世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ケラニア大学へようこそ!

ケラニア大学
新井潤

ケラニア大学では3学年、約120名の学生が日本語を学んでいます。学生たちは人文学部現代語学科に在籍しています。一般の日本語教育機関と同様に、総合日本語科目として文法、聴解、読解、漢字、作文、会話という講義があります。このほかに言語学、日本文化、日本語教授法、日本文学の講義があります。わたしはこのうち「日本語教授法」と「日本文学」を担当しています。

主専攻として日本語を選んだ学生は、卒業時に日本語能力試験N2程度のレベルに到達します。日本へ1年間留学する機会を得た学生はN1に合格する学生もいます。いうなれば、ケラニア大学がスリランカ日本語学習の最高峰ということになります。

学生は3つの専攻を持たなければなりません。たとえば「日本語・中国語・社会学」や「日本語・観光学・経済学」などのようにです。ですから、学生たちは毎日とても忙しそうです。曜日によっては、朝8時開始の講義から午後6時終了の講義までみっちりとスケジュールが詰まっています。

こうしたなか、昨年度から日本語専科 (Special Degree) が開講されました。これは2年生に進級する際に従来のコースから分岐するもので、1年生終了時に希望者を募ります。昨年は19名(このうち5名が現在日本留学中です)、今年度は14名がこのコースを選択しました。日本語専科は日本語だけを専攻しますが、このコースは4年制で、卒業時に卒業論文執筆が課せられます。開講講義は上記の講義以外に、音声学、異文化間コミュニケーション、翻訳・通訳学、観光学、研究方法・論文指導の講義が加わります。わたしはこのうち「音声学」「研究方法・論文指導」「言語学」「日本語教授法」を担当しています。

3年生は昨年、初めて日本語で論文を書き上げ、論文集(『ケラニア論叢(仮)』)が発刊されました。論文は「異文化間コミュニケーション研究」「日本語習得研究」「対照言語学研究」「言語コミュニケーション研究」「日本語教育方法研究」の5つの分野に渡って執筆されました。わたしは編集と校正を担当しました。この論文集が今後も継続して発刊され、スリランカ人の日本研究のための貴重な資料となっていくことを望んでいます。

日本語専科の学生も毎日のスケジュールは講義でいっぱいです。しかし、学生たちはみんな元気いっぱいで、学ぶという機会に恵まれていることを自覚し、どの講義も熱心に、楽しんで受講しているという印象があります。

ある3年生の月曜日から金曜日までの時間割表(月曜日:日本語会話、日本語文学、中国語、日本語教育教授法2コマ、日本語教育漢字、社会学、火曜日;中国語文化2コマ、水曜日:日本語聴解、日本語作文、社会学2コマ、日本語文化2コマ、中国語会話、木曜日:日本語読解、金曜日:中国語3コマ、日本語文法2コマ、社会学2コマ)
ある3年生の1週間

クラブTシャツ・雑誌・論文集の写真
クラブTシャツ・雑誌・論文集

ケラニア大学の学生たちは、講義以外にもさまざまな自主活動をおこなっています。日本語科の学生たちには「日本語クラブ」という学生活動団体があります。おもな活動は新入生歓迎会主催、学科旅行の企画・実行、大学祭への出演、日本人講師の歓送迎会主催、クラブTシャツの作成・販売、クラブ雑誌の編集・販売などがあります。クラブ雑誌にはわたしも執筆者として加わり、校正作業などを手伝いました。

こうした活動を通じて学年、学部・学科を越えた学生間の交流が活発におこなわれ、日本語専攻以外の学生たちにも日本語熱が波及し、日本ファンの獲得に一役買っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベルのカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。当地ではまだ上級レベルの日本語講座を持つ学校教育機関はない。そのため、教育省の依頼で、Aレベル試験(高校卒業兼大学入学試験)の問題作成・採点、さらにシラバス・教科書作成などにもケラニア大学講師が参画しており、中等教育の日本語教育にも多大な影響力を持つ。ケラニア大学には毎年高校で初級を終えた学生のうち、成績上位者が入学する。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講された。
所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部 現代語学科
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