世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) がんばれブラジルの日本語教育

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
池津 丈司・吉岡 千里

昨年のこのコラムで、移住地の日本語学校に子どもを呼び戻す取り組みについて書いた。日本語学校のライバルである英会話や進学塾に文協(全国各地にある日系人協会。日本語学校も併設されている場合が多い。)の施設を提供しようというアイディアまで飛び出したことをご紹介した。しかし、これではまだ日本語学校の学習者増加に直接つながらない。日本語学校としてのウリがないからだ。

そんなことを考えていたところ、大学生のための研修を通じて、ブラジルの学校教育ではあまりグラフを教えないのだということを知った。加えて、編み物の本など、日本では当然挿絵が必要なものの説明でも写真や絵が使われなかったりするということがわかってきた。

図表や挿絵は、日本人にとってはごく身近で、書き手の表現を広げ、読み手の理解を助けるものである。そこにブラジルとの文化の差があるなら、日本語を学ぶことで、ポルトガル語や英語にも通じる言語力を伸ばすことはできないだろうかと考えた。

言語力というのは、表現力や読解力、要約力、論理力、評価力などといった、言葉を使って考える力のことである。移住地の子どもたちが日本語学校に通う小学生から中学生の時期は、子どもにとってその言語力を育てる大切な時期でもある。この言語力の育成に力を入れたカリキュラムを考えることができれば、日本語学校は単なるコミュニケーションの技術としての日本語を学ぶところではなく、優秀な人材を育てる場所としてよみがえることができるかもしれない。

ロンドリーナでのセミナーの写真
ロンドリーナでのセミナー

というわけで、今年は「考える言葉を育てる」というテーマのセミナーを各地で行っている。評判は上々で、「これからのブラジルの日本語教育が目指すべき道筋が見えた」「考える教室活動は楽しい」などの声をいただいている。頑張れブラジルの日本語教育。

<池津>

池津専門家が各地で教師対象のセミナーを精力的に行っている中、2012年9月、サンパウロ日本文化センターでは、ブラジル最大規模の日本語学校を有する日伯文化連盟と連携し、日本語講座を開講することとなった。使用教科書は、もちろん『まるごと 日本のことばと文化』(JF日本語教育スタンダード準拠教材)である。現在までに入門(活動編と理解編)と初級1(活動編)の3コースを開講しており、今後も順次上のレベルのコースを開講予定だ。

学習者は、日系ブラジル人だけではなく、非日系の学習者や韓国系ブラジル人、またチリ人やデンマーク人もおり、教室はまさにブラジルの縮尺図となっている。

学習動機については、仕事で使いたいから、日本の文化について知りたいから、日本に行きたいからといった理由だけではなく、日本に旅行に行った時に日本語が話せなくて悔しい思いをしたから、日系人の姑と日本語で話をしながら料理を作りたいから、息子家族が日本に住んでいる学習者は、将来生まれてくる孫と日本語で話したいからなど、微笑ましい目標を持っている学習者もおり、目指すところもまた十人十色である。

現在第2学期が進行中であるが、講座内容について学習者からは概ね好評価を得ている。日本語だけではなく文化についてもたくさん知ることができる、日本に行った時に使えそう、どんな場面でどんなことを言ったらいいのかわかるようになった、日本語で話してみようという自信がついたという学習者もいれば、ある学習者は日本に住んでいる彼氏の親戚に送るビデオレターを撮影する時に、授業で習った表現が使えて嬉しかったなど、思わずこちらの顔がほころんでしまいそうなコメントも頂いている。

まるごと講座の学生たちとの写真
まるごと講座の学生たちと

今後も、学習者からのニーズを汲み取りながら、講座内容の充実に努め、学習者とともに成長する講座にしていくとともに、ブラジルの外国語としての日本語教育の一端を担う講座を目指していきたい。頑張るぞ、まるごと講座。

<吉岡>

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金サンパウロ日本文化センターの日本語関係の仕事は日本語教師支援、学習者支援、教材支援とネットワーク支援である。現在、教師支援としては全伯初中等教育教員研修、他団体主催研修会への講師出講、学習者支援は各地で日本語を学ぶ高校生や大学生をサンパウロに招いて実施する学習者研修など、教材支援ではサンパウロ州教育局の要請により中等教育用教材開発を行っており、ネットワーク支援としては「ブラジル日本語教育環境マップ」の作成と全国配布を行っている。2012年度より「JFまるごと日本語講座」開講。
所在地 Av. Paulista 37, 2o. andar, CEP01311-902, Sao Paulo, SP, Brazil
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名 専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年

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