セミナー

 スリランカ日本語教師会は月例会で勉強や情報交流を行い、筆者もアドバイザーとして支援しています。今年度からワーキング・グループを結成して活動を広めています。「巡回セミナーグループ」「文化フェアグループ」「高校の日本語教育を考える会」です。

 「巡回セミナーグループ」が今年3月18日に高校生のための日本語セミナーを開催しました。デビバリカ高校の講堂にコロンボ及び周辺の地域の高校生300人が集合しました。「日本語の特徴」「正しい文字の書き方」「会話と作文」「授受表現や受身文」などの内容で、ベテランのスリランカ人先生方から講義がありました。朝8時から夕方5時までというハードスケジュールにも関わらず参加した高校生たちは最後まで熱心な姿勢が崩れませんでした。途中、昼食を挟んで模擬試験も行われ、成績優秀者には賞状と記念品も授与されました。参加者からは「有意義だった」「またこのようなセミナーを開いてほしい」など、満足の声が聞かれました。

 5月16日と17日には「文化フェアグループ」が日本大使館と共に茶道紹介や着物の着付けの実演指導を行いました。会場には連日大勢の観客が訪れ、はるばる4時間以上かけて地方都市キャンディからも高校生達が先生の引率のもとやって来るなどして、日本の文化を堪能していました。

 益々、活発に行動する【スリランカ日本語教師会】から目が離せません。

3.「サバラガムワ大学の日本語教育」の動き

 サバラガムワ大学は、大学として創立されてまだ13年の若い大学です。スリランカ南部中央高地に位置し、自然環境に恵まれ、熱帯の国スリランカにおいては過ごしやすい気候の地にあります。日本語教育では伝統のあるケラニア大学に比べるとまだ発展途上と言えますが、学習環境が整いつつあり、学生の学習意欲も高いです。首都から離れた不便な場所に立地しているものの、学生のほぼ全員が寮や下宿で生活していることから、仲間との結束が強いことや、様々な行事や課外授業を行いやすいという利点があります。昨年の学園祭では「よさこいソーラン」や、「こぶとり爺さん」の日本語劇を披露し、大変盛況でした。また、外部から日本人の特別講師を招き、茶道や書道、剣道など日本文化の体験の機会があります。さらに日本映画上映会や日本企業訪問などを通し、日本への関心が高まるよう工夫されています。

 日本語講座は3年制で、学生は各学年に約20名在籍しています。日本語のほか日本事情や日本文学も学び、幅広く日本に関する知識を身につけられるようになっています。講師はスリランカ人常勤講師が3名とJOCVが1名います。現在、日本語講座が属する言語学科は、4年制の学位講座設立に向けての改革を行っており、短期のJICAのボランティアを追加派遣し、講座全体の見直しを図っているところです。

 大学からは社会で役に立つような人材育成が求められ、そのために実践的な日本語教育が期待されています。しかし、実際は日本語を生かす職に就くことは難しく、卒業後は日本語から離れてしまう学生も少なくありません。今後はスリランカの社会、経済動向を踏まえて講座内容を充実させ、社会で活躍できるような卒業生を送り出すことが目標となっています。


派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
   及び業務内容
ケラニア大学の日本語講座はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、また中級レベルのカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。スリランカではまだ上級レベルの日本語講座を持つ学校教育機関はない。そのため、教育省からの依頼によりAレベル試験(高校卒業兼大学入学試験)の問題作成、採点などにもケラニア大学講師が参画しており中等教育の日本語教育にも影響力を持っている。本講座には毎年高校で初級を教えた学生が集まる。日本語教育専門家は大学での授業を始めとして、コース運営の支援、講師の指導、Aレベル試験の問題作成と採点の協力を行う。
ロ.派遣先機関名称 ケラニア大学
University of Kelaniya
ハ.所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部 現代語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   課外講座:1978年
一般学位:1980年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1980年

(ロ)コース種別
主選択 ・副選択 ・ 課外講座 ・ 学外講座

(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(邦人0名) 非常勤5名(うち邦人2名)

(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:53名 2年生:30名 3年生:26名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ・留学・日系企業への就職・日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業・日本語教育機関に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 2名程度

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