世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 現地に求められる日本語教育を目指して

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
柴原智代・吉岡千里

昨年は、公立の中等教育機関で学ぶ中高生について書きました。今年は、私立学校や日本語学校で行われている子どもへの日本語指導について取り上げます。一般に日本語学校の学習者というと成人をイメージしますが、ブラジルでは6~14歳の子どもの学習者が多いのが特徴的です。

私立学校や日本語学校で行われている子どもへの日本語指導を教科書から見ると、3つのタイプに分けられます。1つ目は、日本の国語教科書を使っているタイプ。最近では少なくなりました。授業は、教科書の音読と、かなや漢字の書き取りが中心です。子どもたちは、意味を説明されないで音読や書き取りをしているのですが、これは意味がわかっている日本の子どもに対する国語教科のやり方を持ち込んでしまったためだろうと思われます。2つ目は文法積み上げ式の教科書を使っているタイプ。授業中、子どもたちは教科書にある「これはルイスさんのかばんですか。はい、そうです/いいえ、そうじゃないです。」という文型の練習を書いて行います。子どもは「ル、イ、ス、さ、ん…」と音読できますが、その文全体の意味は理解できていない場合もあります。この年頃の子どもには知的好奇心がわかない内容で、言語形式の操作をする練習は、効果が期待できません。3つ目は、歌や踊り、折り紙やゲームなどの教室活動を中心とするタイプです。教科書はあまり使いません。日本や日本語に興味を持った子どもが将来本格的な日本語学習に進む可能性はありますが、遊びに近い教室活動の中で習得できる日本語は多くはありません。2つ目と3つ目のタイプが一般的だと思われます。3つのタイプいずれでも礼儀や後片付けなどの日本的な躾と、運動会や林間学校などの日本的行事が重視されているのが特徴的です。

6~14歳の年頃の子どもには、音声言語中心に、体験や作業を通して言語を使いながら帰納的に学習していく方法が望ましいのですが、適切な教材は見当たりません。教師には、勉強と遊びのけじめをつけさせるなどの教室運営技術が必要ですが、体得には時間がかかります。子どもは成人と違い日本語で発話する必要性を感じないので、日本語での発話を引き出し伸ばすための技術や子どもをあきさせない技術が不可欠です。認知発達論と第二言語習得を視野に入れた長期的なカリキュラムもモデルがなく手探りです。このように6~14歳の子どもへの日本語指導は容易ではありません。サンパウロ日本文化センターでは、毎年中高生を集めた日本語キャンプを実施していますが、その中で試行錯誤し、少しずつ実践を積み重ねていこうと考えています。

2014生徒研修でのグループ活動の写真
2014生徒研修でのグループ活動

当センターの日本語講座(以下、JF講座)も、3年目に突入しました。広報活動に力を入れたおかげか認知度があがり、2014年には年間で680件の問い合わせ、145名の申し込みがありました。また、新たに初中級クラスも開講し、2014年後期は9クラスを開講するまでになりました。

国際交流基金のJF講座は、一般日本語講座、文化日本語講座、そして日本語能力試験体験講座の3つで成り立っています。文化日本語講座は、文化体験をしながら日本語を勉強してもらうのが目的です。今回はこの文化日本語講座について紹介します。

2014文化日本語講座七夕の写真
2014文化日本語講座七夕

当センターでは年に2回、1月と7月に実施しています。1月は広く一般の人を対象にし、7月はクラス横断的な学習交流を図るために受講生を対象に行っています。2014年1月には「書初め」、7月には「七夕」をテーマにしました。「書初め」には日本語が少しわかる人から、日本語はわからないけど日本文化が大好きという人たちが集まり、自分の名前や書いてみたい文字を筆と墨を使って書きました。7月の「七夕」では、JF講座の受講生たちが「七夕」のお話の動画を見たり、短冊に願い事を書いたりしました。色とりどりの七夕飾りも作り、短冊とともに笹に飾りました。メインイベントは、織姫と彦星が年に1度会ったときの様子を、受講生が寸劇にして発表するものでした。ロマンチックなものから、夫婦げんかまで、ユニークな発表が続きました。

これまで、「絵手紙」「書初め」「七夕」と3回文化日本語講座を実施しましたが、この方向性でいいのか考えています。ブラジル、特にサンパウロには日系人も多く、東洋人街と呼ばれるリベルダージに行けば、日本食材、日本語の書籍、日本の小物などを手に入れることができます。日常的に日本食を楽しむこともできます。さらに毎週のようにどこかで日本祭りが行われており、押し花のワークショップから太鼓のショーまで、さまざまな日本文化に触れることができます。このような環境の中、当センターの文化日本語講座はどういう意義があるのか。文化事業とのコラボレーション?これだけさまざまな人材のいるサンパウロだからこそできる何か?うーん…名案が浮かびません。今後の大きな課題です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブラジルの日本語教育の質的向上と、学習者のすそ野拡大を図るべく、教師研修、カリキュラム・教材作成、学習奨励事業(スピーチコンテスト、中高生対象の日本語キャンプ、大学生対象の日本語研修)などを実施している。2012年度から日本語講座を開始し、現在は『まるごと 日本のことばと文化』の初級1、初級2、初中級までのレベルを8クラス開講している。ブラジル以外の南米の国にも出張し、教師研修も行う。
所在地 Av. Paulista 37, 2o. andar, CEP01311-902, Sao Paulo, SP
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年

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